第90話 壁の外 スタンピードの備え

 ――翌日。


 俺たちは、聖サラマンダー騎士団のフレイル団長たちと一緒に威力偵察に出ることにした。


 いつものメンバーの五人――俺、ソフィー、シスター・エレナ、先生役のアシュリーさん、マリンさん。

 プラスして、フレイル団長と部下四人。

 合計十人の編成だ。


 魔の森で行動するには、ちょっと人数が多い。

 それでも、お互いの力量を知っておくには必要な行動だ。


 第一の目的は、魔の森に入って魔物の生息状況をフレイルさんたちが確認をすること。

 第二の目的は、俺たちがお互いの戦闘力や特徴を把握すること。


 地元である俺たちが隊列の先頭に立ち、教会を出発。

 サイドクリークの町の門をくぐる。


 すると活気のある声が聞こえてきた。


「おーい! 丸太持って来い!」


「そこはキツく縛れ!」


 城門の前に丸太で組んだ障害物を設営しているのだ。

 作業をしているのは、王都軍、聖サラマンダー騎士団、冒険者、町の職人だ。


 大きな丸太を担いでいる力持ちがいるな~と思ったら、ガイウスだった。

 ソフィーが力一杯手を振る。


「ガイウスのおじちゃーん!」


「おーう! ソフィーちゃん! リョージたちはダンジョンか? 森か?」


 ガイウスは丸太を下ろし、額の汗を拭った。

 俺たちは足を止め、ちょっとガイウスと言葉を交す。


「俺たちは魔の森だ。聖サラマンダー騎士団の人たちと偵察に行く。ガイウスは力仕事か?」


「ああ。冒険者ギルドの方針で、力のある冒険者はオーク対策の障害物作りだ。どうもオークが大量にわきそうだって話だからな!」


「そうか、この丸太の障害物でオークの動きを邪魔するのか……」


 ガイウスたちが作っている障害物は、丸太を組み合わせた柵状の物体だ。

 丸太で出来ているので頑丈だし重量がある。

 これくらいじゃないとオークの動きを邪魔できないのだろう。

 ただ、オークは怪力だ。

 人間の比ではない。


「ガイウス。オークは力があるけど、どうなんだ?」


「まあ、ちょっとした足止めだな。だが、ちょっとの時間が稼げれば、門の中に逃げ込めるヤツがいるし、魔法や矢を撃ち込むことが出来る」


「なるほどな。完璧に防げなくても意味があるってわけか?」


「ああ。そこの聖サラマンダー騎士団の提案だ。それからロープだな。昨日、練習したろ? あれもだ」



 昨日俺たちはロープを使った退避方法を練習した。


 サイドクリークの町は、周囲を高い壁に守られている。

 出入りするには、門を通る。


 スタンピードが発生したとわかったら、さっさと門を閉めなくてはならない。

 では、逃げ遅れた人はどうするのか?

 ロープを使って壁内に戻るのだ。


 今日もロープを使った退避方法を練習している。

 今日は、町の住人たちの番だ。


 壁の上に冒険者が立ち、壁の外にロープを放る。

 壁の外にいる住人はロープを体にからませ、しっかりと握る。


 すると、壁の上に立つ冒険者は、壁の内側に飛び降りるのだ。

 壁の外にいる住人は、するすると壁の上に引っ張り上げられる寸法だ。


 昨日、俺たちも練習したが、ソフィーが物凄い喜んでいた。

 遊んでいるわけではないのだが……。


 まあ、楽しいことは良いことだ!



 俺はガイウスに冒険者の動きを聞く。


「じゃあ、森やダンジョンに行っている冒険者はいないのか?」


「いるぞ。若い冒険者は薬草採取だ。スタンピードになったらポーションが、あっという間になくなるだろうからな。中堅は俺みたいに力仕事をするか、ダンジョンや森で魔物の間引きだ」


「間引き?」


「ああ。スタンピードが始まる前に、ちょっとでも魔物を減らしておくんだ」


「なるほどな! よく考えられているな」


「ババギルド長が割り振った」


「さすがだな。冒険者たちも、よく従うものだな」


 俺はババギルド長の手腕に感心した。


「じゃあ、俺はそろそろ作業に戻るぜ。森は気をつけろよ。見通しが悪いからな」


「ありがとう! 気をつけて行くよ!」


 ガイウスと別れ、俺たちは魔の森に向かった。

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