人生で最高の誕生日

九傷

人生で最高の誕生日



 早生まれの私は、いつもスタートダッシュで出遅れる。


 私は偶然にも四月一日生まれのため、四月二日生まれの子とはほぼほぼ一年分人生経験に差が出てしまうのだ。

 だから、たとえスタート地点が同じだとしても、実際はちゃんとスタートを切れないということが多い。

 母さんも可能な限り頑張ったのだけど――と初めて聞かされたときは、理不尽なことにもう少し頑張ってよと思ったものである。

 まあ、今となっては笑い話になってるけど。





 しかし、振り返れば本当に大変な十八年だった。

 特に小さい頃は本当に悔しくて、悲しい思いばかりしていた気がする。


 勉強もスポーツも、私は常にクラスで一番ダメダメだったと思う。

 もちろん早生まれの子は他にもいたけど、私のように四月一日生まれの子は一人もいなかった。

 遅くても三月生まれが一人二人いるくらいだったので、私とでは大体一か月くらいは差があったと記憶している。

 子どもの頃はたとえ一か月の差でも大きく、私の場合は個人差を埋められるほどの能力もなかったので何をやってもビリだった……


 あの頃は自覚がなかったけど、考え方や趣味なども他の子達よりも幼く、それが原因でよく弄られもしていた。

 あれは正直、ほとんどイジメに近かったと思う。


 子どもというのは精神的に未熟というか、感情に正直であるため、無邪気に人を見下す傾向にある。

 足が遅ければ馬鹿にされるし、チームスポーツだと明らかに足を引っ張るため嫌われることも多い。

 これが原因でスポーツが嫌いになったり、トラウマになるパターンも実際それなりにあると聞いている。


 実際私もスポーツが嫌いになりそうだったのだけど、それをギリギリ踏みとどまらせてくれたのが幼馴染である灯矢とうやお兄ちゃんだ。

 灯矢お兄ちゃんは四月二日生まれで、私と同じ学年でありながら実質的には一つ年上の先輩のような存在だった。

 私は物心つく前からお世話になってたこともあり、昔からお兄ちゃんと呼んで慕っていた。

 小学校、中学校時代はクラス公認で兄妹のように扱われていて、高校に入ってからはお互い利害の一致のうえで恋人のフリ・・をしていた。


 ただ、この頃になると流石に私も精神的にも肉体的にも大人になりつつあり、色々と複雑な思いに悩まされたものである。



 どこまでが兄妹のラインでやっていいのか?


 やり過ぎて恋人のラインに踏み込んでないか?



 などなど、毎日悶々としていた。

 しかし、それも今日やっと終わりを告げる。













「入学おめでとう」


「うん、灯矢お兄ちゃんもおめでとう」


炬兎ことは誕生日もおめでとうだな」


「ありがと♪ ……やっと、追いついたね」


「追いついたって、幼稚園から大学まで、ずっと俺の後ろにピッタリくっついてたじゃんか」


「そうだけど、今まではまだ子どもだったし、灯矢お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんだったでしょ?」


「……別に、それはこれからも変わらないだろ?」


「変わるよ。だって、私も灯矢お兄ちゃんと同じ、大人になったんだから」



 そう言ってから、私は灯矢お兄ちゃんの背中に抱きつく。



「……なあ、もしかして、憶えているのか?」


「うん」


「こういうのって、普通女子側は忘れてるんじゃ……」


「普通とか知らないよ。だって私は普通の子じゃなかったでしょ」


「そんなことはないっていつも言ってただろ?」


「うん。灯矢お兄ちゃんだけね」


「……」


「とにかく、私は幼稚園の頃からずっとこの日を待ってたんだもん。……ちゃんと約束は守ってね?」


「……困ったな」


「困るの!?」


「ああ、だって予定では俺から話そうと思ってたから……」


「っ!?」


「炬兎、結婚しよっか」





 この日私は、人生で一番のプレゼントを貰った。

 絶対に、一生大切にする!





 ~おしまい~

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人生で最高の誕生日 九傷 @Konokizu2

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