かがかが

@seeder

かがかが

 すっかり春に為りましたねぇ。私にはまだ寒く感じますが。ちょいと、話をひとつ。これを語りたくて、あなたを呼んだんですから。


私、最近変な夢を見たんです。




 すごく奇妙でね、まっくらな中を一人、ポツンと立ってるんですね。地面の色は白い砂で出来ていて、霧もある。でも、まあまあ見えるくらいではあったんです。そのせいで、割と怖さは無かったんですけど。

まあ、そんな感じで。とにかく怖くはなかったんです。不思議な場所だなぁくらいの感じでしたねぇ。

 1ヶ月、同じ夢を見たんです。こんな夢、なんとまあ、飽きないもんなんだなぁって思ったんですよ。だって、夢は自分の想像したモノで出来てるって言うじゃないですか。もしかしたら自分の深層は、こんな何もない無味な人間なのかと、そっちの意味では怖くなりましたねぇ。いや、ははは。

 しかしですね?二ヶ月目。急に、何かが唸るような「うー」って感じの声がしたんですよ。遠くて聞きとれやしませんでしたがね?え、近くによってみなかったのかって?やめてくださいよ、怖いじゃないですか。危ないものには近づかないのが一番だ。

 まあ、とにかくそんな感じで、1ヶ月続いたんです。

 そう、三ヶ月目に変わったんですよ、それが。

 いつも通り夢の中で目を開けたんです。しばらくは、しんっとして何も無かったんです。突然なんです!「うー、うー、うー、うー」って聞こえたんです!「うわぁ!」って、思わず叫んだんです。

 …現実で目が覚めたんです。飛び起きて急いで辺りを見回して。もちろんなにもいないし聞こえないんですが。フッと息を着いて、気がついたんですよ。身体中が冷たい。まるで布団を書けずに寝た日みたいに。ガタガタ震えて、冬だからますます冷たくなってくような気がして、布団のなかにもぐって、自分をさすったんです。

 その日はもう、そのまま寝ました。怖くて。

 次の日、孫に会いに行ったんです。ふと、会いたくなったのと、昨日の夜を忘れるためにね。

 私の孫は可愛らしい女の子でね、その日も遠くに姿が見えた瞬間「じいじー」って、走って寄ってくるんですよ。かわいくてかわいくて。両手を広げてしゃがみこんで待ったんです。そして孫が私のところに着いた瞬間「じいじー!」って抱きついてきたんです。もう、目に入れても痛くない!頭を撫でてあげました。癒されましたねぇ。

 しかし、ふと、既視感を覚えたんです。なんだろうって思って、夜、わかりました。夢の「声」なんです。

 二ヶ月目、声は、思えばずっと遠くに、同じ位置に聞こえたような気がしました。ですが、三ヶ月目に急に大きくなった。声量じゃない。近くに来たんだって。まるで、急にそこに沸いたように、声が大きくなった。気づいてからは、なかなか寝付けず、寝ても声に恐怖を感じて飛び起きる。ずっと、三ヶ月間その繰り返しでした。

 そうしたら、本当に恐ろしいのはこれからだ。4ヶ月目になったら、どうなってしまうんだろう。怖くて恐ろしくて毎夜、堪らなかったんです。

 …でもね、時は無情に流れていく。

 四ヶ月目が、来たんです。

 頑張って目を開けてたんですが、ふっと落ちる感覚がして、気がつくと夢にいました。

 いつも通りしばらくは何もなかった。でも、「もう来るな」って、わかったんです。

 その瞬間、目の前に行列が出現しました。人間が、死に装束着て、ずっ、ずっ、と歩いていくんです。腰を抜かしたかったですよ。呆然としました。

 ふと足元に目を向ければ彼岸花が、歩くごとにぽっ、ぽっ、と増えていく。そのまま、やがて最後尾が行きました。そして、朝に呆然自失のまま目を覚ましました。そして、すぐにしばらく寝れてない疲労から、気絶したんです。

 死に装束、彼岸花。

 考えすぎかもしれないが、もしかしたら私はお迎えが近いのかもしれない。ならば、一言息子夫婦に、孫に会いたくて、家に呼んだんです。

ありのまま、全てを話しました。全く、私は良い息子を持ったものです。変な理由で呼んで変な夢の話をしているのに、真剣に取り合ってくれました。そして、「怖いだろうけど、言ってることが気になる。何かの対策が出来るかもしれない」からと、唸りの正体を聞いてくるように私に言ったんです。こんな、ボケていると言われても仕方の無いような話を真剣に取り合ってくれた息子に、答えないわけにはいきませんでしょう?私はその夜、意を決して夢に落ちました。

 いや、もう慣れたもんで、目を開けると霧がかった奇妙な世界。そして、

「うー、うー、うー、うー」

きた。

 目の前に行列が出現しました。

 昨日と同じ。やはり決意を固めようが、怖いもんは怖くて、叫んで起きてやろうかと思いましたが、息子が側に控えている手前ぐっと堪えました。

 腹に力をいれ、最近、特に遠くなり始めた耳をぐっとすまして、霧を見つめたんです。なるべく行列を見ないように、列の上を。

「うー、う゛ー、うー、う゛ー…うー、う゛ー、うー、う゛ー…」

ずっと、同じような声かと思っていたんですが、よくよく聞くと、四つ目で一旦止まってたり、二つ目と四つ目の「う」に濁点が付いていたりと気づいてきました。そして、気づいたんです。かれら、「うー」と言っていると思い込んでたんですが、「かー」だったんです。口の開きが狭くて、篭ってそう聞こえたんでしょうね。

「かー、がー、かー、がー…かー、がー、かー、がー」

……何を言ってるんだ?

どこをどう聞いても、頭を無にして聞いてみてもやっぱり「かー」なんですよ。流石にヤケになって、「何が言いたいんだ!」って思わず怒鳴ってしまったんですよ。気づいたら布団のなかで目を覚ましてました。

 しまったと思っても、もう覚めてしまったから眠くもない、夢には戻れないので、側にいてくれた息子にありのまま話すことにしました。

 唸りの正体は、息子もわからないようで私とずっと、翌日の昼になってもウンウン言ってました。私は、そのまんま、ドツボにはまりそうだったんで、気分転換に外に出たんですよ。孫がちょうどその時庭で遊んでまして、「なにしてるの?じぃじもまぜて」と言ってしゃがみこんだんです。すると孫はニパッと可愛らしく笑って、なんと、私の頭に花冠をのせてくれたんです。「じーじにあげるー」って。涙が出そうでしたねぇ。

「彼岸花!」

突如、息子が叫んだんです。びっくりして、子供の目の前なのに思わず「は?」って言っちゃったんですよ。いや、孫は聞こえなかったみたいでホットしました。そんな私に構わず息子は、紙に「彼 岸 花」と書きました。

「父さん、そのまま読んだら駄目だったんだ。単語で考えずに、一文字づつ。彼と花は「か」と、岸は「が」と読める。つまり、「か」「が」「か」の順番になる」

でも、それでは最後の「が」は、一体なんだったんだ?

「『彼岸花が』だと思う。最後だけ、ひらがなで、付け足す。……ねぇ、彼らは何を訴えているんだろう」

「訴える……」

その発想になっただけでもすごいのに、「彼らはなにかを訴えている」と訳した息子はやはりすごいなと思います。そのまま、息子の言う通りにじっと思い返すと、とある記憶が出てきました。

「そういえば、近くの水路のヘリにある彼岸花が、農作業の邪魔とかで、○○さんが、除草剤を撒いてたな」

もしかして、彼らは彼岸花が枯らされたことに対して、怒りを訴えているのではないだろうか。

息子もそう思ったらしく、結果ここの庭に彼岸花を植えてみようと言うことになったんです。もしかしたら、喜んで帰るかもしれない。

 すぐに実行しました。息子と彼岸花の種を、いろんな植物に詳しい、近所の華道を教えているお婆さんに貰いに行って、自分の家の庭に埋めたんです。


 その後、ぱったりとやみましてね。私達、うまく読み取ってあげられたようです。いやー、良かった良かった。ん?もうお帰りに?確かに日もくれてきましたねぇ。…おや、庭をみていかれますかな?どうぞどうぞ。今は咲いていませんがね。咲いていた範囲はわかりますよ。こう。家に付き出す形で弧を描くように。これからもっと増えて、美しくなるでしょうな。ははは。

 


え?「彼岸花が…」の続き、違うかもしれない?…彼らは帰っていったんです。もう、すんでいるんです。それ以上、彼らへの花に、供養に何も言わないであげてください。

 

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