第10話:薬剤師、漫画家アシスタントになる

「俺は週刊少年誌の連載をしててな。締切四日前なのにネームに時間かかっちまって清書ができてない。四日後の締切に間に合うようにお前らにも漫画原稿の仕上げを手伝ってほしいわけだ」


結局ディルの連載原稿を手伝うことになったダミ子たちは早速作業机に座らされていた。

アシスタントたちも興味津々で新入りの机周辺に集合している。おい締切間近だぞ。


「ネームとは?」

「んだよそこからかよ」

呆れたように腹をかきながら答える。

「ネームっつーのは漫画の物語ストーリーの流れとコマ割りを大まかに記したもののこと。それを軸に原稿へ清書してくんだ」

「なるほど下書きのようなものか」

「まァそんな感じだ。で、今からお前らにはアシとしてどれくらい使えるか試させてもらう」

「アシとは?」

「たぶんアシスタントのことですよ……」

こそっと耳打ちするマースに「なんでも略せば職人ぽいと思いやがって」と毒づくダミ子に「あ?」と舌打ちで返すディル。「ん?」と微笑むダミ子。相性悪めだ。


「んじゃ課題内容を発表するぞ」


デデドン! とディルが出した課題はこちら。


~これで君も名アシスタント!~


【課題】


・ベタ塗り


・トーン貼り(削り含む)


・人物のデッサンと背景のパース



……以上。ファイトだおd=(^o^)=b



端に描かれたイラストが無駄に上手くて気が散る。


「前に来た魔法使いの連中は天を仰ぐほど不器用でトーンは削れないベタははみ出すデッサンもパースもド下手くその最低な連中だったからな」

「酷い言われようだな」

「手伝ってくれたのに……」

「アレを更新しないように期待するぞ」

各作業机に原稿用紙とペン、その他諸々の道具(用途不明)が置かれる。

「ペンの使い分け具合も見たいから、人物デッサンはGペン、背景は丸ペンで描くように」


よーい……、

ストップウォッチを片手にディルが合図をかけようとするも、


「「なあ(あの)」」


「あんだよ?」

「「Gペンって何?」」

「あっさり更新したーッ!!」




結論から言うと二人とも酷い出来だった。特にダミ子。


「…………」

ディルは絵を前に固まっていた。


「……」

原稿用紙にはミミズのようにうねった何かが描かれていた。手足は第三関節までありバランス悪く、上の丸い部分(顔!)には震える筆圧の軟弱なへのへのもへじが。

「……!」

ベタは完全にはみ出していて髪の毛から顔にインクが垂れ目も瞳孔どころか全て真っ黒でホラーそのもの。ご丁寧に口にもベタが塗られ登場人物はもれなくお歯黒。

「……!」

背景のパースは家が傾いていた。

お決まりの三角屋根に煙突付きの家は斜めになっており何故か奥にいくほど窓が大きくなっている。

「……!」

他にも諸々あったが省略。

原稿用紙を掴む手がわなわなと震えディルはついに叫んだ。


「こんな世界住めるかーッ!!」

「いいじゃん自分が住むわけでもあるまいし」


しれっとダミ子が言うと「そういうもんじゃねェー!」と机を叩く。

「俺のキャラを案山子にしてんじゃねェ! 欠陥住宅に住ませるな! 俺のキャラをお歯黒おばけにしやがって貴様ァ!」


「ま、まあまあディルさん」


たしなめるマースだが彼の絵も相当酷い。

彼の原稿用紙にはマッチ棒みたいな人(?)が数人転がっていた。


「僕たちド素人なんで。上手くなるよう練習しますし、今は多目に見てもらえませんか」

「週刊は前の週とクオリティを比べられるんだよ。絵はとくにな。少しでも絵に差ができたら読者は混乱する」

「読者もそんなに真剣に読んでないって」

「貴様あああぁ!」

「二人とも落ち着いて~っ!」


ダミ子に掴みかかろうとするディルをマースとスタッフ一同で止め、とりあえず二人は基礎から学ぶため漫画を読むことにした。

もちろんディルの連載している漫画である。


「なんだこの漫画は」

単行本の一巻を渡され二人で読む。


「俺の代表作【デビルハーベスト!】だ。初連載にして大ヒット作なんだぜ!」


「なになに……」



【デビルハーベスト!】


《人々に芽生える悪の芽・デビルハーブを刈り取るため実家の農家を継ぐはずだった主人公“ハタケ”が天使の“タウエ”とバディを組みハーブハンターを目指すバトルアクションファンタジー!!》


「なっ。王道で燃えるだろ!?」


自信満々なディルに対しダミ子は冷めた目でパラパラページをめくり、

「草刈るだけなんて地味な漫画じゃん」

「草じゃない! デビルハーブだ! すっごく粗悪で凶暴なんだぞ!」

「ふぅん」

確かに怖そうな顔をした人面葉っぱが人々の頭に潜伏し暴走するのは怖さを感じる。


「なんか野蛮」

「少年漫画ってのはこういうもんだよ。少女漫画ばかり読むお嬢には刺激が強かったか?」

「いや私漫画自体読まないし……マースくんもだろ? って、マースくん?」


隣を見るとマースは夢中でコミックスを読んでいた。

目はきらきらといつになく輝いている。


「面白いですねこれ!」

マースが叫ぶ。

「戦う場面も迫力があってワクワクしちゃいますよ!」

瞳を煌めかせ興奮気味に喋るマースにダミ子は意外に思った。

「へえ意外。君もこういうのが好きなのか」

「あはは。僕、子供の頃から漫画は読んだことなかったもので……こんなに面白いものがあったんですね」

「へーお前見る目あんじゃん」


ディルがマースの肩を組む。

自分の作品が褒められたか心を許したそうだ。


「チュー太は将来有望だな」

「ちゅ、チュー太?」

「なんとなく小動物、ネズミっぽいからお前」

マースがネズミに変身することをディルは知らない。

勘が鋭いのは創造力豊かな漫画家故か。


「……それに比べてダミ公は」

「おいダミ公ってなんだ公って」

「お前もさァ、チュー太の人を素直に認める気持ちを見習えよ。デッサンだってお前よりはるかにマシだし。レベル段違いだぜ?」


「……なんだって?」

「だって本当のことじゃーん?」


意地悪そうに目を細め、


「ていうかお前がまずチュー太の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいんじゃね?」



ブチッ。


頭の血管が切れる音がした。


「ああそうかね。じゃあ私いなくても問題ないんじゃない? 愛しのチュー太くんがさぞ働いてくれるだろうし」

「ちょ、ダミ子さんっ」


ダミ子は踵を返し作業場を出ていった。



なにさ。

少しくらい絵が下手だって誤魔化しきくだろうに。こだわり強い頑固者!


「はあ」

ディルの作業場の隣の庭園。

その端でダミ子は膝を抱え座り込んでいた。

庭園の空気は忙しない村の喧騒と逆にまったりしている。

空をのんびり流れる雲を見て一人愛用ドリンクをちびちびと喉に流し込む。

こんな時でもドクダミンPは美味しい。

「漫画が描けるのがそんなに偉いかよ……ディルの奴……」

ちょっぴりだけ拗ねた。




「黄昏るにはまだ早い時間ですよ」

木の葉の揺れを見上げぼーっとしていると助手が上から覗きこんできた。

手には笹の葉でくるまれた小包みを抱えている。

「マースくん」

「はいこれ。差し入れです。ディルさんから」

「あいつから?」

「ダミ子さん抜け出してこっちはしっちゃかめっちゃかですよ。『猫の手よりまだあいつの方がマシだーッ』ってディルさん頭抱えてましたよ」

「……」


笹の葉の中にはおにぎりが二つ入っていた。不恰好な形から彼の手作りだろうか。

かじってみたら中には明太子が入っている。


「(美味い)」

「ディルさんにダミ子さんの好物聞かれて。魚介類好きでしたよね?」

「私が好きなのはエビだ」

「あちゃー! エビだったー」と口元に運ぶ彼のおにぎりの具はチーズが入っている。あの漫画家、いちいち人の好みに合わせて作ってるのか。

「……漫画家先生ディルとラブラブしてなくていいのかよ。お気に入りのチュー太くん」

「意地悪言わないでください」


隣の助手は困ったように笑う。


「珍しいですね。研究所でも仲間と揉めたことないのに」

「カモミールとはしょっちゅう憎まれ口叩き合ってるけどな」

「あれはじゃれあいでしょう」


もりもりおにぎりを頬張る。

明太子も悪くない。


「……ディルって見るからに熱血タイプじゃん。体育会系苦手なんだよ私。アレは自分のテンションを他人にも合わせることを強要するから」


さらにドクダミンPで喉を潤す。


「ぷはっ。少しくらい妥協しろってのこだわり強男の熱血漢め」

「まあまあ。人それぞれ譲れないこだわりってあるもんですよ」

「そんなもんか」

「そうですよ」


マースは言う。


「ダミ子さんだって薬作りには強いこだわり持ってるでしょ。ほら売れない発明品シリーズ。需要ゼロに等しいのに妥協許さないじゃないですか」


「あれは需要関係ない。私がやりたいからやってるわけで。見返りなど求めてやってない。好きだから……あ」

「でしょ?」マースは笑う。


「そういう情熱って人に言われて消せるものじゃないでしょう? 人それぞれ譲れないものがある。好きだから妥協できない。薬作りも漫画制作も。ディルさんは連載の質や読者の数、人気以前に自分の創る世界を誇りに思ってるんです」

「それが彼のプライド」

「はい」

「……私、あいつに悪いこと言ったかも」

「そう思ったなら作業場に戻りましょう。彼は良くも悪くも過去のことを気にしない性格ですし。それにダミ子さんいないと僕が心細いですよ」


助手は優しい笑顔を浮かべた。


「やれやれマースくんに諭されてしまうとは。上司なのに情けない」

「たまにはいいじゃないですか」


昼下がりの庭園で緑の空気を思いきり吸い込む。

「よし」

午後から作業再開だ。



「おう戻ったか」


作業場ではやつれ果てたディルとアシスタントたちが迎えた。この数時間で何があったんだ。

(こんなボロボロになっても好きなもののために頑張れるんだよな)

机にへばりつくディルのもとへ歩いていく。

「おいディル」

「……なんだよ」

「さっきは言い過ぎた。お前の好きなものを否定するような言い方した。悪かった」


これお詫び。

コト、と彼の机にドクダミンPを置く。


「なんだこれ」

「ドクダミンP。私が大好きな栄養ドリンクだ。好きなことに熱中した時飲むと頭が冴える。これで滋養強壮つけてくれ」

「日本語おかしくね?」

「と、とにかく。飲め。疲労回復効果があるから。アシスタントの皆さんも」

「これ飲んで頑張ってください」と机にはりつく屍たちにドリンクを配る。


せっせと飲み物を配るダミ子にディルは気まずそうに頭をかく。

「……まァ俺も言い過ぎたってのもあるしな。言い過ぎたのは俺も同じだ。謝るよ」

「ディル……」


「ありがたく貰うぜ」


ぐび、とドクダミンPを煽る。


「!? な! なんだこれは!?」


飲んだ瞬間、

カッと目を開きディルは手に持つ栄養ドリンクを凝視する。


「疲れがみるみるとれていくぞ!!

それに力みなぎってくる! 」


ディルに続きアシスタントたちも開眼しドリンクをぐびぐび喉に流し込む。


「本当だ!」

「元気モリモリ!」

「すげーなドクダミンP!!」

「ハツラツ~!!」


『めっちゃみなぎってくる~!』


ドクダミンPの効果は抜群だった。


ふふん。またファンが増えたな。

満足満足。


「うおおお! これで原稿かっ飛ばせるぜええええ!!」


残像を残すスピードでディルはペンを走らせる。アシスタントたちの目も燃えていた。

「よかったですね仲直りできて」

「私たちも頑張ろう」

ダミ子とマースも拙い手つきで原稿作業を続けた。


ちなみに二、三時間経過するとダミ子の画力はぐんと上がった。

ディル曰く『絵を描いた経験が浅いだけでのみこみは早く素質はある』らしい。

めっちゃ褒められた。へへん。


◇◇◇


「初日のわりによくやったな。お前らはあがっていいぞ。屋敷の奥に風呂があるから先に入ってこい」

「ディルたちは休まないのか」

「休む? バカを言え。これからが真骨頂じゃねェか。夜中の原稿作業、体力的精神的にすり減らされた自分がどれだけ限界に挑んでいけるか」


ふふふふふ……。

不気味に笑う危ない集団がそこにいた。

夜中も眠らず原稿を進めるとは恐れ入った。



お言葉に甘え作業室を出て風呂場に向かう。

長い板張りの廊下を進んでいくと奥に風呂場があった。男湯と女湯の暖簾がそれぞれかけられている。

「じゃあごゆっくり」

「早くあがった方は先に戻ってるということで」

「了解~」

マースと別れ暖簾をくぐると脱衣場があった。

「おお! 露天風呂!」

脱衣場を後にしスライド式の扉を開けると風呂はなんと外にあった。

「話で聞いたことがあるものの、実際入るのは初めてだな……」

湯につかりふうっと息を吐く。

温度はちょうど良い。湯船には柑橘類か黄色い果実がぷかぷかと浮かんで芳しい香りがした。

夜空には星が煌めき吹く風は涼しく今日の疲れを吹き飛ばしてくれる。

「しかし変わってるんだよな、ここ」

テツヤ村に来た時から思ったがここはどの国や町より変わったなものが多い。レンガでない家に変わった木、そしてこの露天風呂。

独特の文化を感じさせた。



「あーそれ【ジャパニカ】の影響だと思う」

風呂からあがりディルに聞いてみると彼は答えた。

「ジャパニカ?」

「極東にある島国さ。伝説の漫画大国といわれててな、大昔テツヤ村の住民がジャパニカを訪れた際感銘を受けて村にジャパニカの文化を催したらしい。家の屋根にカワラ。庭の木にマツ。露天風呂にはユズを浮かべる、といった感じで。ちなみにお前らが着てるそれは着物キモノな。風呂あがり用の簡易的なやつだけど」

「へえ~面白いなその文化」

「趣のある国ですねー。旅行とか行ったら楽しそう」


ね~。ほかほか。


二人でのほほんと花を飛ばしていると「気が散るからやめれ」とディルがぺしぺし浮かんだ花を落とす。

「それよかはよ寝ろ。朝も早いから」


仮眠室はそこな。

ディルが指差す方にはドアが横に二つ並んだような扉がある。

木製ではなく厚い紙でできたようなそれは、

フスマだ。横にずらせば開く」

椅子から立ちあがり二人の前に立ちフスマを開けてくれる。


部屋の中にマットレスらしきものが詰めるように敷かれていた。

「なにこれマットレス?」

布団フトン知らねえのか? お前らどうやって寝てんだよ」

「いや普通にベッド……」

「ベッドか。よくあんな落ち着かないので寝れるな。タタミの良さを知ったらもうあれで眠れないぜ」


タタミ?

この緑の床のことか。


たしかにほのかに芳ばしくどこか懐かしい良い香りがする。


「皆で布団くっつけて寝る“雑魚寝”もいいもんだぜ。大人数で寝るとイビキや歯ぎしりで悲惨なことになるけど。今日はお前ら二人だけだから静かだろ」



それじゃおやすみー。


ぴしゃん! と足でフスマを閉められた。


とたん闇。


「うわ暗っ」

「何か灯りになるもの……」


突然暗くなった視界に思わずマースの裾を掴んでしまう。

「っ」

一瞬彼の身体が小さく跳ねた。


マースは片腕でダミ子を支えながら空いた片腕で闇のなかを掻き分ける。空を這う手が二、三回闇を彷徨うと上から垂れる紐に当たった。

「……あ、これかな」

引っ張ると朝の夜明けを思わせるようなぼんやりとした淡い光が上で灯った。


「なにからなにまで違う文化だな」


マースからぱっと離れダミ子はさっそくフトンの一つにもぐり込む。


「うむ、寝心地は悪くない」

「そうですか」

「ベッドから落ちる心配もないしいいなこれ。タタミの香りも好ましい。癒される」

「それはよかった」

「しかし今日は慣れないこと続きで疲れたな。慣れてよかったものの明日も早い。疲れがとれればいいんだが」

「そうですね……」


「どうしたマースくん?」


返事をするマースはどこか気まずそうに落ち着かない様子をしている。


「えっ?」

「さっきから生返事ばっか。それにいつまでフトンの前で立っている」


ポンポンと隣のフトンを叩く。


が。彼はうつむくばかりでフトンに入ろうとしない。

薄暗くてよく分からないが少し顔が赤い気がする。


「大丈夫か? 顔が赤いぞ」

「あ、いえ大丈夫です……ていうか、なんか……その、これってこの位置のまま寝るんですかね」

「? そりゃ並べてあるのを乱す必要もないだろ」


「で、ですよね。でもちょっとフトンとフトンの距離が近いっていうか……その、」


「!」


ははーん?

そういうことか。


「思春期だな。照れてるのか」

「なっ! いや別にやましいこととか考えてるんじゃなくてっ」


赤面して首を振る助手の姿。


慌てふためく彼が可愛く面白くてダミ子の意地悪モードのスイッチがONになる。


「なんなら一緒のフトンで寝るか?」


未だフトンに入ろうとしないマースにダミ子はフトンから出て彼の前に立ちあがる。

そのままゆっくりと戸惑う彼の首に優しく腕を絡める。


「え……」


近くなる距離。

輪郭をなぞるように顎から頬にかけて撫でる。時折指にあたる髪は滑らかで心地好い。


「……」

眼鏡を外しているため彼の輪郭がボヤけている。

着物ごしに伝わる彼の体温は高い。触れる頬も熱い。

「えっいや、ダミ子さん……それは、だって、ダミ子さんにはセージ殿がいるし……だから、」

「……」


吐息が唇にかかる。

触れあうまで数センチ。


「ダミ……っ」


動物・・と一緒に寝るのって楽しそうだよな」



「えっ?」

「マースくんがネズミに変身すればぬいぐるみと同じ安心感を得られそうだな」


ニンマリと笑うダミ子にマースは豆鉄砲喰らった鳩よろしく呆けた顔をした後、次は茹でダコのように顔を真っ赤に染めた。


「からかったでしょう!」


「初々しくて眼福だったよ。ごちそうさま」

「本当に、本当に焦ったのに!」

「動物と一緒に寝たいのは本当だよ。おいで。枕元くるか?」

「もうノせられませんよ」

隣のフトンに入りマースはそっぽを向いて横になる。


あちゃー、怒っちゃったか。


「マースくん」

「……」

ダミ子は黙りこむ助手の背中を見つめ言う。

「なにかあったのならいつでも聞くからな」


ネムーニャのことで彼が何かを抱え込んでいるのは今朝の反応でわかった。


それでも“なんでもない”と笑ってしまう君だから力になりたいと思った。


穏やかで誰にでも優しい笑顔を向けるのに、同時に不安定さや危うさを抱える君を支えたいと思っている。


「無理には聞かないけどさ、助手が困っているときに頼りにされないのは切ないかな」


意地をはる背中に声をかけるとその背中がぴく、と動いた。


「……また、話します」

「うん。そのとき聞くね」


「おやすみなさい……」


「おやすみ」


それからお互い話すことなく二人は眠りに落ちた。


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