初発電車は4時4分.2

 スマートウォッチが自分の意思を訴える赤子のように鳴いて震える。

 カエサルは目を覚まして画面を見ると、アラームの時刻より一時間早い。

 一件のメールが届いていたので内容を見る。

 そこにはヘイストゲームの参加者の一人と決まった事が書かれている。

 カエサルに参加する意思は微塵もなかったが、選ばれたプレイヤーに拒否する権利はないとも書かれている。

 最後まで読んだソレを、カエサルはゴミ箱に送って二度寝した。

 バッテリーは確かに1%だが、もう一年以上そのまま。だから殺し合いに参加する気なんて毛頭なかった。

 今日も学校に行き、人助けするためにヒーロー姿でパトロールを始める。

 今日も我を忘れたように暴れるプレイヤーばかりで、助けるどころか警官に助けられるばかり。

 それでもめげずにパトロールしていると、目の前の交差点で事故が起きた。

 怪我して動けない人を助けようと駆け出す。

 一歩足を踏み出した時、目の前の世界が一瞬にして変わる。

 目の前はもちろん、スニーカーのソールが踏んだ床も真っ暗だ。

 一瞬視界がバグったのかと思ったが、自分の姿は変わらず見えている。

「ここはどこ?」

「ここはヘイストゲームの説明兼準備会場です」

 機械的な口調と共に、カエサルの身長より高く分厚い木製の扉が現れる。

「私は今回のゲームのゲームマスターです。カエサル様、お迎えにあがりました」

「迎えに来た?」

「ええ。もう開始時刻はとっくに過ぎております。指定した場所に現れませんでしたので、お迎えに上がった次第です」

 丁寧だが有無を言わせない雰囲気を持っている。

「すぐに帰してください」

 カエサルはそんな空気を平然とぶち壊した。

「僕は参加しません。それに事故で怪我した人達を助けないといけないんです」

「あなたのバッテリーはもう僅かなのは調査済みです。このゲームを勝たなければゲームオーバーになってしまいますよ」

「大丈夫です。もう一年以上このままですから」

 カエサルは自分のスマートウォッチをモニターにかざす。

「それはバグです。調査の結果最新のアップデートを免れた極めて珍しい不具合なのです。しかしその問題も解決しました。なのでカエサル様のバッテリーは正常に減少していきます」

 威勢の良かったカエサルも、GMの言葉に勢いを失っていく。

「本当に、バッテリーが切れるんですか? 後何日でゼロになるんですか?」

「一時間以内に使い果たします」

 ヒーロー姿のまま床にへたり込む。

「そんな、どうにかバッテリーを回復する手段はないんですか」

「以前はオリブの塔の発電施設から電力が供給されていましたが、カエサル様もご存知の通り、九年前から現実世界とは音信不通。恐らく発電施設は稼働していないものと思われます」

「じゃあこのゲームに参加するしかない……」

「はい。例外を除いて参加するプレイヤー全員を倒せば、カエサル様のバッテリーを回復しましょう」

「それってプレイヤーから殺して奪えって事だよね」

 ヘイストゲームのプレイヤーは基本的にバッテリーが少ない。そして負ければバッテリー残量は全て勝者の者になる。

「ヘイストとはそういう意味ですから」

「そんな事したくないです。僕は人を助けるヒーローだから」

「参加した略奪者プレイヤーに倒されればいいではありませんか」

「どういう意味ですか」

「先ほども言った通り、勝ったプレイヤーはバッテリーを得る。カエサル様がこのゲームでライフがゼロになれば、誰かの命を助ける事ができますよ」

「そんな方法、ヒーローじゃない」

「ならば、襲撃者から身を守るしかありません。カエサル様が参加することは絶対。ゲームから出たければ全員に勝つか、負けるしかないのです」

 GMの言葉一つ一つが重石のようにのしかかり、カエサルは頭を上げる事ができない。

 何も言わないカエサルにGMは畳み掛ける。

「ではこちらを」

 項垂れるカエサルの前に宝箱を模したリュックサックが出現した。

「カエサル様のクラスは宝石箱ジュエルボックスになります」

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