014. 叶羽、連休を楽しむ(?) 二日目

 高校生になっても平日のように朝五時三十分に起きることが癖になっていた俺は今日も同じように目が覚めた。

 朝食のサービスが始まる時間まで一時間ある。

 いつもホテルに宿泊すると朝シャワーを浴びる。

 今日もまたバスルームでシャワーを浴びた。

 昨日のパーティーを思い出し、夢だったのでは?と考えた。

 バスルームから出てタオルで体をふきながらベッドのところへと戻った。

 ハンガーに掛けられたスーツを見て夢でなかったことを確信した。

 キャリケースに入れてあった私服を着て部屋に置いた私物を片付けたりしていたら七時近くになっていた。

 荷物をまとめ終わったところで部屋のチャイムが鳴った。

 俺が扉を開けると姉ちゃんと社長が荷物を持って立っていた。


「叶羽~、おはよう~。荷物を持ってラウンジに行くよ~」

「荷物は先に車に乗せてしまおう。それから朝食にしようと思う」

「おはようございます。俺の荷物はこれだけなので準備はできました」

「それじゃ行こう」

 それぞれの荷物を手にして部屋を出た。


 朝食を済ませチェックアウトをする。

 チェックアウトをして清算をしているところをロビーにあるソファに座ってみていた。


「お待たせ~、次の場所までは三時間くらいかかるからね~」

「姉ちゃん、わかった」

「途中で休憩入れるから大丈夫だよ~」

「あぁ、うん」

 返事をしながら俺は車に乗り込んだ。


「何か元気ない~?悩みでもあるの~?」

「んー、別にぃ…」

「何~?姉さんにも言えないこと~?」

「そういうことじゃ、ないんだけど」

 姉ちゃんと話していても落胆した気持ちで溜息をいた。


「今日の仕事が終われば残りの連休は一緒に遊べるから~」

「うん、そうだね…」

「うん?それでも元気になれない~?」

「いや、これはもう俺の気持ちの問題、だと思う…」

 俺は姉ちゃんに相談することではないとそのまま黙った。


「まぁ、それでも姉さんの意見が聞きたければいつでもO.K.だよ~」

「はぁ…」

 俺は何とも言えない返事を姉ちゃんにした。


「私に相談する気になるまでもう何も言わないから~。その時はちゃんと言うんだよ~。私に言えなければ瑠奈ちゃんでもいいし~」

「はいはい。その時がくれば、ね」

「あ、あれ?叶羽ちゃんが冷た~い~」

「あーもうっ!付き合いきれないから寝る!」

 俺はいらいらしてきたのでヘッドホンをして目を閉じて聞こえないフリをした。


「叶羽もまだまだ子どもだね~、まぁしょうがないか~」

「美桜、あまり叶羽をからかうな。素直な性格が天邪鬼あまのじゃくになってしまうぞ」

「えっ?それは嫌かも~」

 俺には内容は聞こえていないけれど姉ちゃんと社長が楽しそうに笑いながら会話をしているのを見ていた。

 ヘッドホンから流れる音楽の音量を大きくしていたから俺にはどんな話をしているのかは判らなかった。

 というよりも姉ちゃんから直接話してくれるまで黙っていようと思っていた。

 けれど見ていないフリをするのもかなり疲れる。

 そう思いながら連休も後半。

 あいつらのRYMEライムもうるさく届くけど無視した。

 そろそろ返信しないとならないだろうけどスマホを見れないくらいに忙しかったとでも言って誤魔化そうと思っていた。


 ”ピコン”という音がして通知メッセージを見た。

 葵からのRYMEだったからそのまま無視した。

 昨日のパーティー中にもメッセージが届いていたみたいだけどスーツに着替えた時に部屋に置いてパーティーに出席したからものすごい数の着信があった。

 もう面倒臭くなって確認するのはやめた。

 それだけ確認をするとスマホの電源を切った。


「ま~た叶羽のヤツ溜息いてる~」

「仕方ないだろう?叶羽だって美桜に話せないことくらいそろそろあっても不思議じゃない年齢だ。構ってちゃんな性格ではないのだから少し様子だけ見ておこう」

「う~ん、納得いかない~。けどわかった~」

 姉ちゃんと社長がこんな話をしているなんて俺は深く考え込んでいたから知らなかった。

 俺はヘッドホンで音楽を聴いていたのと車の緩やかな振動でウトウトし始めていた。


「叶羽~、起きて~。休憩するから~」

「あー、うん」

 俺は財布を持って車から降りた。

 社長と姉ちゃんも二人で売店に行く。

 そんな姿を見ているとカップルにも見えるんだと思う。

 何人もすれ違い様に二人のこと見惚れて立ち止まっていた。


「叶羽~、何飲む~?」

「んー、コーヒー。ブラックで」

「社長は~?」

「俺も叶羽くんと同じで」

 姉ちゃんが飲み物を買いに行ってる間、社長と二人ベンチに座った。


「なぁ、叶羽くん」

「はい、なんでしょうか?」

 社長と二人きりでやっぱり緊張してきた。


「緊張するなと言っても仕方ないのかな。それはおいといて、さっきの話の続きだけど美桜に話しにくい事だとしても男同士だったら話せることもあるだろう?そういう時には俺を頼ってくれ。まぁあまり頼りないかもしれないが…」

「いいえ、頼りないなんてことはないです!ただ、これは俺の気持ちが沈んでしまうっていうことだけで何かがあったっていうわけではないので相談するようなことではないです。だからもし相談が必要ならばちゃんと相談しますから」

「そうか、わかったよ。その時にはきちんと話を聞くからね」

 社長は静かに微笑んでいた。

 その顔を見て俺は口元が少し緩んだ。


「何~?何か楽しい話でもしてたの~?」

「いや、そんなんじゃない」

「もう~、叶羽ったら姉さんに冷た~い」

「まぁ、いいじゃないか。そろそろ行こうか」

 社長が立ち上がると姉ちゃんと俺も立ち上がり車に向かって歩き出した。


「部屋に着いたらスーツと制服はクリーニングで下着と私服はコインランドリーでするからね~。姉さんの所に持ってきて~」

「了解」

 車から荷物を下ろして俺は答えた。

 姉ちゃんは自分のキャリーケースの上に社長の荷物を載せて運んでいる。

 いつものように姉ちゃんがチェックインをしている。


「叶羽~ごめんね~。ランチを一緒にと思っていたんだけどね~。ちょっと渋滞してたからもう行かないとならないの~。悪いんだけど一人で食事しておいて~。本当にごめん~」

「いいよ。渋滞は仕方のないことだし、社長と姉ちゃんの仕事のおまけで俺も連れて来てもらってるんだから。俺は適当に食べておくよ」

「その代わり、夕食はがっちりいくからね~。帰るまで待っていてね。これが叶羽の部屋のカードキーだよ~」

 姉ちゃんから部屋のカードキーを受け取った。


「行ってらっしゃい、気を付けて」

「それじゃぁ、行ってくるね~」

 姉ちゃんはニッコリ笑ってロビーから外に出た。

 俺はまた部屋まで一人で行く。


「昼ごはん食べるのメンドくさいな~。夕ご飯に期待できるみたいだから別にいいか」

 部屋の中に入り、一人呟いた。

 なんとなくテレビを見る気にもならなかった。

 ヘッドホンを繋いで今勉強中のフランス語を聞いていた。

 それさえもあまり身が入らなかったからただ聞き流していた状態だ。

 それもこれはRYMEの着信音が鳴り止まないからだ。

 もう溜息が止まらない。


 また”ピコン”とRYMEの着信が鳴った。


 ―今、戻ったよ~。いつも通り叶羽の部屋の隣に私の部屋を取ったから選択するものとクリーニングに出すもの持ってきて~―

 ―わかった。今持って行く。高校の制服はまだ一カ月しか着てないけどクリーニングした方がいいの?―

 ―う~ん、何があるか分からないから出しちゃっていいよ―

 ―了解―

 姉ちゃんとRYMEのやり取りをして立ち上がって洗濯するものを持って行く。


「姉ちゃん、これお願いします」

「ベッドの上に置いといて~。こっちも一緒にやるから~」

 俺は姉ちゃんのスーツが置かれた上に重ねて俺が着たスーツと制服を置いた。


「夕食はホテルの外で食べるから~。今日は期待して~」

「了解」

「それじゃ社長が来るまでコインランドリー行ってくる~」

「じゃぁ、俺も部屋に戻ってる」

「うん、終わったら叶羽の部屋に行くから出掛けられる準備だけはしておいてね~」

「はいはい」

「返事は一回」

 姉ちゃんに笑いかけながら姉ちゃんの部屋を出て自分の部屋に戻った。

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