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 今度は、背後に設置されていた清涼飲料の自販機が、固定ボルトを引き抜いて浮き上がった。電源コードが千切れ火花が散る。

「こういうデカいやつは、どや」

 精神感応に念動力、異なる能力を使い分けるのは、とんでもない負荷がかかるはずだ。小型太陽まがいの念焼力を有した少年は、短時間で能力ちからを使い果たした。枕木にも限界がある。ただ、その限界までこちらの命がもつかどうか。

 レンズでない方の目が血走り、首筋にも静脈が浮く。

 おらああ! 気合を込めて自販機を飛ばした。

 シュウは迎撃せず地面を転がった。凄まじい落下音。逃げそこねた左足が自販機弾の直撃を受けた。

 激痛が脳天まで貫く。ナノマシンが即座に鎮痛する。鎮痛はありがたいが、やり過ぎるとダメージを自覚できなくなる。腹這い、片膝を立てようとしたところを蹴り倒された。

「あは、あは、亀の次はイモ虫やな。これで終わりや、ニイチャン。生け捕りの命令やけど、殺すわ」

 仰向けで雨に打たれるシュウに、枕木が間を詰める。興奮剤のせいで散大した瞳孔が見下ろす。顔の血管が怒張し力が凝集する。

 ひしゃげた自販機が再度宙に、枕木の頭上に浮いた。そのとき――

 閃光がその場を照らした。

 真昼の太陽を超える800万カンデラの輝き。閃光弾だ。大光量で視覚を奪い、数秒間行動不能に陥らせる兵器。

 うぎゃあッ!

 開ききった瞳孔のせいで、光の威力は倍加した。視神経をかれた枕木は、両目を押さえて倒れ込む。

 浮いていた自販機からの支えが逸れる。真上から落ち、枕木をし潰した。

「立てるか?」誰かの手が腕を掴んで引き起こす。

 発光の瞬間、ナノマシンが集結し、瞳孔に遮光フィルターをかけていた。おかげで閃光弾のダメージは軽微だ。

「こっちだ」革ジャンの男が肩を貸して支える。

 傷めた左足を曳きながら、シュウは男に従った。何者かわからないが助けてくれるようだ。

 路地を折れビルの隙間にもぐり込む。抜けて、また別の路地を進む。

 サイレンが聞こえた。パトカーだ。感謝金目当てに、が通報したのだろう。

 何かの建物へ裏口から入った。

 鉄クズや中古家電が山と積まれている。廃品回収の倉庫のようだ。

 薄暗いスペースを通り、フォークリフトの陰にあるドアをくぐった。

 ロッカーが並ぶ。革ジャンは3連のロッカーをずらす。

 地下へ降りる階段が現れた。

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