第203話:それじゃあさようなら(ヒロ視点)

「な、何を言ってんだよ……? 俺の事が好きだったって……?」


 俺は紗枝の言葉をすぐに理解する事が出来なくて……声を震わせながらそう返事を返すだけが精一杯だった。


 そして紗枝はそんな俺の変な様子を見て……何だか物悲しそうにしながらこんな事を言ってきた。


「さっき私は雅君が好きな理由を優しくて素敵な男の子だからって言ったわよね。だけどヒロもさ……昔は物凄く優しくて素敵な男の子だったのよ?」

「……え? 俺が優しくて素敵な男の子だった……?」

「うん、子供の頃のヒロは本当に人を思いやる素敵な心を持っていたのよ。私はその頃のヒロの事が凄く好きだったの。今はもうだいぶ変わっちゃったみたいだけどね……」

「え……い、いや……俺は昔から全然変わってないぞ? な、何を言ってんだよ紗枝?」

「……ううん、そんな事ないわよ。ヒロは凄く変わっちゃったわよ」


 紗枝は物悲しそうな表情をしながらそう言ってきた。そしてそのまま俺の目をじっと見つめながら続けてこう言ってきた。


「ねぇ、ヒロは覚えてるかしら? まだ幼かった頃の私は身体が小さくて運動も全然出来ないし、内気な性格も相まって友達なんて全然いなかったわよね? でもそんな時にいつもヒロは内気な私と毎日仲良く一緒に遊んでくれてたし、私が怖い目に遭いそうになったらいつもヒロは私の事を守ってくれたよね?」

「え? って、あぁ、確かに紗枝にそんな時期もあったな。俺にとって紗枝は大切な幼馴染だし、一人ぼっちにさせるのは可哀そうだなって思って、あの頃は紗枝を誘って毎日一緒に遊んでたっけ」

「うん、そうだったよね。それに私は泣き虫だったからしょっちゅう泣いていたんだけど、そんな時はいつもヒロが気遣って私の事を慰めてくれたりもしてくれたよね。あの頃のヒロは誰よりも優しくてカッコ良くて本当に素敵な男の子だったわ。だから私はさ……そんな優しくて素敵だったヒロの事が好きだったのよ……」

「さ、紗枝……」


 紗枝はそんな昔の思い出を懐かしそうに語ってきてくれた。でも紗枝が俺を“好きだった”と過去形で話してるのは……今の俺には凄く辛く感じてしまった。


「それからしばらくして私にも同性の友達が少しずつ出来るようになっていって、私はヒロ以外の友達とも遊ぶ事が増えていったけど……それでも私達は仲の良い幼馴染として今までずっと一緒に過ごしてきたわよね。一緒にご飯を食べたり、遊びに出かけたり、冗談を言い合ったり……本当に楽しく過ごしてきたわよね」

「あ、あぁ、そうだな。紗枝と毎日色々と楽しく過ごしてきたよな」

「うん、そうだよね。あの頃は本当に楽しい思い出ばかりだし、それにあの頃のヒロは本当に優しくて素敵な男の子だったわ。そしてあの頃のヒロだったら……今のヒロみたいに他人に対して誹謗中傷めいた酷い事なんて絶対に言わなかったよ……」

「え……? い、いや、それは……」


 そう言って紗枝はまた物悲しい表情を俺に向けてきた。そしてその紗枝の表情からは……俺に対して失望したような雰囲気も感じてしまった。


(な、なんでだよ……なんでそんな顔で俺の事を見てくるんだよ……)


 俺は紗枝にそんな失望した表情を向けられる理由がわからなかった。だって俺は紗枝のためを思ってあの不良と付き合うのは止めろって言っただけなんだ。俺は紗枝の事を思ってそう言っただけなのに……。


「……まぁ別にね、私に対して酷い事を言うんだったら百歩譲って良いと思うの。そりゃあ私に酷い事を言ってこられても普通に傷つくけど……まぁでも私達は幼馴染という関係性があるから別にそういう事を私に言ってきても我慢はするわよ。でもね、関係性の無い人に対して酷い事を言うなんて最低な行為よ。私はそういう酷い事を言うような最低な人は好きじゃないわよ。ううん、もっと正直に言うけどそういう人は私……大嫌いよ」

「えっ……さ、紗枝……」


 紗枝は俺の目をしっかりと見つめながらそう言ってきた。紗枝は明確に俺の事が“嫌い”だと言ってきたんだ。俺は慌てて弁明する事にしていった。


「い、いや、それは……ご、誤解なんだ! た、確かに俺はアイツに対して酷い事を言ったかもしれないけど……でもそれは紗枝の事が心配だから少し強い口調を使ってそう言っただけなんだ! そもそも俺はそんな酷い事なんて生まれてから今まで一度も言った事ないんだよ! だから俺は昔から全然変わってないって! だ、だから……そんな唐突に俺の事が嫌いだとか言うのは止めてくれよ……!」

「え? 今まで一度もって……ヒロは今まで一度も“誰”に対しても酷い事を言った事ないって言うの? 陰で隠れてコソコソと“誰か”の酷い悪口とか言った事も無いってこと?」

「あぁ、そんなの当たり前じゃん! アイツに酷い事を言ったのは今回が初めての事だし、他の誰に対してもそんな酷い事を言った事は一度たりともないよ! 陰でコソコソと悪口を言うのだって俺は嫌いだからそんなの絶対にした事ないよ!」

「……っ……」


 俺は紗枝に向かって高らかにそう宣言をしていくと、何故か紗枝は凄くビックリとした表情をし始めていった。でもすぐに……。


「……そっか。ヒロは自覚が無かったんだね……」

「え? な、なんて言ったんだよ? よく聞こえなかったんだけど……」


 それからすぐに紗枝は顔を下げながら何かを小さくポツリと呟いていった。俺には紗枝の言葉が聞こえなかったので、俺は聞き返していってみたんだけど……。


「ううん。何でもないわよ。でもこれでハッキリしたわ。俺が好きだった頃のヒロはもう何処にも居なくなったんだね。それがわかっただけで私は十分よ。本当に残念だけどね……」

「え……? い、いや、何いってんだよ? 俺は全然変わって無いって! そんな悲しい事言うなよ!」


 紗枝はまた物悲しい表情を浮かべながら、今度は完全に俺の事を拒絶し始めてきた。俺はこんな対応を紗枝にされたのは初めてだから……俺は焦ってそう弁明をしていった。


「ううん。ヒロは凄く変わっちゃったよ。だって昔の私達だったらこんな酷い口論にはならなかったもの。そしてこれはきっと……私達が幼馴染という特別な間柄だったこそ起きてしまったんだと思うの。だからもうさ……私達はこの幼馴染という間柄から……一度卒業しましょうよ」

「え……? い、いや、何いってんだよ? 幼馴染から卒業ってどういう意味だよ?」

「言葉通りの意味よ。きっとヒロはこの幼馴染という間柄が凄く心地良くてさ、それでついつい酷い事とかも簡単に言えるようになっちゃったのよ。幼馴染だから何でも許してくれるっていう風に思い違いをしちゃってね……」

「え……? い、いや、そんな事は……」


 いや……確かに俺はそんな事を思っていた。紗枝は幼馴染の俺の事をどんな事があっても最終的には許してくれると思っていた。


 だって今まで紗枝との勉強会をサボったり、紗枝との約束を破ったり、紗枝がくれた本を読むのを忘れたりしても……いつも紗枝は最終的には全部許してくれてきた。


 だから今回も紗枝はいつも通り俺の事を許してくれると思ってたから、俺は葛原の事をひたすらと悪く言ってたという思いは確かにあった。


 だけどそんな俺の思惑を紗枝はしっかりと見抜いていたんだ……。


「だからね……私達がこのまま幼馴染の関係でいるのは良くないと思うの。お互いに成長出来ないと思うの。だからさ、私達はもう幼馴染という関係から卒業して……これからはお互いに別々の道を歩みましょうよ。それがきっとヒロのためになると思うからさ……」

「えっ!? い、いやだよ! そ、そんな……そんな悲しい事を言うなよ! も、もっとちゃんと話し合えば分かり合え――」

「ううん。私達の話はもうこれで終わりよ。今までありがとう。これからは一人でも素敵な大人を目指して頑張っていってね。それじゃあね、ヒロ……」

「えっ!? い、いや、ちょ、ちょっと待ってくれよ……お、おい、紗枝ってば……!」


 そう言って紗枝は俺の決死の呼び止めにも応じず一人で帰って行ってしまった。それは明確に俺の事を拒絶した証だった……。


 こうして俺はこの日、大好きだった女の子に振られてしまい……さらには“幼馴染”という大切な称号すらも失ってしまったのだった……。


「……な、何でだよ……俺は紗枝の事が好きだったのに……それなのに……何でこんな結末になっちまったんだよ……うぅ……」


 俺はそう呟きながら一人で涙を静かに溢していった。そしてその瞬間に俺は今までの紗枝との思い出がどんどんと頭に蘇ってきた。


 紗枝とは物心がつく前からずっと一緒だった。幼稚園も小学校も中学校も高校もずっと一緒に育ってきた。


 子供の頃から毎日一緒にご飯を食べたり、二人きりで遊んだり、誕生日を祝い合ったり、バレンタインにチョコを貰ったりと……本当に色々な事を紗枝と一緒にやってきた。


 そ、そうだよ……俺と紗枝は子供の頃から今日までずっと仲良く一緒に過ごしてきたし、俺達は最高に仲良しの幼馴染だったはずなんだよ。だから俺達の仲は絶対に誰にも負けないはずだったんだ。


 それに幼稚園の頃には紗枝は俺と結婚するって約束もしてきてくれたのに……。


 それなのに……それなのに……。


「そ、それなのに……それなのに……俺じゃなくてあんな不良男と付き合うなんて……そんな……うう……うぁ……あぁ……うぁあああああああっ……」


 俺は今までの紗枝との楽しい記憶を思い出しながら大粒の涙を流していった。俺の方が絶対に紗枝を幸せに出来るはずなのに……どうしてなんだよ……。


(どうしてなんだよ……どうして紗枝は俺じゃなくてアイツを取ったんだよ……全然意味がわからねぇよ……)


 俺には紗枝が俺じゃなくてあんな不良男と付き合う事になってしまった理由が全然わからなかった……。


 そしてさらに紗枝に“幼馴染”という大切な関係を捨てられてしまった理由も俺には全然わからなくて……結局俺には何もわからず、そのまま一人で立ち尽くして涙を流し続けていったのであった……。


―――――――――

・あとがき


少し遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。


昨年の一月に『NTR不良男』を投稿を始めましたが、本日までエタる事なく投稿し続ける事が出来て本当に良かったです。


ここまで一年間投稿を続ける事が出来たのはいつも読みに来てくれている読者の皆様の応援のおかげです! いつも本当にありがとうございます!


そしてこれからも読者の皆様のためにしっかりと完結に向かって最後まで書ききっていきますので、今後とも応援して頂けると嬉しいです!


それでは本年もどうぞよろしくお願い致します!

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