第4章:ネムーニャの刺客

第12話:タイム&オレガノ

タイムと呼ばれた男は傲岸不遜の笑みを浮かべていた。

「マースくん、この人は」

「タイム……彼はネムーニャ帝国の魔法使い。僕が魔法学院の生徒だった頃の同期です」

「同期」

マースの隣にいるダミ子を見てタイムは微笑む。


「名乗ってやろう。俺はタイム。ネムーニャ帝国に仕える由緒ある家系オールド家の長男でありネムーニャ帝国魔法隊の一人!!」

「魔法学院在学中に何度も勝負をふっかけてきた厄介者です。負けず嫌いで自分の敗けを認めない」

だいぶあちら様と助手との間で温度差がある。


「でも実力はある、学院でも相当優秀な生徒でした」

「おいおい嫌味かよ」

挑戦的な視線でマースを見据える。


「在学当時も卒業後も学院創設以来ずっと首席トップに君臨してる奴は余裕があるな。 お前のお蔭で俺はずっと永遠の二番手って不名誉な称号を得たのに!」

「まだそんな昔のことを」

「マースくん。もしかしてこの人かなりヤバい奴?」


「ええ……それに、彼がいるってことは」



「ばあっ」


「!!」


いつ近づいたのか。

マースの目の前に少女が現れた。


「マース久しぶりぃ~」

「“オレガノ”!」


胸に飛び込む少女を見てマースは叫ぶ。

「この温もり。会いたかったぁ」

「おい、」


オレガノと呼ばれた少女はマースに身を寄せ恍惚とした表情を浮かべ彼を抱き締める。

ぐいぐいと身体を密着させる少女もまた黒いマントを羽織っている。ブロンドの髪はツーサイドに結われチェックのリボンが風に舞う。短めのスカートに足元はルーズソックスにゴツめのブーツ。


(ディルの言ってたギャルってこの子……?)


「近い!」

「きゃっ」


ベリッとマジックテープ剥がす宜しく抱きつくオレガノを剥がす。

「もう少し慎め君は」

「つれないところもステキ」


頬に手をあて悶える少女。


「そうだぞオレガノ! お前は恥じらいが足りん!!」

「兄さんは黙ってて!」


空から叱責するタイムにオレガノは舌を出す。


「きょ、兄妹?」

「オレガノはタイムの妹。学院当時から兄妹二人で共に行動することが多かった」

引っ付くオレガノを剥がしながらマースが答える。


「ディルの言ってた魔法使いの男女二人組……」


ということは。



「この二人が永眠病スリーピングホリックの開発に動き出したネムーニャの刺客か!」


「ご名答」


タイムが笑う。


「グゥスカ王国の者が永眠病スリーピング・ホリックの治療薬を作ると知って、我が国も対抗するべく材料集めに我々が任務を仰せつかったのさ」


手に持つ瓶を見せつける。

そこには【ナマケモノの爪の垢】と【世界で一番働き者の爪の垢】のラベルが貼ってあった。


「!! 私たちと同じ。もう二つ集めたのか!?」

「この調子なら我々の方が集まるのは先か。それに俺たちにはもう一つ重要な任務がある」


「もう一つ?」



「国を捨てた裏切り者の抹殺だよ」



言ってから一瞬だった。


タイムは瞬時にマースの背後に回り込むと頚部を手刀で叩き込む。


「グァッ……」

「マースくん!」


倒れ込むマースに腕をまわしそのまま肩に担ぎ込む。


片手には箒。どこかへ連れ去る気か。


「マースくんをどうするつもりだ!」

「あら。貴女も人のこと気にしてる場合じゃないんじゃない?」


「!」

耳もとで囁かれると同時に身体が地面に倒される。

胴の上にオレガノがのし掛かるように座り込みダミ子の首に手をかけた。


「っぅ……ッ」

「そんなに暴れたらもっと苦しくなっちゃうわよ」


視界の端でタイムに担がれたマースが空に連れ去られていくのが見えた。


(マースくん……!)


「こーら暴れるな」

「っーーッ!!」


首にかかる手の力が込められた。


ダミ子の意識はだんだんと遠のいていった。

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