第7話 疑惑の誕生日

「どうぞ、おかけください」

 と言われてから、実際に座るまでに、どれだけの時間が掛かったのか、実際には一瞬だったようだが、まわりの状況を把握してから座ったような気がするので、瞬時というわけではなかったような息がする。

 しかし、その気持ちが、果たしてどのような心境に繋がっているかということは、自分でも分からなかった。

 別に何かを相談したいと思ったわけでもない。

 もちろん、まったく不安なく生活ができているわけではなくむしろ、両親の宗教かぶれという意識もあったからだ。

 自分のことにしてもそうで、ただ、自分のことは、

「自分で何とかしよう」

 という気持ちがあることから、まわりを気にしないようにするつもりになっていることから考えると、

「この際、どうでもいいことではないか?」

 と考えるようになっていたのだ。

 かといって、他に何か相談事があるのかといえば、正直ない。

「占い師さんに興味があって」

 などというと、変にマインドコントロールをされかねない。

「自分に興味がある」

 と言われれば、一般の人だとどう思うだろう?

 もちろん、その人の性格によって変わってくるだろうが、

「嬉しい」

 と単純に思う人もいる。

 人からあまりかまわれることのない人とすれば、興味を持たれることはうれしいと感じるからなのだろうが、逆に、

「ちょっと怖い」

 と感じる人もいるだろう。

「相手がストーカー気質だったら、どうしよう?」

 と考えるのではないだろうか?

 そう考えさせられると、その人のまわりに対しての疑いは、かなり深いものであって、そこには、

「螺旋階段のように、グルグル回りながら、落ちていく」

 という感覚が潜んでいるかのように思えるのだった。

 相当、まわりに疑心暗鬼になっている人なのだろうが、普通の人であっても、今の世の中では、

「疑心暗鬼にならない人などいないに違いない」

 といえるのではないだろうか?

 疑心暗鬼というのは、怖いもので、時間とともに、比例して深まっていくものだ。

 中には、最初から最高潮の疑心暗鬼を持ちながら、そこかあら逆に、少しずつ緩和していくという考えの人もいるだろうが、

「そんな人は、最初だと思っている最高潮の前を、忘れてしまっているだけで、最初から最高潮だという人なんていないのではないか?」

 と思えるのだ。

 あくまでも、最高潮というのは、その感覚が最高になったという意識を持っているからで、最初から最高潮だと、

「どうしてその時が、最高潮だといえるのか?」

 ということである。

 しいていえば、

「感情が緩和されるしかないので、最高潮だった」

 という思いを感じているからであって、この思いがあるからこそ、自分の感情を理解できるのではないだろうか。

 そんなことを考えながら、鍋島は、目の前に沈砂していて、顔が見えない、いわゆる、

「得体の知れない占い師」

 なる人物を前にして、暗闇という密室の中で、呼吸困難に陥りそうになりながら、言づけば、額には、ぐっしょりと汗が滲んでいるのだった。

 促されて椅子に座ると、もう完全に、

「まな板の上の鯉」

 に相違なかったのだ。

「俺は一体、ここで、どのように調理されるのか?」

 と思い、身体の震えも止まらない。

 急に、自分の好奇心を憎みたくなるくらいの心境に陥っていて、

「早く、ここから逃げ出したい」

 という欲求に駆られていたのだ。

 それを見過ごしたかのように、

「そんなに、緊張なさらなくてもいいですよ。どうせ、たかが占いなんですからな?」

 というではないか?

 これこそ、こっちの心境を見透かしているということを証明しているようで、さらに気持ち悪さがこみあげてきた。

「ストーカーに狙われるというのは、こういう心境のことなんだろうあ?」

 とも感じた。

 目の前の人は、ただ、今ここであっただけの、何ら関係のない人だということは分かっているはずなのに、何を怯えているというのだろう?

 そんなことを考えていると、

「いえ」

 としか答えられない自分がいて、この二文字の答えが、自分の心境を表していると、相手に悟られたかのように思えて、びくびくしていた。

 しかし、そこで占い師が、

「あなたは、今かなり怯えていると、ご自分で感じているようですが、実際には、そこまでのことはなく、どっちかというと、実はすでに落ち着いているのではないですか?」

 と言われると、

「何だろう? この人の言う通りではないか?」

 と思えてくる自分がいることに気づいていたのだった。

「図星のようですね?」

 と言われてしまうと、実際に震えが止まり、さっきまでの不安がどこかに行ってしまったようで、安心感が出てきたのだが、その逆に、ズバリ言い当てられたことを、怖いというよりも、癪に障る気になったのは、ある意味、

「相手にマインドコントロールを受けているということか?」

 と考えると、やはり怖くなってきたのだった。

 マインドコントロールというと、どうしても、宗教団体を思わせる。

「宗教団体。そうだ、両親もマインドコントロールを受けているのではないか? ここで俺まで受けてしまったら、どうなるというのだ。しかも、両親とは違う相手に対して受けているのではないか?」

 と考えると、今度は、

「先ほどからの不安というのは、ここから来ていたんじゃないかな?」

 と思うと、今度は、少し気が楽になってきた。

 気が楽になったというのは、少し違う気がするが、

「自分のことを少しでも、分かるようになれば、自信が生まれてくる。今の状況で一番ほしいものは、その自信なのではないだろうか?」

 と、鍋島は感じたのだった。

「では、少しずつうかがってまいりましょうかね?」

 と、こちらの心境を分かっているのかと思いきや、いきなり話を進め始めた。

 やはり、占い師も商売。

「回転率が必要なのかな?」

 と感じた。

 友達の話では、

「この占い師は、結構人気があって、土日だったら、予約しても予約が取れないほどの人なので、平日だと何とか入ることができたんだ」

 ということだった。

 確かに、表には誰もいなかったが、予約制であれば、予約の時間の少し前までに着ていればいいので、何もずっと待っている必要などないだろう。

 それを思えば、鍋島もそんなに心配する必要もなかったのだ。

 友達の占いは、時間ちょうどくらいだった。

 本人とすれば、

「出てくる時は、あっという間だったような気がしたんだけど、出てくるにしたがって、どんどん、時間が経っていたのではないかと思うんだよな、何か不思議なんだよな」

 といっていたが、それを聞いた鍋島も、

「どこか違和感があるよな」

 と感じていた。

 その理由はすぐに分かったのだが、

「こういう感覚というのは、夢を見た時などに感じるものだよな」

 と感じた。

 というのも、夢を見た時は、実際に意識が現実世界に戻ってきてから、気が付けば、まだまだ夢の世界が抜けていないことからか、完全に、こっちの世界に戻ってきていない。

 戻った時に、完全に意識が、

「目が覚めた」

 と感じるのであって、ほとんど皆が感じることなのだろうが、時間的にはかなりの個人差があるのではないだろうか?

 そんなことを考えていると、夢が、本当に幻なんだと感じるのも、無理もないことのように思えるのだった。

 目が覚めるまでというのは、

「夢って結構長かったよな」

 と感じているようだ。

 まだまだ夢の世界の記憶が残っているのだろう。

 しかし、夢から覚めてしまって、

「夢があっという間のことだったんだ」

 ということに気づくと、その夢の内容をほとんど忘れてしまっている。

 しいていえば、

「忘れていない夢があるのだ」

 とすれば、それは、

「怖いと思うような夢を見た」

 という時だ。

 その怖さというのは、オカルトのような、

「サイコパスな夢」

 であったり、幽霊や妖怪などが出てくる、

「ホラーと呼ばれるもの」

 であったりと、様々だといえるのではないだろうか?

「恐怖」

 というのを一言でいうと、

「ホラー」、

「オカルト」

 に別れるだろう。

 ホラーというと、以前から、幽霊や妖怪のような、

「実態はないが、そこには存在している何かを感じる」

 というようなもので、ある意味、形のようなものがあるものであって。

 オカルトというと、ホラーとは違い、

「都市伝説であったり、人間の心理に、グイグイ食い込んでくるというような気持ち悪さ、あるいは、昔からの言い伝えと言った、何となく漠然としたもの」

 というイメージがあったのだ。

 だから、

「ホラーとオカルトのどちらが怖いのか?」

 と聞かれると、一概には言えるものではないが、

「ハッキリとしていない分、オカルトの方が怖い」

 と、鍋島は思っていた。

 確かに、妖怪や幽霊が怖くないというとウソになるが、しょせんは、

「この世に存在していないだけの、自分たちと違う世界で、普通に生きている生物のようなものではないのだろうか?」

 と考えていた。

 ただ、あくまでも、そう思うということは、実際には、

「信じていない」

 ということの裏返しなのかも知れない。

 そういうことを自分から考えるということはあまりしなかったように思えることから、今回、この占いに、興味が湧いたということかも知れない。

 占い師の顔が見えないことが、この場で、

「何が恐ろしい」

 と言われて、ハッキリと答えられることであろう。

 そう思うと、何が怖いのか、自分でもよく分からない状態になっているということが分かった気がした。

 鍋島は、占い師の前に出ると、一瞬、夢の中に入った感覚と、夢から抜けた感覚を、同時に感じた気がしたのだ。その感覚は、不思議と初めてではないように思えたのだが、どこで感じたのか、正直思い出せないが、先ほど、

「夢のようだ」

 と感じた思いに似ているような気がする。

 占い師は、今鍋島が感じたことを看破したのか、ニコッと笑った気がした。

「この人、分かっているんだ」

 と思うと、急に怖くなった。

「逆らわない方がいいかも知れない」

 と感じた。

 何に逆らわない方がいいのかというのは、ハッキリとしないのだが、明らかに、

「この占い師の目」

 には、逆らってはいけない」

 ということが分かったのだ。

「そもそも、占いなどというのは、新興宗教と同じで、まやかしでしかない」

 と思っていた。

 まやかしというものは、

「信憑性のないもの」

 と、漠然と考えていたのだが、最近では、

「そんな信憑性のないものには、説得力などあるはずもなく、宗教団体として、布教活動など、明らかに、欺いているとしか見えない」

 としか思っていない。

 新興宗教においては、自分だけが言っているわけではなく、実際の被害者がたくさんいて、

「霊感商法」

 であったり、

「強制的に入会させたり」

 と、その威圧は、

「知る人ぞ知る」

 という状態であった。

 被害者たちが名乗りを挙げても、なかなか政府も動いてくれない。よほどのことでもなければ、話が一歩でも前に進むことはない。

 その、

「一歩」

 というものが見えてきているにも関わらず、政府が動き出してから、国会にいろいろな法案が上がり、さらに審議から、発令されるまで、どれだけの時間が掛かるというのか。

 もちろ、他の案件に比べると、かなり早いのだろうが、刻一刻と被害者が増え続けている中で、どれだけ、時間との対決だということを分かっているのか、実に疑問だったりするのだ。

 特に、今回は、

「元ソーリの銃撃事件」

 というのが起こったことで、浮かび上がってきた

「2世信者による教団への復讐銃撃事件」

 だった。

 元ソーリがどこまでその教団と関わっていたのかまでは、本人が死んでしまった以上、

「死人に口なし」

 であるが、そもそもこの銃撃事件というのは、

「参議院選挙」

 での遊説席で起こった事件だったのだ。

 最初は、

「政治への不満などによるテロ行為」

 かと思ったが、実は、犯人が宗教団体の二世であり、

「親が、宗教にのめりこみすぎて。自分が不幸になった」

 ということで、半分は、

「逆恨み的な犯行だ」

 と言われた。

 もちろん、元ソーリがどこまで教団に関わっていたのかということが分かっているわけではないので、ソーリが死んでしまったことで、今のところ闇の中であるが、逮捕された男の供述や、教団への捜査から明らかになってくるであろう。

 ただ、相手が宗教団体だということで、簡単にはいかないだろう。

 そのことは、政府の方も分かっていることで、今まで棚に上げてきた。

「教団に対しての捜査」

 を真剣にやることになるだろう。

 しかし、たちが悪いのが、その教団から、政府与党の政治家や、政府内の大臣たちが、かなり政治献金を貰ったり、団体の活動に関与したりと、捜査へのネックがかなり深いところにあるようだった。

 元々その、

「教団に倒れたソーリというのは、賛否両論ある人」

 ということであった。

 そのソーリというのは、一度、十数年前にもソーリとして君臨して、その頃は、まだ、

「首相」

 という言葉を賜ってもいいくらいの政治をしていたのだが、

「都合が悪くなると、病気を理由に、病院に逃げ込んだ」

 という前科があり、その時に、ソーリも辞任したのだ。

 その間に、(というか、十分にその後のことに関しての罪は深いのだが)政権交代が起こった。

 それはそうだろう。

「デストロイヤーとでもいうべき2代巨頭が、1人のつなぎ首相を挟んで君臨した」

 のだから、瀕死の人間に、とどめを刺したようなものである。

 結局、政権交代が起こったのだが、せっかく政権についた連中が、これも絵に描いたようなポンコツで、普通なら、

「いきなりやったことのない政権を任されたのだから、もう少し様子をみよう」

 といってもしかるべきなのだろうが、ほとんどの国民が、

「それどころではない。こんなやつらに政治を任せておくと、亡国へまっしぐらになってしまう」

 ということで、

「一刻を争う」

 というほどの自体になり、またしても、

「年金を消したあの政党」

 に仕方がないから、戻すしかなかった。

「じゃあ、首相は誰が?」

 ということになると、結局、

「一度病院に逃げ込んだあいつしかいないんだ」

 ということで、あの男が復活することになる。

 しかも、

「学園関係の問題」

 が一つどころか3っつくらいまで、疑惑として引っかかっていて、

「私がもし、何か不正をやっているとすれば、私は首相どころか、国会議員も辞める」

 などといっておいて、結局疑惑のままで、しかも、国会に提出した資料は、肝心な部分を真っ黒に黒塗りした、まるで、

「私の腹の中と同じです」

 と言っているのと同じ資料をぬけぬけと出してくる始末だ。

 しかも、

「その問題の渦中にあった人が、自殺をする」

 ということで、こちらも、

「死人に口なし」

 というようなことをしておいて、

「私は潔白でござい」

 とは、

「どの口がいう」

 とは、まさにこのことであった。

 しかも、このソーリ、自分の味方になる検事が、まもなく定年になるということで、

「その検事に辞められては、自分の保身ができない」

 というだけの理由で、

「なんと、法律を改正しようとした」

 ということまでやっている。

 さすがに、これには、国民は芸能人、著名人も怒りのツイートを書いていたが、それでも強行しようとしたところで、さらに滑稽なことに、

「その渦中の男が、賭けマージャンで、辞任に追い込まれた」

 という、茶番劇での終焉だった。

 さすがにこれには国民もずっこけただろう。

「ああ、しょせんあのソーリがやることだ。結末はこんなことだろうよ」

 といって、国民の笑いものになったのだった。

 何しろそれまでに、滑稽なことはたくさんあった。

「マスク問題しかり」

「芸能人とのコラボ動画問題しかり」

 である。

 細かく説明しなくても、このソーリの、

「武勇伝」

 くらい、履いて捨てるほどあるのだから、少しでもニュースを見る国民であれば、

「ああ、あんなこともあったな」

 と、このソーリを語るための、

「茶番の引き出し」

 くらいは、たくさん持っていることであろう。

「茶番というのは、この男のためにあるのだろう」

 と言われるほどであったが、それでも、最初の頃は、外交という意味で、

「今までの他のソーリとは違う」

 というところの片鱗くらいは見えていたような気がする。

 しかし、実際に蓋を開けてみると、ロクなことはない。

「俺たちは、あのソーリに騙されていたんだ」

 と感じた人も多いだろう。

 やはり、第一次内閣の時、

「病気を理由に、都合が悪くなると、病院に逃げ込んだ」

 という前科があったからだ。

 しかも、極めつけが、

「政権在任、最長記録」

 というものを樹立した数日後に、まるで判を押したように、またしても、

「病気を理由に、都合が悪くなると、病院に逃げ込んだ」

 と、前とまったく同じ文句をそのまま使えることをしたのだった。

「これでは、「政権在任」ではなく、「政権罪人」ではないか?」

 と言われたとしても、まったく無理もないことに違いない。

 そんなソーリも、病院に、そのまま逃げ込んだままだったらよかったのに、ノコノコ出てきて、水面下でまたソーリへの返り咲きを目指していたというウワサの中で、参院選応援という名目で、遊説などにいくから、

「日本のザル警備」

 のせいで、まんまと凶弾に倒れてしまった。

 確かに、暗殺行為というのは、テロ行為と一緒で、

「許されることではない」

 といえるのだろうが、

 今回の騒動だけは、犯人にも同情の予知はあるし、死んだ人間も、今までに自分のために何人が死んだか、あるいは、地獄でのたうち回っているかということを考えると、

「殺されて可哀そう」

 などとは、決して思えない。

 ただ、一つ言えることは、そのおかげで

「宗教団体と、政治家の癒着」

 あるいは、

「悪徳宗教団体の化けの皮を剥がす」

 ということに、一役買っているのかも知れない。

 もっとも、ここから先は政治と宗教の話で、今回の鍋島の親の関わった団体と、今社会で問題になっている団体とは、関係がない。逆にいうと、

「一つ変なところがあれば、10も20も、怪しいところは出てくる」

 という、まるで、一般的な害虫のようではないか。

 そんな害虫のような団体は、水面下にはたくさんある。どこまで政府が突っ込んだ捜査ができるか実に見ものであった。

 さて、今回の占いで、占い師が、鍋島におかしなことを言った。彼は誕生日を聞くと、急に顔色が変わり、

「誕生日周辺の日は、気を付けなされ」

 というではないか。

 何がいいたいのか、正直分からないが、とりあえず頷くしかなかった。ただ、不安は一気に募ってきて、理由を聞きたいが、怖い気もした。

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