2話、ケルンの町のかぼちゃスープ

 今私は田舎町ケルンにやってきていた。


 ここは私の家、つまり森の中にある魔法薬店から一番近い町だ。それでも歩いて一時間くらいはかかる。私が外食を面倒がった訳がこれだ。毎日一時間も歩いてごはんを食べに来るなんて考えられない。それも三食も。


 ケルンは言い方は悪いが田舎なので、人も少なくて静かだ。これまで何度か来たことがあるので、馴染みのある町だ。


 今日のお昼はここで食べることに決めた私は、ひとまずお昼時になるまで露店などを見て回ることにする。


 ケルンの町は家から比較的近かったからいいけど、この町から最寄りの町に行こうとすると半日ほどかかるというのが普通だ。


 つまり、旅をするならそれなりに食料を持っていかなければいけない。


 旅をするならできれば三日分の保存食は常備しとけ。昔一番弟子にそんなことを言われた気がする。


 ということで露店にやってきた私は、適当に保存食を見繕っていくことにした。


 干し肉やら塩漬けの肉やら、乾燥パンにビスケットとか、保存食は普段私が食べるのとは違った趣だ。


 なんというか、美味しいとかじゃなくて日持ちする食べ物で味は二の次といった印象を受ける。


 まあ、旅をするなら保存食ご飯なんてのもたまには良いだろう。意外と普通のごはんよりおいしかったりするかもしれない。


 色々目移りしながら適当に保存食を見繕い、購入していく。


 すると、いつの間にやらお昼時を迎えていた。


 あらかた購入するまでに時間がかかったのもあるが、食べ物を見ていたせいで私のお腹はすっかり空いていた。


「ケルンは主食がパンで、スープと一緒に食べるのが普通なんだよね」


 私はケルンの食文化が好きだった。だって、実は私の好物はスープにひたしたパンだから。


 記念すべき初外食が好物ということもあって、私の気分は舞い上がっていく。


 ここは田舎町なので、中で食事できるお店は数えるほどしかなかった。私は記憶を頼りに以前食べたこともあるお店を探し、そこで食事する事にした。


 お店に入って着席すると、まずパンの盛り合わせが出てくる。そしてメニューのほとんどがスープで、目の前のパンを美味しく食べるためにスープを注文しろと言わんばかりだ。


 ちなみにこのパン、スープと一緒に食べるのが前提のパンなので、ちょっと硬めだったりする。


 本来ならメニューを眺めてなにを注文するか迷うところだが、私はすでに注文を決めていた。


「かぼちゃのスープを一つ、お願いします」


 コーンスープやじゃがいものポタージュなどなど、パンと合うスープはたくさんある。


 その中でも私が一番好きなのが、かぼちゃのスープだった。


 次からは食べたことがない色々な料理に挑戦するつもりだけど、今日は記念すべき旅の初食事だから、大好物のかぼちゃのスープを食べることにしたのだ。


 注文してから数分でかぼちゃのスープはやってきた。


 スープは綺麗な黄金色で、かぼちゃの甘い匂いが漂ってくる。


 スプーンですくってまずは一口。


 口に運ぶと、かぼちゃのほのかな甘みが広がっていく。


 甘いだけじゃない。スープなのでちゃんと塩気もあって、それがかぼちゃの甘みを引き立てている。


 そして濃厚ながらも口当たりが良い。これはきっと、生クリームを混ぜているからだろう。


 美味しいかぼちゃのスープを味わった私はすっかりご機嫌になり、パンをちぎって軽くスープにひたした。


 パンにじわりじわりとスープが染み込んでいき、びちゃびちゃにならない塩梅で口に運ぶ。


 もともと固めのパンなので、スープにひたしてもちゃんと歯ごたえがあった。それに小麦の味も立っていて、濃厚なかぼちゃのスープに負けていない。


 かぼちゃのスープが染みたパンは、文句なくおいしい。やっぱりパンはスープと一緒に食べるのが一番だ。


 私はすっかり夢中になり、次々と食べ進めていく。


 パンをひたして食べて、スープだけを口に運んで、スープの後味を残したままパンだけを食べて。


 ただパンとスープを食べると言っても、口に運ぶ順番などで色々と味が変化する。それを楽しみながら食べていると、スープの皿はすっかり空になっていた。


 大好物のかぼちゃのスープを食べ終えた私は、大満足していた。


 旅立ってから初めての外食ということもあって、確実に美味しい料理を注文したが……それで正解だ。やっぱり最初は好きな物を食べてはずみをつけないと。


 食後軽く水を飲んで口の中を洗い流した後、お会計を済ませてお店の外に出た。


 お昼が少し過ぎた頃の日差しは少しきつく、眩しさに目を細める。


 さて、次は最寄りのもうちょっと栄えている町を目指すとしよう。


 美味しいご飯を食べて上機嫌になった私は、軽い足取りで次の町に向かって歩いていった。

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