第1話 はごろも中学のカットマン

 ――ここが卓球部の活動場所か……


 地元では進学校と呼ばれる正鑑せいかん高校に進学した東江翔真あがりえしょうまは、入学初日に迷うこと無く卓球部の活動場所へと足を運んだ。中学から卓球を始めた彼は、高校でも卓球を続けるつもりでいたため、他の部活には全く興味を示さなかった。


「こ、こんにちはー……」


 恐る恐る、体育館の3階にある武道場の戸を開ける。キィ、という音と共に扉が開くと、カコンカコン、とピンポン球を打ち合う音が響いてきた。


「こんにちは……、あっ!」


 翔真に気付いた1人の部員が、はっとした表情と共にいきなり翔真を指差してくる。


「はごろも中のカットマン!」

「いつきーの知り合い?」

「って訳じゃないけど、中学の大会で何回か当たったから覚えてる!」


 翔真も、その1人には見覚えがあった。直接対戦したことは無かったけれど、団体戦でよく当たる中学校の団体メンバーだった先輩だ。


「覚えてる? 俺、北谷東の大城!」


 あっけにとられつつも、翔真は無言で頷く。


「結構強いぜ、コイツ! いやーマジか! 正鑑に入ったんだ!」

「あ、ウチも見たことある! ベスト16とか入ってたよね?」


 扉の前でのやり取りに気付いた女子の先輩も、会話に加わってくる。そして、翔真が口を挟む間もなく、どんどん会話が展開していく。


「はごろも中のカットマンって、もしかしてはごろも中でキャプテンやってた子?」

「そう、俺らの世代の時から試合に出てたヤツ!」


 事実、翔真は中学時代キャプテンをしていたし、1学年上の先輩たちに混じって団体戦にも出場していたから、地区の中ではそれなりに露出が多かった。また、出身中学であるはごろも中学校は男女ともに団体で県大会ベスト4の常連でそれなりに強かったため、レギュラー陣の名前はそれなりに広く知られていた。


「高校でも卓球やるの?」

「そ、そのつもりです……」


 女子の先輩の問いかけに、翔真は頷きながら返答する。この場に居るのは男子が4人、女子が5人。女子の中の2人には見覚えがあって、確か同学年。男子は大城と名乗った先輩の他にもう1人、見覚えのある先輩がいた。


「俺のことは覚えてる……?」

「えっと、玉城たまきさんですよね? 沖縄大学付属中の……」

「そうそう! 玉城和真たまきかずま! よろしくな!」

「俺は松原龍輝まつばらりゅうき! お前と同じカットマン! で、こっちが喜屋武宏樹

「よろしくね~」

「よ、よろしくお願いします……。はごろも中から来ました、東江翔真です……」


 いきなり始まった自己紹介の流れに乗って、翔真も自己紹介をする。


「ウチらは覚えてる~? ウチが佐々木綾香ささきあやかで、こっちが山城伊織やましろいおり

「覚えてるよ、綾香が沖大付属で、伊織が宜野湾東のサウスポー、だよね?」

「「そう!」」


 彼女らもまた、同地区の実力者だったから翔真にも見覚えがあった。直接の面識は無かったけれど、練習試合や大会会場で見たことはある。2人ともシングルスで県ベスト8の常連で、団体戦では優勝経験もあったはずだ。


「じゃあ、私らも自己紹介しておこっか。私がキャプテンの照屋美紀てるやみき。で、副キャプテンの松田美優まつだみゆうとこっちのちっこいのが多和田理彩たわたりさ

「ちっこい言うな!」


 一気に紹介されたせいで誰が誰だか混乱しそうになるが、見るからに雰囲気が良いのを見て、翔真はほっとする。


「さっそくだけど、道具は持ってきてる? 良かったら、今日からもう練習に参加していかない?」

「良いんですか?」

「もちろん!」


 こうして、翔真の高校での卓球生活が幕を開けることとなった。


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