オンライン授業体験1

狼男

第1話

悔しい。浪人する元気はない。町山浩二は肩を落としていた。大学受験で国立大学に落ちた。二次試験は英語と数学だったのだが、手ごたえはなかった。テスト終わり後、下を向きながら歩いていたら突然、マイクが向けられた。

「テストお疲れ様です。テストはどうでした。」

テレビ局の人間らしいことがわかった。

「ぼちぼちです。」

「来年からセンター試験が廃止され、共通テストに変わりますが、どう考えていますか。」

ここからなんて答えたのか記憶がない。

後日、合格発表をみると自分の受験番号はなかった。

今から後期のセンター利用入試で合格した大学の入学手続きをしている最中だ。

町山の高校は県内でも有数の進学校であり、彼のクラスメイトが難関国立大学や有名私立大学に合格していたことは、彼の劣等感を余計に刺激することになった。

彼は4月に地方の私立大学に入学した。

大学の入学式はズームで行った。翌日、これからの説明会に対面で参加した。そこで履修登録をした。

その場で、かれは、金崎大和と知り合った。町山がこう漏らした。「友達ができてよかった。高校時代友達が少なかったんだ。」

金崎はそれを聞いて、「実は俺、浪人していて、年齢は君より、一個年上なんだ。」

こうして二人は大学の帰りに一緒に駅まで歩くことにした。金崎は電車で通学している。それに対し、町山は電動自転車で通学している。


時は2020年4月。世の中は未知のウイルスで混乱していた。外出制限も出ていた。誰もが、感染の心配をしていた。と同時に、授業の心配をしていた。町山は大学のホームページを確認してみた。するとそこにはメッセージが記載されていた。要約すると「オンライン授業で代替します。」

という言葉に尽きた。町山に衝撃が走った。彼は高校時代、クラスになじむことができなかった。保健室登校をしていて、教室への出入りを繰り返していた。彼は大学進学を難しいのかと悩んでいたが、オンライン授業への切り替えは彼にとって救いとなった。

町山は一人暮らしをしていたが、母親が下宿先に掃除をしに来てくれた。オンライン授業ということで実家に帰ることにした。彼はそこでミスを犯した。彼は、学内専用サイトのIDとパスワードの紙をもらったが、それらを下宿先において、実家に帰ってしまったのだ。つまり、サイトにログインすることができない。仕方がないので大学の部署に電話した。「もしもし、R大学ですか。IDとパスワードを下宿先に忘れてしまって。」

「かしこまりました。今回の場合、仕方がないので、パスワードをお教えします。」

町山は大学の職員から何とかIDとパスワードを教えてもらい、実家からサイトにログインすることができた。

初めてのオンライン授業の日。教授からメールがあった。「授業の開始5分前にはズームに入っていてくださいね。」

当日、教養科目の授業があり、IDとパスワードを打ち込んで、ズームに入った。すると先生の家が見えた。先生は丸顔で眼鏡をしていて、七三分けだった。背景に時計がうつっていた。「では、授業を始めます。」と先生が話し始めた。皆マイクはミュートにしてある。カメラはオン、オフどちらでもよかった。

町山は、ツイッターをみていた。自分の大学名で検索をかけると、そこには、同じ授業を受けている受講生がパンケーキを食べながら授業をうけている投稿があった。

思わず顔がほころんだ。先生の顔とパンケーキが移っていた。



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