救いの無い世界、それでも俺達は生きていく 〜スラムの孤児だった俺が魔王と呼ばれるまで〜

かふ

第1話 始まりの二人


 トトトトトトトト


 僅かばかりの振動をケツに感じ、ポツリと呟く。


「やっとか…」


 隣に座る相方のエメラルドグリーンの目が、眼鏡の奥からこちらを見やるのが分かる。


 ヤツの口角がゆっくりと上がるのを見て、俺は足元に無造作に置かれたバックを拾い上げる。その、ボロキレのような肩掛けを斜めがけにし、癖のある黒髪をワシャワシャと触りながら俺はたちあがる。


「ふぅ…ようやくのお出ましやね。」


 相方がため息とともに吐き出した言葉に俺は同調する。


「ああ…、もう一月は待ってたかもな。」


「まあ、こんなボロ屋でのバケーションも僕達には丁度良いぐらいだったかもねぇ。ありがたや、ありがたや」


 相方がニヤつきと共に吐いた言葉に笑みを返し、慣れ親しんだ我が家を見渡す。


 屋根はところどころ吹き飛び、壁には地面から伸びたツタが天井まで絡みついてる。


 年月を思わせる風車小屋の中、俺達は準備を整え互いに顔を見合わせる。


「そんじゃあ…」


「「いきます(しょ)か!!」」


 バコンッ!!


 先ほどの仮住まいへの感謝は何処へやら、相方が勢いよく蹴り開ける扉から外へ出る。


 砂埃から目を覆いながら、音の出どころを探る。


「あれやない?」


 相方が指さした先で、鈍く光る白い粒が段々大きくなってゆく。


 一面の砂漠の薄茶色の中で、こちらまで伸びる黒いアスファルトが酷く異質な感じを与える。


 目的を視認した俺達は予定通り、いそいそと準備に取り掛かる。


 俺が天高くサムズアップし、隣の相方は薄汚れ黄ばんだ布地に、赤いペンでぶっとく[STOP]と描き始める。


 描き終わったそれを俺と同様に天高く掲げ、前方の白点に向ける。


 スサァァーー


 風に吹かれ舞い上がる砂粒が目元深くまで被るフードに当たりパラパラと細かな音を立てる。


 チラリと隣を伺うと普段のお調子者は、この時ばかりは緊張した面持ちをしていた。


 緊張していたのが自分だけでないことにホッとしつつ、頼れる相方の珍しく弱気な所を見て自分がしっかりせねば!と気持ちを引き締める。


「シオン、扉を蹴り破ってまで出てきたんだ。ここで失敗しちまったら、どんな顔して我が家に帰るつもりなんだ?」


 背中を叩きながら冗談をかける俺に、相方…シオンがいつものニヤケ面を取り戻し応える。


「分こうてるよ、アレン。まあ、やり損ねたら掃除でもしてご機嫌を取ることにするわ。」


 そんなやり取りは徐々に近づく音にかき消され…


 砂埃の中で重く鈍い音のみが広がる。


 ドドドドッ


 重いエンジン音が耳を揺らし、


 ドドドドドッ…ドド


 地面の振動が大きくなり


 ドドッド………トトトトトトトト


 小刻みになり


 トトトトト…トト……………


 やがて、俺達の目の前で止まった。


 スッと砂埃を巻き揚げていた吹く風が止み、視界が広がる。


 そこには、鈍い白の大きな四輪のジープ。


 茶サビがところどころに目立ち、長く使用されてきた事が覗える。


 車体の天井部には無骨で巨大な機関銃が取り付けられており、太陽光のために熱くなった銃口は俺達の頭部へと向けられている。


 あの銃口から放たれる7.62mmは1秒に10〜15発程度、ましてやこの距離だ。俺達の頭など一息付く間に跡形も残さず吹き飛ぶだろう。地面に落ちたスイカのほうが未だ原型をとどめているはずだ。


 そんな事を考え、震えそうになる足をつねり留める。少し落ち着いた頭で、機関銃を操る射手の様子を把握する。


 俺達へと銃口を向けるのは見たところは40代くらいで茶色の深いヒゲが特徴的な男。首元から腹部を防弾プレートで覆い、半透明バイザー付きのヘルメットの奥から、俺達2人の動きをしっかり捉えている。少しでもおかしな行動をしたらすぐにトリガーを引くだけの冷徹さをその目から感じた。


 その深いヒゲに隠れた口がゆっくりと開かれ、俺とシオンの身体には緊張がピンと走る。


「残念ながら、金目のモノは期待できなそうだ…。見た所はガキのようだが………………、お前たち新人類だよな?」


 この世界では非人類領域を子供だけで歩いているなんぞ、十中八九で新人類以外はないだろう。目の前の男は確信を持ったうえでこの質問をしてきている。


 ならば、俺達が返すべき答えは…


「ああ。俺の異能はテレポートで、こっちのはプレコグニションだ。」


 男は一瞬目を見開き、しばらくしてその凶悪なしかめっ面を破顔して笑う。


「クカカッ!!ガキにしては利口だな、最低限この世界の掟を知ってるみたいだな。」


 男が話すたびに、ガラス成分を多く含む砂がその口髭からこぼれ落ち、キラキラと光る。


「平和に世間話をするにしてもこのご時世だ。悪いが俺達旧人類は臆病なんでな……、俺のことを安心させる義務がてめーら新人類にはあるってことだな」


 俺は自分の答えがお眼鏡に適った事に内心ホッとしつつも、余裕の表情を崩さないように話す。


「ああ、伊達に16まで生き延びてないんでな…」


「そうかよ、なら次は何するべきか分かるな?お話はその後だ。わざわざ俺を停めたんだ、対価は期待でにるんだよな?」


 男が俺達を見定めるように目を細め、俺達は頷く。


「そうだったらいいんだけどね…。俺の異能では、直径数センチ程度のテレポートゲートを作ることができる。」


 そう言って俺は足元の小石を拾い上げ手のひらに落とす。


 同時に俺の右目からツッと光が溢れ、異能が発動される。


 小石は重力に従い落下し、俺の手のひらへ作った時空の歪みへと吸い込まれる。そして、地面の上にできた対となるゲートから排出され、砂の上に転がった。


 やがて右目の光はフッと消え去り、眼球に赤黒いクロス状の紋様が浮かび上がる。


「そんなもんか…。新人類もピンからキリだよな、本当に。」


 男はそう言いながら、シオンに次の行動を顎で促す。


「僕は少し先の未来を見ることができるんよ。」


 そういうとシオンのエメラルド色の右目から眩い光が溢れる。数秒してその光はゆっくりと消え去り、シオンが俺へと小さく頷いた。


「んで、そっちのガキはどんな未来が見えたんだ?」


 少し興味深そうに男は尋ねる。


 シオンは少し考える素振りを見せると満面の笑みで言う。


「どうやら僕らのお話会には、会話よりも鉛玉が多く飛び交うみたいやわ」


 男はそれを聞き一瞬ポカンとするも、直ぐにシオン同様満面の笑みで返す。


「そうか、話が早くて助かる。臨時収入ってとこかな?」


 カチリ、


 男がトリガーへとかかる指に力を入れる。


「アレェェェェエエエン!!」


「任せろッ!!」


 グオゥン


 左目の発光に従い、歪な音と共に銃口の前にゲートを生み出す。現れた不安定な渦は、激しい音を連れて放たれた銃弾を音もなく吸い込んでゆく。


 ズドドドドトトトトトトトッ


 先ほど出現させたゲートの片割れから、地面へ向って大量の銃弾が突き刺さる。


「ゲートは数秒しか持たねぇ!早くしろ!」


「了解!!」


 シオンがパーカーの影に隠していたナイフを取り出し、男へと飛びかかる。


 その長身を活かし、一気に彼我の距離数メートルを縮め、ジープの車体を駆け上がる。


 シオンの接近に気付いた男は、俺に武器が無いことを即座に見抜いて、優先順位を素早く変更する。


「餓鬼が!!見えてるぜぇ?」


 男が銃口を俺からシオンへと向けるが、1メートル以上ある機関銃はそれよりも近くに接近した相手へとは意味をなさず…


「僕の方が速いみたいやわ!!」


 防具が唯一覆ってない顔の下半分、下顎から男の口内へと鈍く光を反射するナイフをねじ込む。


 グッ、ゴリッ!!


 ナイフは舌を真っ二つに切り裂き、口内をその刃に沿って左へと進んでゆく。


「うぉぉぉおおおお!!」


 ゴツッ!!

 

 耳付近の顎の付け根を力任せに砕き、刃は側頭部を貫通する。


 シオンはその長い腕を力任せに振り抜き、右顎を顔と繋ぐ頬部分を容赦なく引き裂いてゆく。


 スススッ

 

 柔らかく骨のない頬はその弾力以外に一切の抵抗なく侵入する刃を受け入れる。


 プツプツと小さな音とともに切れた頬から、口内に溜まっていた血が溢れ出し、白い車を朱に染めてゆく。


「うぐぅッ!!」


 痛みに右目を瞑り、顔を顰めた男に死角ができる。男から見て右下、空いたスペースにシオンが身体を滑り込ませる。


「詰み…やぁぁぁぁ!!」

  

 下顎が完全に分離し、風通しの良くなった右側面にナイフを持たない左手で殴りつけ、銃座から引き剥がす。


 ドゴッ!!


 高さ2メートルは有るだろうジープの屋根から転げ落ちた男を追い、俺は距離を詰める。


 口内にナイフをねじ込まれたといえ、脊椎や脳など主要部分に損傷を受けていない男は、すぐさまに立ち上がりこちらを睨みつける。


 グフッ…ガハア……


 荒い呼吸とともに右頬から赤黒い血と裂かれた舌の片割れがズルリと滑り落ちる。


 ビシャリ

 

 その落下が開始の合図のように、男がこちらを狙い動き出す。


 俺の方へと突進してくる男の腕を掻い潜り、その太い右足に絡みつく。


「うおぉぉぉお!!」


 男の太い丸太のような足を動かし、地面に組み伏せようと体勢を整えてゆく。


「ぐぞがぁぁッッ!!」


 悠長な事を許さないとばかりに背中を殴りつけられ、呼吸が一瞬止まるが気合で力を入れなおす。


「さ い ご だぁあ!!」

 

 そのまま押し切り、男の足を取る。体勢を崩した男は顔面から砂地へとダイブする。


 ガキンッ!!


 衝撃で防弾プレートとヘルメットが噛み合い、脊椎部を圧迫したのだろう。苦しそうに呻きながらも、地面に膝を突きつつ立とうとする。


 防具の重量のために、かなり緩慢な動きで男が立ち上がり、ノロノロとこちらへ向かう。


 そうやって、こちらを振り返るヤツの顔は血に砂がまとわりつき、あまりにも酷い姿だった。


 プルプルと裂けた舌を懸命に持ち上げ、掠れた声で言葉を絞る。


「ゴボッ…、おまえだぢぃ…。ォレヲだれだどぉもづでいるぅ!!ごろじでやッッッッ」


 ゴリリッ!!


 呪詛を吐く男の背後から、シオンがナイフが突き立てる。それを最後に、プツリと糸が切れたように身体がグラリと倒れた。


 動かない男を確認し緊張の糸が切れ、俺もへなへなと倒れ込む。

 

「ハァ…、やったんやね……」


 屋根の上からため息とともにシオンが降りてくる。


 シオンが手を貸し、それに捕まりゆっくりとたちあがる。


「まじで………、やれるとは…」


 俺の呟きに、苦笑いとともにシオンが応える。


「ちょっとは信用してやぁ…。まあ、僕自身も自分の見た未来とは言え、信じきれてなかったんやけどね…」


 肩で息をする俺達は互いの無事を確認しあい、ようやく安堵する。


 二人で、地面に倒れ伏す男を見やりながらこれまでの計画を思い返す。


 10年以上過ごしてきたクソみたいな故郷でシオンが突如見たというこの光景みらい


 人類の約9割が死滅した核戦争、100年以上の争いの末に当事国の滅亡という形での集結から数十年が立った現在。そんな中に孤児として生まれた俺達二人が成り上がるには力を手に入れるしかない。


 戦争末期に世界中にばら撒かれた放射能の影響で破壊されたDNAは奇形児や通信障害、機械類の破壊など様々な問題を人類へと齎した。だが、それは同様に人類に突然変異という新しく急速な進化をも与えた。


 核戦争後に誕生した子供の半数以上は奇形などの障害を持ち数年も経たず死亡する。


 だが、そんな中で突然変異がプラスの方向に働いた者たちは生き延び、新人類と呼ばれるようになった。


「まあ俺達の異能なんてもんは…たかが知れてるけどな」


「そうやなぁ。君の作るゲートは親指よりも小さいし、

 異能全般やけど一日2回までなんて制限もあるやんな…」


「お前のプレコグニションみらいしは数分先の未来が見れるだけだもんな」


 両目に赤々とクロス状の紋様が浮かび、全体的に疲労がヤバい俺とは違い、紋様が片目に留まっているシオンは比較的楽そうである。

 

 新人類に与えられた超能力は、微々たるものが多い。それでも全てが不足し、一昔前の銃器が全てを圧倒する現在では大きな武器であることには違いない。


「まぁ、無意識で遠い未来をみることもあるわけだ。今回のでそれが単なる勘違いじゃないことが証明されたな」


 シオンが1年程前に見た未来、俺達は半信半疑ながらもそれに縋りここまでやってきた。


 都市の方針により、焼却破壊が決定されたスラム街にいても、いずれジリ貧でくたばる事は目に見えていた。それならばと、移動手段と武器と金が手に入るというこの未来に賭けようとここまで来たのだ。


 会話もそこそこに、俺達はお目当ての物資を見つけるため、俺は死体をシオンは車体を漁ることにする。


「特に目ぼしいものは……ないな。ソーン・ケースターがこいつの名前か…」


 財布の中の市民証をチラリと見て、それ以上は興味深いものも無く、中の金だけ抜き取り投げ捨てた。


「終わったよぉ」


 無謀ながらも1年間共に歩んできた相方が、車や死体を漁り終えてこちらへ向かってくる。


「アレン…」


「ん?」


「この人が使ってた機関銃あるやんな?」


「それがどうかしたのか?見た感じ、銃座から取り外せそうだけど。」


「あー、取り外せるのはそうなんやけど、重すぎるしあれ単体では運用不可能そうやね。それよりな…どうやら、僕がインファイトした時に壊してもうたみたいなんよ…」


「そっ、そうか…。まあ仕方ない、他にも武器はあっただろ?」


 そう尋ねるとアレンは言いづらそうに口をモゴモゴさせる。


「なんだよ、武器が手に入るって未来なんだろ?」


「あー、あるにはあるんやけど…」


 そう言ってシオンがポケットから取り出したのは一丁の拳銃と3つのフラググレネードだった。


 想定の5つほどグレードの低い武器に、やるせなさがゾワッと襲ってくる。

 

 1年間かけた旅路がこれだけ…


 これなら俺達のいたスラム街でも1年あれば十分に揃えられる。


「まじか…」


「がっかりやねぇ…。でも、ほらお金は多少あったやんか」


 そう言ってシオンが手渡す革ポーチの中身を見る。中には多少の現金と、何かしらの取引の証明書らしきもの。

 

「だいたい…14万ゴレか」


「アサルトライフルが25万ゴレくらいやから…、全然足りんねぇ…」


 この世界の脅威は何も武装した人間だけじゃない。戦争中に各国が作り上げた生物兵器や機械兵、放射能によって変異した変異生物なんかもいる。人類の影響下を離れたそいつらが、俺たち生存者には大きな障害となってくる。


 そのため、そんなやつら相手に対等に戦うには特製の銃器、いわゆるプライマリーウェポンが必要になってくる。


 技術の粋を掻き集め作られたそれは、技能と知識を持つ職人により一つ一つ手作りされるものなのだ。

 

 それらは拳銃タイプ一つでも60万ゴレと、普通の拳銃の20倍程度する。


 現状で流石にそれは買えないため、最低限生き抜くには弾数が多く、小型生物や生身の人間相手なら有効なアサルトライフルが必要だったのだ。


 そういう訳で計画が崩れる音を聞きながらも、一応ポジディブに考えようとしてみる。

 

「ま、まあ車は手に入ったんだ。これだけでも十分にアドだろ?」


 立派な四輪駆動のジープを見上げ俺は言う。


 そんな俺にシオンはまたもや言いにくそうに答える。


「その事なんやけどな…。この車、持ち主承認が必要なお高いタイプのやつみたいなんよ…」


 それを聞き、俺は苦労の旅路の疲れがドッと感じる。


「ハ、ハハ。俺達の1年は…なんだったんだ…。もう水や食料なんかも殆どないぞ。先行投資として蓄えの全ては使っちまったんだ。まして、こんな砂漠のど真ん中じゃ、都市へも行けやしない。」


 どこかの都市までこの砂漠を歩くのはまず不可能だろう。ここへ来るのだって二人で5万ゴレという大金を払っているのだ。都市間の輸送トラックでの密航を2週間ほど経て、未来視に従い来たのだ。性根たくましい密輸送業者だって、こんな砂漠のど真ん中に客を探しにくるなんてあり得ないだろう。


 自分で現状を説明し改めて絶望的だと思う。そんな俺にシオンは肩を叩き、


「諦めるのはまだ早ーーーーーい!!見なさいや、これを!!」


 デデデデーン!!シオンが軽快な効果音を口ずさみながら、背後から隠された物をおもむろに取り出す。

 

「そ、それは!!」


「そう、サンドボード!!」


「ナイスだよ、シオエモーーーーン!!」


 シオンが車から降ろしたその2枚の板が俺達に希望を与える。砂漠移動用のホバーボードであるサンドボードは、電力で動き砂の上を滑りながら動くため、圧倒的に移動が楽になる。


「これなら都市へも行ける………かも!」


 ゴソゴソとシオンが車内から地図を取り出し、現在地を指差す。


「彼のメモと照らし合わせる限りやと僕らはここらみたいなんよ。ここから150キロほど行った所にな、イヴァン市なる都市があるらしいんよ。」


「うーむ。赤くマーカーしてあるのを見るに、こいつもそこが目的地だったのかもな」


「かもしれんね。なんにせよ、僕らの進む先は決まったわけやね。」


「ああ!俺達はイヴァン市へ向かいそこで金を稼ぐ!細かい事はついてから決める!」


 俺の言葉にシオンがニヤニヤしながら茶々を入れる。


「アレンはいつも行き当たりばったりやもん。そんなんじゃ先が思いやられますなぁ…」


 そんな言葉に俺はシオンをまっすぐ見つめ応える。


「だから、お前がサポートしてくれるんだろ?」


 俺の言葉に、一瞬シオンは豆鉄砲を喰らった鳩のように顔をきょとんとさせ、しばらくしてじわじわと赤面してゆく。


「ずるいわぁ、そんなん。未来視るんも疲れるんよ、僕。ほんま勘弁してやぁ…」


 そういって顔を背ける相方の大きな背中を通して、俺は不確かな未来の中で小さいながらも確かに希望を視ていた。


 どんな環境でも俺とこいつならなんとかなる、そんな無根拠な自信がある。だからか、柄にもなく言葉に出してしまった。


「お前は異能なんて使わなくても…俺に未来を見せてくれてるよ、相棒」


 ビュオゥッ!!

 

 ポツリと呟いたその声が砂漠に吹く風とともにかきけされた…………はず。


「ちょい、今なんか言うた?」


「あー…。なんもねーよ、早く行くぞ!!」


 無慈悲で静かな砂漠には、照りつける日差しで日焼けでもしたのか、真っ赤に染まった顔が二つ並んでいた。

 

 


 

 


 

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