第60話 リックとマルテの成長

 ――午後三時。


 俺とソフィーが、精霊の宿の中庭にあるガーデンベンチでまったりしていると、ガイウスたちが帰ってきた。

 いつもは四時か五時頃に帰ってくるので、今日は早い帰還だ。


 ガイウスは俺を見つけると、リックとマルテの背中を押した。

 リックとマルテが、俺が座るベンチのそばまで駆けてきて、依頼書を差し出した。


「「依頼が終了しました! サインをお願いします!」」


 二人は元気一杯で、依頼を完遂した誇らしさを感じさせる表情をしていた。

 俺に対する反発はない。

 二人はプロとして、俺の目の前に立っているのだ。


 俺は少年少女の成長を間近に見て胸が一杯になった。


「ご苦労様でした。依頼完了です!」


 俺は依頼書にサインをして、両手で賞状を渡すように差し出した。


「「ありがとうございました! また、ご依頼をお願いします!」」


 リックとマルテは声を合わせて俺に礼を述べると、依頼書を手に持って走り出した。

 これから冒険者ギルドへ提出しに行くのだろう。


「ふう。よっこらせと」


 ガイウスが巨体を揺らしベンチに腰掛けた。

 口調は元に戻っている。


「ガイウス。お疲れ。ありがとう。リックとマルテのあれは、ガイウスの指導なのか?」


「おうよ! 指名依頼ってのは、リピートすっからな。キチンと報告。サインをもらって、お礼を言う。また依頼してくれと念を押す。これだけで、次も指名をもらえる可能性が増えるってもんよ!」


「ほうほう! さすがベテランだな!」


 俺はガイウスの話を聞いて素直に感心した!

 お客様を大切にする、仕事を大切にすることは大事だ。


「まあな。見習いや新人のウチにキチンと教えてやらねーと。ほら! 冒険者っつーのは、荒っぽいヤツが多いだろう? だからイキがる小僧も多いんだ。けどな。仕事の依頼を出してくれるのは、商人や領主関係が多い。やっぱ礼儀とかよ、挨拶とかよ、そういうとこを見てんだよ」


「うむ! やはり銀級冒険者の指導となると違うもんだな! リックとマルテは、ちゃんとしていたぞ。好感が持てた」


 俺がリックとマルテを褒めると、ガイウスは嬉しそうに頬を緩めた。


「だろ? まあ、あれだ。リックとマルテは、リョージに突っかかっていたが勘弁してやれよ。冒険者として鍛えられれば態度も改まる」


「そうだな。人は成長するからな」


「おうよ! ガキには責任ってヤツを与えて達成させねえと。いっちょ前にならねえからな。ガキが死ぬのを見るのは沢山だぜ……」


 ガイウスは、遠い目をした。

 これまで何人も若い冒険者を指導して、中には死んでしまった若い冒険者もいるのだろう。

 おっかない顔が泣きそうになっている。


 ソフィーがトコトコと歩いてきて、ガイウスが座るベンチによじ登る。

 そして、ソフィーはガイウスの頭を優しく撫でた。


「ガイウスのおじちゃん。元気出して」


 ソフィーはガイウスの悲しい気持ちが分かったのだろう。

 ソフィーは優しい子だ。


「ガイウス。待ってろ。今、コーヒーを淹れてくる。良い豆が手に入ったんだ」


「おう! そいつはご機嫌だな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る