鬼人材派遣センター
西坂
鬼人材派遣サービスについて
鬼の人材派遣サービスをご存知だろうか。
本物の鬼が依頼主のもとに派遣され、何かしらの業務に携わってくれるサービスだ。
おとぎ話のように思うかもしれないが、業務実績もあり、事業として確立していた。
そんな人材派遣(鬼)のサービスのことを知った兼助は、すぐに派遣会社に電話した。
何回かのコールの後、受話器から女性の声が聞こえた。
「お電話ありがとうございます。鬼人材派遣サービスです」
「もしもし、そちらの派遣サービスを利用したいのですが」
「鬼人材派遣のご利用ですね、ありがとうございます。鬼にご希望の業務内容をお教えいただけますでしょうか」
「はい、私の村では鬼に仮装した村人が村内の家々を周るという伝統行事があるのですが、高齢化と過疎化による人手不足で鬼の仮装役がいないのです。村の若い衆は一日駆り出されるのに、手当が少ないと文句を言うばかり。こちらとしては、村人たちの家内安全、無病息災を願う伝統ある行事なので、どうしても行いたいのに…。ですので鬼役、いや本物の鬼を派遣していただきませんか」
「かしこまりました。ぜひともお客様のお役に立ちたいと存じます。派遣させていただくにあたり、いくつか質問をさせていただきます」
対応してくれた受話器の向こうの女性から、行事の日程、村の所在地や希望する鬼のサイズ感、または鬼の体の色など、いくつか質問された。
鬼のことはよくわからなかったので、逆に鬼のことを質問しながら、どんな鬼が良いのか兼助は考えた。
そして全ての質問事項に答え、当日の流れと派遣される鬼の詳細が決まったのだった。
「質問事項にお答えいただきありがとうございます。最後に何か確認事項などはございますでしょうか」
「そうですね…当日の鬼のパフォーマンスによってではありますが、また来年も頼むかもしれません。そのときはまたお願いします。」
これで当面は人手不足で悩む必要はなくなる。
兼助は安心したが、受話器の向こうの女性は苦々しく応えた。
「申し訳ございません。弊社ですが、本年度をもって廃業することになっています。ご希望に沿えず大変申し訳ございません」
「そうなんですか!?せっかく来年もなんとかなると思ったのに…やはり不景気の波ですか」
「いえ、業績はむしろ右肩上がりです。」
「じゃあ、なんで閉業するんですか」
「はい、実はこの派遣サービスに登録してくれる鬼が不足しているのです。弊社よりも待遇が良い業界業種は他にもたくさんあります。仕事をするなら待遇のより良い方に鬼達も行きたがるのです」
そうなんですね…と兼助は少しモヤモヤしながら受話器を置いた。
鬼人材派遣センター 西坂 @nishisaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます