第20話 ヒゲ殿大いに語る(ふた通りの家来)

ヒゲ殿は、力士と久次郎を連れ、神社の神楽殿の近くにある大きな石の上に二人を座らせた。


二人を座らせた後、ヒゲ殿が二人に問う。


『お主らも、虎之助同様に胤栄殿から槍術を習いたいか?』


『・・・・・。』


二人は沈黙したが、表情が二人の気持ちを代弁していた。ヒゲ殿は、言葉を続ける。


『もし、ワシから一本取ったら、ワシから胤栄殿に掛け合って、その者も修業して下さる様にお願いしてみる。』


『如何かな?。』ヒゲ殿の2つ目の問いかけに、『お願い致します。』と力士が先に返答する。その後に、久次郎も続く。


『了解した、それでは、今日から、模擬戦ではその気持ちを持って挑んでくるのだぞ!!』


『前田家にその人有りと言われておる、この槍の又兵衛こと、村井長頼が全身全霊をもって相手をしてやる。』




『ワシが秀吉様から、依頼を受けたのは、虎之助を御前試合迄鍛え上げる事だった。』


『十文字槍の使い手と戦うのであれば、十文字槍知らなければならない、だからあえてワシは胤栄殿を呼んだ。』『虎之助には、ワシと修業するよりもそちらが大事だと判断したのじゃ。』


『お前ら二人と、虎之助の実力の差は、現時点ではほぼ同レベルである。』


『ここから、3人に差が生まれるとしたら、それは自分の弱さとどう向き合えたかだとワシは思う。師の強さではなく、現状の自分とどれだけ戦えるかが、その差が実力の差に繋がるのじゃ。』


ヒゲ殿は、二人の表情を観ながら、話続ける。


『虎之助は、稀にみる大きな体躯をした男だ。戦場でも、きっと戦場でも勇猛に戦う武将になる筈だと思う。』


『戦場では、そんな男が敵軍の狙いの的になるのだ、虎之助は正に大きな的だ。虎之助の首を恩賞だと皆我先に狙うだろうよ。』




そう言うと、ヒゲ殿は自分の上半身の衣を脱ぎ、上半身裸になった。裸になったヒゲ殿の体には無数のキズが所狭しと並んでいた。


ヒゲ殿の主君利家も大柄であり、戦場では何時も多くの敵からの標的になっていたのである。


ヒゲ殿は、力士、久次郎が近い将来、彼が経験した地獄を体験するだろうと予見しているのであった。




『虎之助は、心根も優しい男だ。きっと戦場でも、お前らが傷ついたり、敵に討ち取られそうになったら、助けようとするじゃろう。』


『家来を持つ大将は、そういう男でなければならない、そういう男だから、家来は着いていく。良い大将じゃ。じゃが、良い大将程、早死にするものよ・・・。』


『大将を守れる家来になるか、大将に守られる家来になるか、選ぶのはお前らじゃ。』


『ワシらは武士じゃ、戦からは逃げられん、敵と戦う前に、自分の弱さと向き合わず、逃げる者は、戦場で敵と向き合った時に逃げたくなるものじゃ。お前らが、この修行中に存分と自分の弱さと戦い抜くことを期待する。』と最後に両手を上げ万歳をするような姿勢を取った後、


『終いじゃ・・。』と豪快な笑みを浮かばせ語り終えた。




『畏かしこまりました、宜しくお願い致します!!』と決意が固まった様に二人は大きな返事をするようにヒゲ殿へ今後の指導をお願いした。


最後に、忘れていた事を思い出したかのように、ヒゲ殿は久次郎へ


『小細工は、自分の弱さと戦い抜いた後にせぃ、久次郎、分かったな・・』と言うと、久次郎は深々と頭を下げた。




『ぶぇ~くしょん。』と、寒空に裸になったヒゲ殿のクシャミが鳴り響く。


修業の後半戦スタートを知らせる合図だった。


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