第六章 スタンピード

第80話 ソフィーの魔法が進化する!

 ――二か月後。秋。


 俺たち冒険者パーティー『ひるがお』は、サイドクリークの町近くのダンジョンに潜っている。

 今日は十五階層を探索中だ。


 ワラワラと湧いてきたオークの集団を、俺が投石で遠距離から削る。

 オークが接近して来たら、俺は棍棒をぶん回しオークを弾き飛ばす。


 五匹のオークを倒すと、すぐに『おかわり』だ。


 新たに六匹のオーク集団が近づいてくる。

 この十五階層は、オークの数が多い。

 片っ端から処理していかないと、オークに囲まれてしまう。


 移動速度を速めてオークの集団に捕捉されないようにするか、殲滅速度を上げてオークを倒して周囲を安全にするかの二択。

 俺たちは後者だ。


「リョージさーん! 下がってくださーい!」


 シスター・エレナが、戦闘中らしからぬ笑顔のままノンビリした声で指示を出す。

 パーティーリーダーは俺だが、戦闘中の指揮はシスター・エレナにお任せしている。

 シスター・エレナは細かな気遣いが出来るので、俺やソフィーのコンディション、敵の強さ、位置などを把握して的確な指示を出してくれる。

 さらに、柔らかい声で指示してくれるので、あせることなく対応が出来るのだ。


 俺はシスター・エレナの指示に大きな声で返事をする。


「了解です!」


 俺は素早くステップバックして、接近してくるオークの集団から距離を取った。


「ソフィーちゃん! 今ですよ!」


「びかびか!」


 シスター・エレナの指示を聞いたソフィーが雷魔法を放った。

 ソフィーが放った雷魔法は、強烈な光を放ちオークの集団に着弾。

 六匹のオークは一瞬で黒焦げになり、地面に倒れた。


「はい! 戦闘終了で~す! お疲れ様でした~!」


 シスター・エレナが、ニコニコ笑いながら戦闘終了を告げた。

 周辺から魔物を排除できたようだ。


 ソフィーがぴょこんぴょこんと笑顔で飛び跳ねる。


「勝った! 勝った! 勝ったよ!」


「ソフィーちゃん。魔法が上手になりましたね」


「うん! ソフィーは凄いぞ! さすが俺の娘だ!」


「えへへ!」


 俺とシスター・エレナは、ソフィーを褒める。

 戦闘が終ったらすぐ褒めることで、ソフィーのやる気を継続させるのだ。


 ソフィーの魔法は強力だが、まだ十歳の子供である。

 体力が尽きればウトウトするし、戦闘が続けば飽きてしまう。

 ソフィーを上手に『ノセる』のも重要なのだ。


 ソフィーが両手を伸ばして、俺にせがむ。


「おとーさん! 勝利のポーズ! シスター・エレナも!」


 ソフィーに促された、俺とシスター・エレナは勝利のポーズを決める。

 俺、シスター・エレナ、ソフィーは、トライアングルを作り、ソフィーが両手を高く掲げる。


「「「勝利だー!」」」


 解説しよう!

 勝利のポーズとは、ソフィーが考案したポーズである。

 戦闘終了後、お互いの健闘をたたえ合う意味で実行しなくてはならない。


「リョージさんたちは、仲が良いというか……何というか……」


「ふふ。いいじゃない。見ていて微笑ましいわ」


 アシュリーさんとマリンさんだ。

 二人は王都から来た若い神官だ。

 ソフィーに魔法の扱い方を指導してくれる。

 俺やシスター・エレナでは、攻撃魔法の指導は出来ないので、二人の存在は大変ありがたい。


 ソフィーの魔法技術は、この二か月で大きく成長している。

 発動時間が短くなったし、魔法を着弾させるコントロールも上がった。


 さらに雷魔法のバリエーションが増えた。

 ソフィーは三種類の雷魔法を使い分ける。



 ・びりびり!

 ⇒軽めの雷魔法。スタンガンのように敵に電気ショックを与えて硬直させる。


 ・びかびか!

 ⇒単体攻撃魔法。敵に雷を落とす。RPGでいうところの魔法サンダー。同時に複数の雷を発生させ、複数の敵に攻撃が可能。


 ・どーん!

 ⇒範囲攻撃魔法。巨大な落雷を発生させ、攻撃範囲を黒焦げにする恐ろしい魔法。ただし、発動まで時間が必要な上、かなりの集中力を要する。



 びりびり!

 ↓

 びかびか!

 ↓

 どーん!


 上記の順番で魔法が強力になる。


 魔法指導をしているアシュリーさんとマリンさんによれば、ソフィーは天才肌の感覚派魔法使いらしい。


 俺も思い当たることがある……。


 ある日、サイドクリークの町に嵐が来た。

 強烈な風雨と雷が町を襲ったのだ。


 俺、ソフィー、シスター・エレナは、ダンジョンからサイドクリークの町へ帰る途中で、移動販売車の車内で嵐に遭遇した。


 強烈な稲光と轟音。


 大人の俺やシスター・エレナが悲鳴を上げる中、ソフィーは目を大きく開いてジッと空を見ていた。


「ソフィー! 大丈夫か? 怖くないか?」


「おとーさん……」


「大丈夫だよ! 雷は背の高い木に落ちる。早く町へ帰ろう」


 ソフィーは何かに取りつかれたように空を見ていて、俺の言葉を聞いているのかどうかわからないほどだった。


 雨はひどくなり、土の道はぬかるむ。

 ワイパーが忙しくフロントガラスを往復し、雨を弾き飛ばす。

 昼にもかかわらず夜のように暗く、雨で視界は最悪だ。

 ヘッドライトをハイビームにしても移動販売車の手前しか見えない。


 俺は慎重に動販売車を進めた。

 すると大きな雷が目の前に落ちた。


 強烈な光。

 目の前が真っ白になった。


 光ると同時に『パァーーーーン!』という凄まじい音が鼓膜を殴りつけた。


「うわぁぁ!」


「きゃあぁぁ!」


 移動販売車の車内にいても、とても恐ろしく感じるほどの光と音に、俺とシスター・エレナは悲鳴を上げた。


 目の前で大木が真っ二つに引き裂かれ、雨の中にも関わらず引き裂かれた大木から炎が上がった。


 俺は震える手でハンドルを握り、何とか移動販売車を運転した。

 シスター・エレナをチラリと見ると、顔面蒼白だった。


 だが、ソフィーは目と口を大きく開いてボーッとしていた。


 規則正しいワイパーの音が車内に響き、フロントガラスを雨が叩く。

 稲光と轟音が続く。


 しばらくして、ソフィーがつぶやいた。


「おとーさん……。どーんだった……」


「えっ?」


「どーん……」


「どーん……? あっ……雷か? そうだな。雷が落ちた。凄い音だった。どーんだったね」


「うん。ソフィーわかった。どーん! なんだね」


「??」


「どーん!」


 次の日、ソフィーはダンジョンで範囲攻撃の雷魔法『どーん!』を発動させた。

 ダンジョンの地面は黒焦げになり、辺りにいた魔物は消し炭になった。


 俺とシスター・エレナは、あまりの強烈さにポカンと口を開けてしまい、魔法指導のマリンさんとアシュリーさんは、驚き目を見張った。


「なっ――!?」


「十歳……、十歳の子供なのに……、この範囲……、この威力……、末恐ろしい……」


 正直、二人はソフィーにちょっと引いていたな。


 そして、ソフィーは両手を上に掲げたポーズのままぶっ倒れた。

 魔法に込める魔力をコントロールしそこない魔力が切れてしまったのだ。


 この事件以来、マリンさんとアシュリーさんの魔法指導に熱が入った。


 ちなみに、離れたところにいたガイウスたち『豪腕』も被害を受け、全員髪の毛がアフロになってしまった。

 スマホンが壊れなかったのは、不幸中の幸いである。


「俺に対する挑戦か!?」


 ガイウスが頑丈で良かったぜ!


■―― 作者より ――■

お待たせして、ごめんなさい。

色々大変だったり、悩んだりとありました。


生きていくのは辛いから。

涙の先に希望があると信じたい。


うーん、昭和演歌ですね。


そんなわけで、連載再開します。

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