第3話
3
いつもなにかとうるさいツルギより、さいきん新しく入ったブロッコ先生のほうがなにかとやさしい。手のかかるネシャすら甘やかしていつもかわいがっている。
イズーの話し相手にもなってくれる。そんなこんなでイズーにとっては心地のいい日々がながれていたが、あいかわらずイズーはほかの生徒とはしゃべらない。一方的に話しかけられることはあるがうなずいてみせたりするだけだ。すでにしゃべれないものだとほとんどの子供には思われていた。
この施設にきてからというもの毎日が幸福にみちていたが、イズーにはただひとつだけ気になっている点があった。
イナカハイムの生徒は敷地内で自由にあそぶだけでなく、たまに敷地の外へ職員とともにでかける『』というイベントがある。
みんな外に遠足にいったりするのに、イズーだけ施設の外にいくのを許してもらえないのである。
つまりひとり校長とともに施設にのこるのだ。しずかに本が読めてよかったものの、とても強く疑問はのこった。
なぜ? なぜほかの魔物の子どもは施設の外に出ていいのに自分は出られないの?
それを問いただしてみたりもした。ミイラもツルギも答えない。
(私の家族は?)
それも、ふたりとも教えてくれない。「出せない」「言えない」「そういう生徒もいる」とばかり。
ある遠足の日毎度おなじくイズーが施設にのこっている。たまたま校長が来客対応をしていて、ブロッコ先生も施設に残っていた。
このやさしい先生ならたのみこめば教えてくれるかもしれないと、イズーはかしこく考えた。もうここに来てから一年ちかく経とうとしており、知恵がついてきている。
「どうしてもしりたいの?」
困った笑顔で、あんのじょうブロッコ先生は秘密をうちあけてくれた。
「だって私だけ出られないなんて、変でしょ。なにか病気があるわけじゃない」
イズーの言葉におかしいところはなくブロッコは悩んでいたがやがて口をひらく。
「それを教える前には、あることを知らなくちゃいけない。なぜあなただけ施設の外に出せないのか」
彼女はまわりにだれもいないことを確認したあと、声をおさえて言う。
「大昔に人間と魔物の戦争があったのはしってる? もう何百年も何千年も前よ」
「うん本で読んだよ」
「人間のほうはもう魔物をそんなに敵視してないの。でもね、魔物のなかにはとても長寿といって、ふつうの人間の寿命が百歳なのに何千歳と生きる魔物もいるの。つまりそのなかには人間を何千年もうらんでる者もいる。そのなかでむかしもっとも恐れられ暴力と破壊のかぎりをつくした恐怖のがいるの。その名は……ワリック・タカフ」
「……タカフ」
「ええ。あなたのお父さんの兄にあたる人よ。つまりあなたのおじさんね」
さすがのイズーもこれにはショックをかくしきれなかった。言葉を受け止めようとすればするほどめまいがしてできなかった。
「その人はね。人間との平和協定に最後まで反対していて、人間のみならず、人間と仲のいい魔物もおおぜい殺したの。あなたのお父さんとお母さんもそう。人と仲良くしようとしたために、ワリックに殺されてしまった」
「そんな……」
「これは秘密だからね。なぜ先生がたがだまっていたのかこれでわかったでしょう。あまりにショッキングで、あなたほどのおさない子にはまだ受け止めきれないからなのよ。だけど私にはわかる。あなたはかしこい子。それに勇気もある。ほうってはおけなかった……」
そこにツルギが来る。それ以上の話はできそうになかった。
ツルギはふたりがなにを話していたのかまでは気づいていないようだった。しかしイズーが遠足からほかの生徒がもどってくるまでさみしい思いをしたかもしれないと、いちはやくもどりそばにいてやろうとした。
「なにはなしてたの?」
イズーを食堂へつれていく途中、ツルギはたずねる。
「え? ああ、外の世界がどんなものなのか教えてもらってたの。ツルギ先生はなにも教えてくれないから」
「それはさあ言えないんだって。お前、最初に会ったときよりずいぶんかしこくなったな」
すこしやっかいそうにツルギは言っていた。かしこくなった、という褒め言葉がなぜかやけにイズーの心には暗くのしかかった。自分でもわからなかったが魔物の軍勢をひきいたという親族の存在を感じさせるからである。
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