第30話 領主屋敷への道中

 ――翌日の午後。


 シスターメアリーが、領主と面会することになった。

 午後に領主と面会予約が取れたそうだ。


「リョージさんも一緒に来て下さいな。私は商売のことは専門外なので、リョージさんがいて下さると心強いです」


「わかりました。同行しましょう」


 領主つまりこの町のトップに会うので、俺はワイシャツの上からネクタイを締めた。


 移動販売車の助手席にシスターメアリーを乗せ領主屋敷へ向う。

 領主の屋敷は、サイドクリークの町の東側にある。

 サイドクリークの西側には魔の森が広がっているので、領主屋敷はサイドクリークの中でも安全な地域に立地している。


(色々と考えて町づくりをしているんだな……)


 領地経営や町づくりも面白そうだなと考えながら移動販売車を運転する。

 シスターメアリーはいつもの笑顔で、これから領主に会うというのに気負うところは全くない様子だ。


 昨晩、商業ギルド長ヤーコフを怒鳴りつけた件といい、今の態度といい、シスターメアリーは意外と肝が太いのかもしれない。

 それとも、シスターメアリーは、結構高位の聖職者なのだろうか?


 俺は色々気になってシスターメアリーに質問してみることにした。


「シスターメアリー。昨晩の商業ギルド長の件ですが……」


「私もビックリしましたわ! あんなガラの悪い男たちを引き連れて乗り込んでくるなんて! それでお金を寄越せでしょう! 信じられません!」


 シスターメアリーは憤慨している。

 まあ、そりゃそうだよな。

 やっと貧乏生活から脱出と思ったら、商業ギルド長ヤーコフが乗り込んできて金をせびられたのだ。


「これは確認ですが……、以前から商業ギルドともめていたのでしょうか?」


「いいえ! 接点は全くありませんでした。話したこともありません!」


「そうなんですね。では、商業ギルドにお金を払う必要性はあるのでしょうか?」


「ありませんよ! 商業ギルドが教会に口出しするなんて!」


 シスターメアリーは、かなりお怒りだ。

 どうにも力関係や権利関係が元日本人の俺にはよく分からない。

 シスターメアリーに基本的なところを教えてもらおう。


「シスターメアリー。私は迷い人なので、この国のことがよく分からないのです。商業ギルドとは、どんな組織なのでしょうか?」


「商業ギルドは、商人が所属する大きな組織です。国をまたぐ組織なので、大きな影響力があります。領主に代って商業税の徴収を行うこともあるそうよ」


「では、精霊の宿も商業ギルドに所属しないと不味いのでしょうか?」


「いいえ。教会は不入の地なのです。何人も侵してはならないのです。領主も、商業ギルドも、教会に干渉することは出来ません」


 俺はやっと理解が出来た。

 教会は非常に独立性の強い場所なのだろう。

 だからシスターメアリーは、商業ギルド長ヤーコフに強気で対応出来たのか。


「なるほど……。領主といえども、教会の運営に立ち入ることが出来ないから『不入』ですか……」


「そうですわ。どこの国も教会に税はかけていません」


 ははあ、なるほど。

 日本でも宗教法人の宗教活動は無税だったな。


「宿屋の経営も無税で良いのでしょうか?」


「多分、大丈夫だと思いますよ。教会本部は信者に色々販売していますが、税金を払っていると聞いたことがありません。その辺りを領主様に確認し、商業ギルド長ヤーコフの非道を訴えるのです!」


「なるほど」


 俺は他にもシスターメアリーに質問した。


 商業ギルド、冒険者ギルド、教会は、独立した組織で、それぞれ干渉することはないそうだ。

 精霊教の教会は王都に本部があり、国王や貴族への影響力が結構強いらしい。


 では、領主の力が弱いのかというと、そんなこともなくて、領地の司法権を有し軍事力を振るえるのは領主だけであり強力な騎士団を抱えているそうだ。


(色々勉強になるな……)


 シスターメアリーから学び取るうちに領主屋敷に到着した。

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