第三章 商業ギルドに気をつけろ!

第22話 おっさんたちの朝は早い

 翌日、俺は早起きした。

 なんと朝四時起きだ。


 なぜ、そんなに朝早く起きるのか?

 宿泊客である冒険者の朝は早いからだ。


 ガイウスに聞いたのだが、冒険者は暗いうちに起きて、日の出とともに活動を開始するそうだ。

 日の出より営業ってヤツだな。

 当然、宿を出るのも朝早く暗いうちに出発する。


 教会の客間を出て、俺は井戸へ向かう。

 外に出ると、まだ、辺りは暗い。


 だが、精霊の宿の台所の方から音がする。

 宿泊した冒険者が朝ご飯を作っているのだろう。


 俺は急いで井戸から水を汲み顔を洗う。

 井戸から汲んだ水は冷たくて気持ちが良い。

 目を覚ましてくれる。


 急ぎ足で移動販売車に入り朝食をみつくろう。

 焼きそばパンと牛乳パック(小)を、買い物カゴに放り込む。


 シスターメアリーとシスターエレナ分も持っていこうと思いつく。

 ミックスサンドと牛乳パック(小)を二つずつ買い物カゴに入れた。


 精霊の宿の受付に座り、焼きそばパンを牛乳で流し込む。

 この忙しい感じは、嫌いじゃない。

 さあ、来い! バッチ! 来い! と気合いが入り、仕事モードに入っていく。


 焼きそばパンを食べ終わると、シスターメアリーとシスターエレナがやって来た。


「シスターメアリー、シスターエレナ、おはようございます」


「おはようございます!」


「おはようございます。リョージさん。早いですね!」


「ええ。もう、朝食の準備をしているお客様がいるので、もう少ししたらご出発だと思います」


「まあ、それは大変!」


 シスターメアリーとシスターエレナは、早起きに慣れているようだ。

 受け答えはちゃんとしているし、表情もシャンとしている。


 俺はミックスサンドと牛乳をお二人に差し出す。


「朝食です。よかったら召し上がって下さい」


 シスターメアリーとシスターエレナは、顔を見合わせて『どうしましょう?』と考えている。

 俺はお仕事モードのテキパキした口調で、二人に指示を出した。


「これから忙しいと思うので、今のうちに腹に入れておいた方が良いですよ。孤児院の子供たちは、まだ寝ていますよね? 子供たちの手伝いは期待できないので、朝は私たち三人で仕事を回さなくちゃいけません」


 俺の言葉を受けて、シスターメアリーとシスターエレナがハッとした。


「そうですね。リョージさんのおっしゃる通りね! 遠慮なくいただくわ!」


「いつもは孤児院の子供たちと一緒に食べているのですが……。忙しくなるなら先に済ませてしまった方が良いですね!」


「どうぞ! どうぞ! 遠慮しないで!」


 二人は上品に美味しそうにミックスサンドを食べ、牛乳をストローで飲んだ。


 空腹だとミスをする。

 メシは食える時に食えだ。



 ――四時半になった。

 三人とも食事を終えて、受付にスタンバイ。

 若い冒険者五人組がチェックアウトだ。


「ご利用ありがとうございます!」


 笑顔でカギを受け取ると、リーダーの赤髪君が笑顔を返してくれた。


「きれいで居心地の良い部屋でした。また、来ます」


「お待ちしています! 行ってらっしゃい! お気をつけて!」


「ありがとう!」


 カギを木箱に戻し、宿帳にチェックアウトと記載する。


「こんな感じでお客様のお見送りをしましょう。カギの番号で部屋番号が分かるので、宿帳に記入して下さい」


「なるほど。分かりました」


「はい! 大丈夫です!」


「さあ、次が来ましたよ!」


 朝のラッシュだ!

 俺たち三人は、チェックアウト業務を必死に行った。



 *



 あっという間に朝十時。


 お客様を送り出し、孤児院の子供たちの朝食を作り、客室の清掃を子供たちと一緒に行う。

 朝からエンジン全開で忙しかった。


 全然スローライフじゃないよね……。

 最早スローライフ詐欺だ!


 それでも子供たちの食事事情は早くも改善されている。

 今日から昼食が出るのだ!


「良かった! 良かった!」


 俺は井戸の側で、ビニール袋に入ったゴミを広げる。

 空き缶とプラゴミだ。

 汚れがついていると匂いがキツくなるから、洗ってきれいにしておかなければ……。

 こういう日本的生活習慣は、抜けそうにない。


 俺は井戸から水を汲んで、ビールの空き缶をすすぎ洗いする。


 冒険者たちの飲酒マナーは非常に良かった。

 大騒ぎをせず缶ビール一本か二本を飲むと、すぐに寝てしまった。


 今朝の様子を見れば納得だ。

 早く起きて暗いうちから活動する。

 さらに魔物相手に戦うのだから命がけだ。

 深酒などして動きが悪くなったら命に関わるのだろう。


 俺は色々考えながら空き缶洗いに精を出した。


「リョージ……何してるの?」


 ソフィーがやって来た。

 俺がしている空き缶洗いを不思議そうに見ている。


「ビールの空き缶をきれいにしているんだよ」


「どうしてクリーンを使わないの?」


「クリーン?」


「クリーン」


 俺は手を止めてソフィーを見た。

 クリーンって何だ?


「ソフィー。クリーンって何?」


「魔法。きれいにする生活魔法だよ」


「えっ!?」


 ソフィーの口から飛び出した『魔法』に、俺は驚き目を見張った。


 あるんだ!? 魔法!?

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