震憶~過去と現在、そして未来へ~

九戸政景

プロローグ

「ん……」



 俺は目を開けた。その瞬間、外から差し込む日差しが目に入り、その眩しさに軽く目を瞑る。



「朝……あ、そういえば今日って3月11日か」



 ふとそんな事を考え、それと同時にうっすらとした恐怖を思い出した。今となってはもう過去の話だが、現在進行形の話でもある事についての恐怖。今日のような日くらいでもないともう誰も話題にはしないけれど、ある地域の人達、且つ経験をした人達にとって永遠に心に刻まれた恐怖。それが俺を襲った恐怖の正体だ。



「……思えば、もう十年近くも経つんだな、あの時から」



 その時に生まれた人でももう小学校を卒業するくらいの月日が流れたのだと改めて感じたが、今のようにふとした瞬間にその恐怖を思い出す。それはそれだけ辛かった事を示しているし、復興なども進んでいって元の生活に戻っていった中でもちょっとしたきっかけで思い出す事だってある。トラウマとまではいかないが、多くの人の心に傷を残した事は間違いないし、それを語り継いでいかないといけないことだって間違いないのだ。



「……そうだ。せっかくだから、あの時について色々考えながら街を巡ってみるか。今日は特にやる事もなかったし、ただ何もしない一日を過ごすよりはずっとマシだろうしな」



 それをしたところで何かがあるわけでもない。けれど、今日この日にそれを思い出したのはきっと何かあるのだ。だからこそ、思い出しながら今とあの時を比較していこう。そうする事で何か見えてくる物があるのかもしれないから。



「そうと決まれば早速起きないとな。時間は有限だ、ボーッとしてたらすぐに時間なんて過ぎ去ってしまうからな」



 独り言ちた後、俺は布団から身体を出し、軽く身体を上に伸ばした。そして立ち上がってから朝食の準備をするために台所へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る