Sacrifice ‐終わりのない贖罪‐
県 裕樹
序 章 第二の故郷
§1
西暦1961年4月、ソビエト連邦のユーリイ・ガガーリン少佐によって初の有人宇宙飛行が成功して以来、人類は宇宙への関心を次第に高めていった。国々は競ってその技術力を宇宙開発の手段に反映し、やがて人類はその増えすぎた人口を宇宙へと移民させるようになり、地球の衛星軌道上には軒並みスペースコロニーが建設された。だが人工的に造られた構造物がそう長く維持できる筈もなく、寿命を迎えたコロニーは制御を失い、衛星軌道を外れて次々に地上へと落下して行った。
落下を免れたコロニーも機能を停止し、ただの巨大な浮遊物と化すのみであった。やがて人工構造物の限界を知った人類は、母なる地球の衛星である月に目を付けた。そこを足掛かりに、人類は太陽系のあまねく星々をテラ・フォーミングし、故郷を捨てて移住するようになった。が、その頃、母なる大地・地球は、相次ぐコロニー落着のため核の冬を迎え、知的生命の居住環境としては耐えられない状態になっていた。地球がその機能を元通り回復するには、何千・何万年と云う歳月を要するであろう……地質学者や宇宙開発事業団の重鎮は口を揃えてそう言った。
一方、火星を手始めに、地殻を持つ外惑星やその衛星などをテラ・フォーミングして移民した人類の子孫は、やがてこの大地も同じ運命を辿るだろう……そう考え至り、更なる外宇宙への進出に意欲を燃やした。しかし、宇宙の壁はとても高く、そして厚いものであった。恒星間移民船として開発された宇宙船も、そのエネルギーは無限であっても食料や水などの供給には限度がある。科学的に化合して作り出そうにも、その原子が無ければモノは生れ出ない。そうして主を失った無人の船は、宇宙の果てを目指して飛んで行くのであった……
それから幾千年経ったであろうか。地球から最も遠い極寒の地である冥王星を改造して細々と生き延びていた人類の子孫が、地球へと降り立った。そこは広大な海に僅かな陸地が浮かぶ、水の星となっていた。海洋生物が発達し、陸上に生きる者は皆無に等しい。だが、ヘルメットのバイザーを開けてみたら、どうだ! 清々しいまでの澄んだ空気が舞い込んで来るではないか。
陸上への移民はもはや適うべくもなくなったが、地球はその青さを、生命の息吹を取り戻したのだ。
この自然を二度と壊してはいけない。そう誓った移民団は再び地球を離れ、伝説の星として永久に封印する事とした。そして、地球と云う名は『人類の住処』という意味に取って代わり、伝説の星は全ての始まり、『ズィーロ』と名付けられた。
更に数千年の後、人類は、恒星の周りを一定期間で周回する星々の中で、知的生命の居住に耐える気候にある星を次々とテラ・フォーミングし、それぞれを『地球』と呼称するようになっていた。その中で最も早く移住に成功した地球を、人類は『ウーノ』と名付けた。
この物語は、ここ『ウーノ』を中心に巻き起こる、二つの地球の運命を弄ぶ悪魔の子守歌である……
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