第5話:メインヒロインに色々と叱られてしまう

 その日の放課後。


「ふぅ、今日の授業はこれで終わりか」


 という事で俺は幸村に言われた言葉をしっかりと守り、最初から最後までサボる事なく真面目に授業を受けていった。まぁ元のクズマだったら一限目から余裕でサボっていたんだろうな。


「いやでも流石に疲れたなー。ってか高校の授業ってこんなに難しかったっけ?」


 この世界に転生する前の俺は大学生だった。だから高校の授業はちゃんと一度は受けた事があるはずなんだけど、でも俺は既に高校授業の内容なんて忘れてしまっているようだった。これはちゃんと勉強していかないと授業のついていけなくなりそうだな……。


「はぁ、どうやら色々とやらなきゃいけない事がありそうだな……」


 俺はため息をつきながら学生鞄に教科書類をしまいこんでいった。授業を受けただけなのに何だか想像以上に疲れてしまったし、今日はもうさっさと帰ろう。


「ちょっと」

「……ん?」


 俺が学生鞄に教科書類をしまいこんでいたその時、唐突に後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。なので俺はその声が聞こえてきた方向に顔を向けてみると、そこにはヒロインの幸村紗枝が立っていた。


「あ、あぁ、幸村、か……」


 悪役NTRクズ野郎のクズマとしては主人公とヒロインを不幸な目に遭わせたくないので、あまり声とかもかけたくないと思っていた。だから俺はこのままヒロインである幸村の事をガン無視してそのまま帰っても良かったんだけど……。


(でもここで無視したらこのヒロインは絶対に俺に絡んで来るからなぁ……)


 幸村紗枝は品行方正かつ真面目な女子生徒であり、そしてこのクラスの学級委員もしている優秀な子なんだ。


 だから幸村はクズマみたいな不真面目な不良の事をとても嫌ってはいるんだけど……でも幸村は真面目な学級委員だからこそ、クズマのような不良にも物怖じせずに話しかけてくるんだ。


 そしてクズマが悪い事をしていたらちゃんと叱ってきたりする唯一の女子生徒なのであった。


(でもそんな性格だったからこそ……クズマに無理矢理犯されちまうんだよな……)


 幸村がクズマの事を嫌っていたのと同様に、実はクズマも幸村の事を非常に嫌っていたんだ。クズマが幸村の事を嫌っていた理由は単純に口煩い女だったからだ。


 普段のクズマは口煩いヤツの事なんて全員無視するようにしていたんだけど、でも幸村だけは何度無視してもクズマの事を注意しにやってくるのだ。


 だからクズマは内心で物怖じしない幸村の事をかなりうっとおしく思っていたんだけど……でも幸村の容姿はとても可愛く、それにスタイルも抜群に良い女だった。そんな綺麗な女の事をクズマは見逃す訳もなかった。


―― そんな容姿の良い女が俺にちょっかいをかけて来るんだったら……はは、身体でわからせてやらないとなぁ?


 という事でそれからクズマはそんな口煩い幸村の事を腹いせに無理矢理犯す計画を考えるようになる……というのがエロゲ本編の導入部だった。


「……どうした、何か俺に用か?」


 だから俺としては幸村の事を無視するという選択肢は無かった。クズマが幸村の事を無視しつづけたからこそエロゲ本編が始まってしまったようなものなのだからさ……。


「アナタだけ今日中に提出しないといけないプリントを出してないわよ。それちゃんと提出してから帰りなさいよ」


 幸村はジロっと睨んだ表情をしながら俺にそう言ってきた。クズマの記憶の断片を辿ってみると、どうやら今月の初めに進路調査票のプリントが配られていたようだ。おそらく提出しないといけないプリントとはそれの事だろう。


「あー、そういえばそんなプリントがあったな。進路調査票だっけ?」

「えぇ、それよ。学級委員の私が皆の進路調査票を回収して先生に届けに行く事になってるんだから早く提出しなさいよ」


 どうやら幸村はクラスの学級委員として俺に注意をするために呼び止めて来たようだ。


「あぁ、そうだったのか。すまん、それは悪い事をしたな。でも悪いんだけどその調査票ってやつ今日持ってきてねぇんだわ。だから担任には俺の方でちゃんと謝っておくから、幸村は俺の分は抜きにして提出してくれていいぞ」

「……えっ? そ、そう……?」


 俺は幸村に向けて頭を深く下げながら素直に謝っていった。するとジロっと睨んでいた幸村は一転してビックリとしたような表情をしだしていった。


「……な、何だか意外ね」

「……ん? 何がだよ?」

「いや、だっていつもなら私が幾ら注意しても“しらねぇよブス!”って怒鳴りながら帰ってくのに……もしかして何か変なものでも食べたの?」

「いやそんな訳ないに決まってんだろ。朝にも言ったけどちょっとは真面目になろうと思っただけだよ。ほら、もう俺達も高校二年なんだしさ」

「ふ、ふぅん? そうなの?」

「あぁ、そうなんだよ。だからこれからは心を入れ替えて真面目になってみせるからさ、だから今までの事は許して貰えると助かる。あっ、それとさ……今まで何度も“ブス”って悪口を言ったりして悪かったな。お前はブスなんかじゃねぇよ、普通に綺麗な女だよ」

「えっ……ふえぇっ!?」


(あ、しまった)


 俺にとってもメインヒロインの“幸村紗枝”はめっちゃ大好きなヒロインだったからつい本音を口走ってしまった。いや普通に気恥ずかしい気持ちがどんどんと溢れ出てきてしまっている。


「そ、それじゃあ担任に謝って来るからもう行くわ。それじゃあな」

「……えっ? あ、えぇ、わかったわ……」


 という事で流石にこの場所に留まり続けるのは恥ずかしすぎるので、俺は幸村の顔を見る事なくさっさと教室から出て行った。


(まぁでも……あのNTRゲームを全部プレイしてきた身としては幸村には絶対に幸せになって貰いたいよな……)


 幸村はあのNTRゲームでは全エンディングで不幸になる未来しかなったので……だからこそ、この世界の幸村には何としてでも幸せになって貰いたいんだ……。

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