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 右手刀に精神力を集中。仮想剣カマイタチを抜刀する。

 床を蹴り、反乱した右腕と格闘する男へ一直線に斬り込んだ。

 サイキックたちの念動波が、マザーをハブにしてシュウに結集する。人々の思いがこの一太刀に乗る。手刀は白銀に輝き、唸りをあげる。

 ガラ空きになった劉の胸板を白刃が貫いた。

 ぐおお! 獣の咆哮が轟く。

 貫いた部位から、幾条もの白光がほとばしった。

 眼球が白光の圧力に噴き飛ぶ。空っぽの眼窩から、絶叫する口から、光の柱が伸びる。まるで邪をはらうかのように。

「やったな」イブが笑った。そのまま光に呑まれ、輝く粒子となって消えてゆく。闇の牢獄から解放されるのだ。

 白光に押し出され、真っ黒な泥が劉の体内から噴出した。体表の傷、口、眼窩、耳――外へ通じるすべての穴から。

 体表は泥の袋と化し、破れて切れぎれになる。耐えきれないほどの悪臭と共に泥を撒き散らす。

 泥の奥から、ボンと飛び出たモノがあった。丸い肉の塊だ。泥まみれで壁際まで転がる。

 ――劉のコアだ!

 直感した。

 ――幾層にも重なった憎悪の同心円。その核だったモノ。

 シュウは追った。手刀は光のエネルギーを帯びたまま決着に備える。

 泥に汚れた肉の塊、それは――

 子供!

 愕然として動きが止まった。

 痩せ細ったアジア人の子供が、床の上で躰を丸めていた。

 腐臭と泥にまみれた裸の男児が、目を見開き、両手で頭をかばっている。これから受ける折檻に震えている。

 削ぎ取られたように片耳が無い。背骨が浮いた背中には、無数の鞭打ち痕がはしる。

 ──これが、劉の、原形……

 あまりの動揺に、仮想剣は解除され鞘に戻っていた。

 ──騙されるな。子供のカタチをしているだけだ。狡知に長けた劉のやる事だ。油断するな。

 アナタはとりわけ子供に弱い──未有の言葉が思い出された。

 その言葉を振り払い、気迫でカマイタチを再起動する。揺れる気持を抑え、衰えた体力の中、懸命に仮想剣を維持する。

 為すべきことを為しなさい──マザーの言葉が耳の奥でこだまする。

 男児は怯えた目でシュウを見上げていた。限りなく執拗に繰り返された虐待。その果てに、今度の責めが命を奪うと知っている。

 ──ここで見逃せば、劉はまた復活する。コアに憎悪の殻を幾層にも重ねて。

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