6話、魔女と占いとクレープと1
午後。私はフェリクスの町をぶらぶらと歩いていた。
正直なにもすることがなくて困っている。思い付きで旅を始めたせいで、旅の目的がご飯を食べることしかないのだ。
だから、お昼を済ませた後はもうだらだらと町を観光するしかない。
あてもなく町をさまようというのも、それはそれで楽しいものがある。でもやっぱり、なにか目的がないと単なる散歩をしている気分。
旅をするついでに、なにか魔法薬の材料になるものを集めてみようかな。それかいつか弟子たちに会った時のために、ちょっとしたお土産とか買ってみるのもいいかも。巣立っていった弟子たちの顔を思い描いて、そんなことを考えた。
確か二番弟子のエメラルダは、宝石とか光り物が結構好きだった。私も宝石とかは好きな方だし、なにか見繕ってあげてもいい。
……高いのは買わないけどね。安い綺麗な石で我慢して。弟子なんだから。
そんなことを思いながらふらふら歩いていると、とある露店に目が止まった。
「……クレープ」
それはこじんまりとしたクレープ屋さん。女性客が結構並んでいて、人気のお店だということがうかがえる。
そういえばご飯を食べるという強い目的はあったけど、デザート系のことは失念していた。
私は甘い物が結構好きだったりする。よくケーキを用意して弟子たちとお茶会もしていた。お茶もケーキも三人目の弟子であるリネットが全部用意してくれたんだけどね。
リネットは料理だけでなく、お菓子作りも上手だった。リネットの作ったケーキ、またいつか食べたいな。
今日のお昼はデスクラブとかいうわけ分からない物だったので、満腹になるほど食べてはいない。
これならクレープ一つくらい十分食べられる。いや、例えお腹いっぱいだとしても、今の私なら食べてみせる。
なぜなら、クレープ屋さんを見た瞬間に私の体は甘い物を求めだしたのだから。しかもリネットのケーキを思い出したせいで、もう今すぐにでも甘い物が食べたい。
花の蜜に吸い寄せられる蝶のように、ふらふらっとクレープ屋に近づく私。
その時、後ろから声をかけられた。
「あの、すみません……」
なんだろうと思って振り向いてみたら、そこには私と似た服装をした女の子がいた。
三角帽子に膝丈のひらひらしたスカート。上衣はレース仕立てで可愛らしい。私の魔女服よりもちょっと可愛らしさが増した、魔女の衣装だ。
「勘違いでしたら失礼ですが、あなたは……魔女、ですよね?」
「そうですけど。あなたも魔女……だよね?」
「あ、あの、実は私、魔女というより、魔女見習いなんです」
「へえ、そうなんだ」
適当に相槌を打つ私。もうクレープのことしか頭になかった。
しかし、彼女はいったい私になんの用があって話しかけてきたのだろう。そちらの方もちょっと気になってきた。
「今修行として道行く人を占っているんですけど……良ければ魔女であるあなたからアドバイスをいただけたらと思いまして」
「え、私がアドバイスするの?」
てっきり私のことを占ってくれるのかと思って、驚きの声をあげる。
「はい……私、どうしてもうまく占えなくて困ってるんです」
彼女は本当に困っている様で、不安そうに視線が揺れていた。
でもちょっと変だ。魔女見習いってことは、彼女にも師匠がいるはずなのだ。
それともまさか、我流で魔女を目指しているのだろうか。だとしたら……それは茨の道だ。
なんだか弟子たちのことを思いだして、放っておけない気分になる。これで私は面倒見がいい方なのだ。……だと思っている。
「うーん、困ってるんなら力になってもいいけど……」
彼女の力になりたいと思いつつ、心はまだクレープの魅力に取りつかれていて、クレープ屋さんをちらちらと見てしまう。
「……とりあえず、クレープ食べてからでいい?」
「……え、ええもちろん。というか教えていただけるのでしたら、せめてものお礼に私が代金を支払います」
「え、本当? いや、でもちょっとアドバイスする程度でそれは悪い気も……」
「いえいえ! この程度させてください! それに……実は私も、ちょっとクレープが食べたかったんです」
恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女に、私は微笑する。
おごってもらうのはちょっと悪い気もしたけど、そこまで言われたら断れない。その分彼女の身になるような、しっかりとしたアドバイスをするとしよう。
「では買ってきますね。あ、なんのクレープがいいですか?」
「じゃあチョコと生クリームが入ったやつ」
私はチョコ系が結構好きだった。
注文を伝えると、魔女見習いの女の子はクレープ屋さんにぱたぱたと駆けて行った。その後ろ姿を見て、何だか子犬みたいだと私は思った。
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