第21話 パーティ誕生


 風呂から上がった俺は、居間のソファに戻ってハヤちゃんとまったり過ごしていた。


『……国民の皆様にお願いがあります。特殊なスキルをお持ちの方は、最寄りの警察署または自衛隊駐屯地にお知らせください』


 また、政府から発表があったようだ。今度は官房長官会見らしく、アナウンサーや解説者がその是非について議論を交わしていた。


 聞きようによっては徴兵にも捉えられかねないが、恵理香の話では既に首都防衛の準備が進められ、民間のレアスキル保有者も登用されているらしい。


『ねぇ兄さん、私もその子と話をしてみたいんだけど』


 沈黙していた恵理香から再び念話が入る。それにしても結構長い間、繋ぎっぱなしな気もするけど、俺の心身には特に消耗している感じはない。意外とタフなスキルなのかも知れない。


『話と言っても、このスキルは俺しか使えないからなあ』


 俺は隣に座るハヤちゃんの顔を見ながらふぅと息を吐く。相手はきょとんとしたように首を傾げており、恵理香の声が届いている様子はない。


『Group ListにPartyの項目があったじゃない。そこにその子を加えれば、兄さんを中継して念話が出来るはずよ』


 なんと、万理一空ユビキタスにはそんな機能もあったのか。しかし、保有者の俺よりも詳しいナビゲーションをする一切皆空アーカーシャの効果も凄まじいな。


【Group List】

 Family

 Party

 Army


 俺は一旦Group Listを開き直し、今度はPartyを選択する。そういえば、Armyなるものも見えたが、これにはどんな意味があるのだろうか。


【Party List】

 Non_name


 名無しではなく、誰もいないという意味だろう。でも、どうすればパーティメンバーを増やせるのか……と思っていたら自動的に別の文字枠ウインドウが開いた。


【Who do you want to join?】


 誰を仲間に加えますか? と訳すのかな。しかし、このスキルの言語って何で英語なんだろう。簡単な文章ならいいけど、あまり難しくなると翻訳に苦労しそうだ。


【誰を仲間に加えますか?】


 おっ、さっそく日本語に変更してくれた。やはり、俺の意思を汲み取って細かい調整をしてくれるようだ。俺は設問に答えるべくハヤちゃんに視線を向けた。


【パーティ参加を打診しています。今しばらくお待ちください……承諾されました】

【ニギ ハヤがパーティーに加わりました】


 ハヤちゃんがニコリと笑顔になる。どのような打診が来たのかと聞いてみると、どうやら俺と同じく文字枠が突然目の前に現れ、選択をしたら消えたらしい。


 つまり、このスキルは用途に応じて相手の視界に干渉し、その意思を読み取ることも出来るということだ。ひょっとすると、想像以上に応用と拡張性があるのかも知れない。


【Party List】

 ニギ ハヤ


 おっ、Non_nameからハヤちゃんに切り替わった。それに恵理香と同様にはっきりとした白字で表示されている。俺は先ほどのようにハヤちゃんを選択し、心の中で話しかけてみた。


『ハヤちゃん、聞こえるかい?』

『あっ……あれっ? お兄ちゃんの声が聞こえる?』


 突然の念話でハヤちゃんを驚かせてしまったようだ。今度は直接声を掛け、今のが念話であったことを伝える。どうやら理解してくれたらしく、安心したように深呼吸していた。


『び、びっくりした……でも、これでいつでもお兄ちゃんと話が出来るね』

『そういうことよ。ほんと、兄さんがこんな便利なスキルを得てくれて嬉しいわ』


 突然、恵理香が割り込んでくる。しかもその発言といい、ハヤちゃんのまた驚いた表情といい、どうやらお互いに声が聞こえているようである。


『え、ええっ……お兄ちゃん、この人だれ?』

『あら、それは私の台詞なんだけど。知らない間に兄さんが世話になったようね』


 ちょっと、恵理香の当たりが強い気がする。技術的に可能なことを確かめられたのは良いが、初対面の二人をいきなり話させたのは早計だったかも知れない。


『私のお兄ちゃんなんだから、しっかりお世話をするのは当たり前だよ』

『そうね、不甲斐ない兄さんの世話をするのは妹の務めですもの』


 うーん、そうかなあ。普通は逆だと思うんだけど。というか、二人ともそんな風に俺を見ていたのか。


『あなたもお兄ちゃんの妹なの。でも、今は私がいるから心配しないで』

『ほんと心配でしょうがないわ。女狐がいないと思えば子猫ちゃんが紛れ込んでるなんてね』


 女狐に子猫ちゃんか。まあ、そう見えなくもない。特にハヤちゃんの方は小動物的な可愛らしさがあるし……じゃなくて、このままでは喧嘩になりそうだ。


『おいおい、二人とも仲良くしてくれよ。どっちも大切な妹なんだからさ』

『お兄ちゃんは(兄さんは)ちょっと黙ってて』


 二人から息の合ったダメ出しを食らい、俺はしばし自分のスキルを介して繰り広げられる応酬に沈黙していた。


 そして、かれこれ一時間ほど小競り合いは続き……気付いたときには、いつの間にか意気投合している妹たちであった。

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