17.嬉しい報告、魔法のお屋敷にて
「――それじゃあ、その時計の中の『サファイア』が、マルチナの魔法の気配を隠すということかい?」
マテウスの目は、興奮で震えている。
テオは微笑を浮かべながらうなずいた。
「よかったな、マテウス! 大成功じゃないか!」
エリアス父さんに肩を組まれたマテウスは、涙ぐみながら「はい」と答えた。その顔はいつもよりも幼く見えた。
帰国後、ソニアたちは疲れを忘れて、すぐにマテウスたちに旅の収穫を報告した。
エリアス父さんとソフィア母さんもソニアの迎えに魔法のお屋敷に来ていたため、一緒に報告を聞くことになった。
あの後、マルチナの魔法の気配をすっかり隠してしまう時計と出会うことができた。蓋にイルカが刻印され、針と文字盤が青い懐中時計だ。
ソニアの時計とはずいぶんデザインが違う。しかし共通している点がいくつもある。それは、「作った職人がアロイスで、ブルーデザインというシリーズで、受け石にドワーフ・ベルドンが採掘したサファイアが使われていること」だった。それから、「時計が作られた年」も、「サファイアが出土した国と時期」も同じだった。
マルチナがテオから時計を受け取って腕につけると、マテウスはじっくりとマルチナを見た。そして、納得したようにうなずいた。
「わたしの時と同じように、隠れてますか?」
ソニアの問いかけに、マテウスは力強く、じっくりと「ああ」と答えた。隣に座るルシアも瞳をきらめかせながらうなずく。
「まさかこんなにも早く、マルチナに合うものを見つけられるなんて。ここにいる皆には、本当に、何とお礼を言ったらいいか……」
「早くないわ」
マルチナの言葉で、全員がマルチナの方を見た。
「お父様たちがわたしに合うものを探してた二年間も入れて、今回の旅の出発までの数か月を合わせたら、二年と半年、探してくれてたんでしょう」
マルチナの魅力的な目がきらりと光ると、マテウスは涙を堪えたような表情になった。
よかった、こんなにも喜んでくれて。
何か特別なことをしたわけではないが、マテウスたちの安堵の表情にはソニアも嬉しい気持ちになった。
「ありがとう、お父様、お母様。わたしのために」
「……いや、それでお前に寂しい思いをさせてしまったのも事実だ。改めてすまなかった」
「やだ、もうやめてよ」
マルチナはテーブルを避けて、正面に座るマテウスの前に立った。そっと両手を取る。
「もう全部過去のことよ。それよりも『今』を喜びましょう。これでわたしは安全に街の外を歩けるんだから」
「だからと言って、調子に乗りすぎてはだめよ、マルチナ」
ルシアがマルチナの鼻をつつくと、マルチナはペロッと舌を出して笑った。マテウスの手を離すと、マルチナはその場にいる全員の顔が良く見える位置に立って、両手を広げた。
「ここにいるみんなに、ありがとうって心から言うわ! ありがとう。わたしのために、たくさんのことをしてくれて」
マルチナはとびきりの笑顔でそう言った。
「こちらこそ、素晴らしい出会いをありがとう」
エリアスがそう言って拍手をすると、部屋が拍手であふれた。誰もが笑顔で手を叩き、優しい言葉をかけ合っている。
なんて素敵な光景だろう。
ソニアはその光景がぼやけて行くのを感じた。慌てて目元の涙をぬぐうと、隣に座りなおしたマルチナがハンカチを差し出してきた。
「大丈夫?」
「ありがと。……うん。なんか、うれしくて」
ハンカチで涙をぬぐうと、マルチナはフフッと優しく笑った。
「ソニアは心が綺麗ね」
「……なにそれ」
「『今』が愛しくて泣いてるってことじゃない。それってすっごく心が綺麗だと思うわ」
ソニアは照れくさくなって、ハンカチで目より下の顔を覆った。吐く息でハンカチが温かくなる。
「わたし、ソニアのそういうところが大好きよ」
「……それは、わたしのセリフだよ」
そう言うと、ソニアはハンカチをマルチナに返し、ゆっくりと立ち上がった。今度は全員がソニアを見る。
心臓が船で悪党を見た時と同じくらい早く動き出す。それを鎮めようと、ソニアは胸に下げた懐中時計を握った。
チッチッチッチッチッ
時計は今日も規則正しく回っている。
その音を感じていると、自然と心臓は落ち着いて行った。
ソニアはふーっと息をつき、口を開いた。
「ここにいるみんなに、聞いてもらいたいことがあります。わたしの未来について」
「未来?」
マルチナが首を傾げながらオウム返しをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます