挿話 ある晴れた日の公園で

「みゃ? こんなところにトカゲちゃんが引っくり返ってる……」


 きょうは王様のお誕生日だから、魔法学院も休校になって午前中から暇していたあたしは、メイドのセーリャを連れて王都にほど近い国立公園へ遊びに来ていた。

 その道中、小休憩をしていた東屋で、一匹の小さなトカゲがベンチの上で仰向けになって倒れているのを見つけた。

 あたしは爬虫類が大丈夫な人だから──黒魔術の自習で扱いにも慣れてるし──指先でお腹をツンツンして、生存確認をしてみる。反応はとくに無かった。


「ああ、きっと運悪く誰かのお尻の下敷きになってしまったんですね……〝ざまぁ〟でございます☆」

「ちょっと、セーリャ! そこは〝かわいそうに〟でしょ、もう!」


 セーリャは黙っていると天使のように可愛らしい子なんだけど、なぜか口がめっちゃ悪い。なにか少しでも気にいらない事があったり揚げ足を取られたりすると、「早く死ねばいいのに」とか「それってあなた個人の意見ですよね?」とか、初対面の貴族にもそんな言葉遣いをフツーに使っちゃう。おかげで、主人のあたしが毎回ヒヤヒヤしっぱなしなのよねー。


「生きてはいるみたいだけど……元気が無いわね……なにか食べれば元気になるかな? ねえセーリャ」

「かしこまり。ロアお嬢様はお優しいんですね……そこがまたそそられてしまいます・・・・・・・・・・


 なんか不穏な発言があったけど、セーリャがお弁当やデザートを入れてあるピクニックバスケットから食べ物を取り出してくれた。


「んん? これって、干し肉?」

「はい。鶏の干し肉でございます」

しぶっ……うら若き乙女のランチに干し肉って渋っ……オッサンの酒のおつまみじゃないんだからさ、せめて鶏ハムとかフライドチキンとか持ってきてないの?」

「はい、もちろんございますとも。このバスケットには、持ち物制限いっぱいまでいろんな食料と私奴わたくしめの真実の愛が詰め込まれております♡」

「(真実の愛?)う、うん。なんか……その……ごめんね」


 とりあえず、受け取った鶏の干し肉をトカゲちゃんの鼻先に近づけてみる。

 しばらくすると、においを嗅いでからぱくりと噛みついた。


「あっ、食べてる食べてる♪」

「はい、お嬢様。クソザコトカゲの分際で、人間様の食料を食べてやがりますね」

「……せっかくだからさ、ちょっと早いけど、あたしたちもお昼にする?」

「えっ? ここで……ですか? 露出プレイがお好きだったなんて……ポッ♡」

「うん、絶対に誤解してるわよね? そもそもピクニック自体が野外露出の極みだし。って、嫁入り前の乙女に野外露出って言わせないでよ! それと、あたしの服を脱がそうとするのマジでやめて!」


 あたしたちが揉めているあいだに、トカゲちゃんは干し肉をきれいに食べ終えていた。

 すっかりと体力が回復して元気になったのか、トカゲちゃんは頭を上下に二回振ると、俊敏にその場を立ち去っていってしまった。


「ねえ、今の見た? きっとあたしたちに御礼を言ってくれたんだよ。可愛いなぁー♡」

「それって、お嬢様個人の意見ですよね? そう見えただけで、たまたまの偶然ですよ」

「ええっ……」


 本当にこの子ったら、おかしな性格をしている。

 でもまあ、トカゲちゃんが元気になって良かった。


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