自己顕示欲
ボウガ
第1話
「立派なマネージャーだったのに」
「タレントの不祥事じゃなくて、マネージャーかあ」
ある暴力事件の加害者となったA、彼はタレントBのマネージャーを務めていた。Bは、大物でテレビに引っ張りだこだ。
「どうして、こんな事を?」
「私は、彼より目立ちたかった、相手の人をひきはがせば、タレントを守り切ったよいマネージャーとして評判になるとおもって」
「だからといって、ここまでする事はないだろう」
「……」
暗闇での犯行。被害者は犯人の顔をみていない。警察官の一人がうたがっている。
「本当に彼がやったんでしょうか?あんなに人がよさそうなのに」
「人は見かけによらないという」
上司が答えた。
数か月後、別の犯人が捕まった。実は、犯人はタレントだったのだ。これまで世間は彼を、あかるい人気もの、控えめな性格で人を引き立てる人。といっていたが、評価は一転“目立つためになんでもする人”という評判になっていく。
それもそのはず、人を襲った理由、彼の自供は
「誰よりも目立ちたかったから」
ということだ。
「もし有名な人間が事件をおこせば、良し悪しはおいておいて、一大ニュースになる、それをねらったんだ」
そしてマネージャーは解放され、世間は彼をもてはやした。
「犯人を庇った人」
と、まるでよくあるドラマの設定のように。
マネージャーはほくそ笑んだ。思い出すのは酒場でからまれ、怒りに震えたタレントBの顔だ。マネージャーは長らくそばにいて、彼が何がおこり、何をいえば怒るのか知っていた。かっとなると、周囲が手をやくことがあった。世間での評判は温厚な人だが、Bはいつも手を焼いていたし、昔からの知り合いなのに、よっぽど人がよい自分のほうが彼にひどい扱いをうけていた。殴られる、わけもなく怒鳴られる、からかわれるのは日常茶飯事だった。
そしてあの場をセッティングした。知り合いに莫大な金をつんで“彼を怒らせて”もらった。大けがをする可能性があることもつげていた。そして目論見通り事件はおこり、酒場をでた知り合いは、彼に暴行をうけ、一度はマネージャーがもみけした。
そして被害者は、時間をたって真犯人をいう。そこまでが口裏合わせだ。すべてがおわったあと、被害者にAは尋ねられた。
「お前のくれた金にくらべ、これくらいの怪我なら、問題はないさ、そこまでして、お前は何がほしかったんだ」
Aは答えた。
「自己顕示欲さ、ようするに、俺はどんなに人がよくても人に認められることはなかったんだ」
自己顕示欲 ボウガ @yumieimaru
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