第3話 理想のタイプ
「ご所望のリストをお持ちいたしました」
アルマンドがぶ厚い書類を僕に手渡す。
先日、そろそろ婚約者を作ろうと思い立った後、すぐにその候補者を探すべく、アルマンドに頼んで婚約者に相応しそうな女性をピックアップしてもらったのだ。
肖像画や趣味、家族編成などが詳細にまとめられていて大変見やすいリストだったが、僕はざっと目を通すと溜め息をついて書類を机に置いた。
「うーん、君にしてはイマイチの資料だったな」
「申し訳ございません、何か不備でもございましたか?」
アルマンドが頭を下げて理由を尋ねる。
僕は書類をパラパラとめくって見直した。
「どうも僕の好みに合わないというか……。君なら僕の好きなタイプも把握してるかと思ったんだが」
「それは失礼いたしました。私が勘違いしていたようです。よろしければジェラルド様のお好みのタイプをお伺いしても?」
「そうだな、たとえば今回のリストは可愛らしい雰囲気の令嬢が多かったが、僕は美人系のほうが好みなんだよな」
「なるほど」
「あとは朗らかそうな人よりも物静かな感じの人がいいし、いつでもベタベタくっついて来るような人じゃなくて、僕の仕事を理解して見守ってくれる人がいい」
「たしかに」
アルマンドが手帳にメモしながら納得したようにうなずく。
「ちなみに、具体的なイメージを共有するためにお伺いしたいのですが、たとえば女優でいうとどのような方ですか?」
「女優でいえば……そうだな……」
アルマンドに尋ねられ、投資先の劇場に所属する女優たちを思い浮かべる。
(アニータ・リッチ? いや、メリッサ・カランドラ? うーん、なんか違うな……。ああいう華やかな美女じゃなくて、もっと隠れた美人というか、たとえば──)
頭の中で自分の理想を思い描く。
すらりとした長身で、気品を感じる佇まい。
ゴージャスなブロンドの巻き毛より、癖のない真っ直ぐな黒髪のほうが素敵だと思う。
目は切れ長で、賢そうでありながら色気も感じる色彩、たとえば紫色なんていいんじゃないか。
普段はツンとしていながらも、たまに可愛らしいことを言ってくれたら最高だ。
そう、これこそ僕が求めている人だ!
……と理想のタイプのイメージ像が固まった瞬間、僕は自分の頭を机の上に勢いよく打ちつけた。
(僕は馬鹿か!? なんで理想のタイプでアルマンドを思い浮かべるんだ……!!)
しかも、ご丁寧に女性の姿でイメージして、頭がおかしくなったとしか思えない。
「ジェラルド様!? 今ものすごい音がしましたが……」
アルマンドが心配して駆けつけるが、さっきの女性版アルマンドが頭にチラついてしまい、申し訳ないが今は近づいてきてほしくない。
サッと手で制して、何事もないように振る舞う。
「……大丈夫、少し額を打っただけだ。一瞬居眠りをしてしまったらしい。疲れが溜まっているのかもな、ははは」
「鼻血も出ていらっしゃいますが……」
「あっ……そういえば、鼻もぶつけた、かも……?」
「すぐに救急箱を持ってまいります。ひとまず今はこのハンカチで押さえていてください」
アルマンドが自分のポケットからハンカチを取り出して手渡してくれる。
──トゥンク……
(……トゥンクじゃない!)
男の秘書にハンカチを手渡されただけで胸をときめかせるなんてどうかしている。
(これは本格的にまずいな……)
もはやどんどん重症化しているとしか思えない。
不治の病になってしまう前に、なんとかしなくては……。
救急箱を取りに行くアルマンドの背中を見つめながら、僕は頭を抱えた。
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