神をも喰らう最強戦士(2)

 突如として現れた謎の破壊者・世界皇帝を倒すため、光の女神フリーディアから祝福を授かって辺境の集落からひとり旅立った少年剣士マルスは、その冒険の途中、魔物の襲撃から森の動物たちを健気に守っていたハイエルフの少女プリシラを助ける。

 最初は人間のマルスに反発していたプリシラも、世界皇帝を倒さなければ本当の平和は訪れないと悟り、冒険の最後までともに戦う決意をした。

 そんなふたりは、王都で安穏無事な生活に嫌気がさしていた名家のお嬢様・美少女天才魔術士ロアちゃんと出会う。

 ロアちゃんの美しく可憐な容姿と華やかで芸術的な魔法の腕前にすっかりと魅了されたマルスは、キミも仲間になってくれないかと、子犬のようなをして懇願してきた。

 ロアちゃんは、ちょっとだけどうするか迷ったけど、聖母のように慈悲深い心で快くこれを承諾。ふたりと一緒に冒険の旅に出た────


 ──までは、よかったんだけどねぇ……。


 どっかの熱血バカが女大盗賊に騙されたおかげで無一文になったり、そのせいでビキニの水着で働かされたり、穴に落っこちて六魔将軍のおサルにスケベされそうになったり、怪しい宗教団体の儀式の生贄いけにえ(※処女限定)にされそうになったりと、数えだしたらキリがないほど受難続きの大冒険だったなぁ………………おっと、いけない! 続き続き!


 やがてマルスたちは、囚われの身となっている最後の光の戦士・人狼族ワーウルフの英雄ガルラス救出のため、魔界にある永久牢獄をめざす。百年戦争をひとり生き抜いた彼は、理不尽な戦争裁判で凶悪な戦犯として幽閉されていたからだ。

 永久牢獄を守護する大魔獣に辛くも勝利した一行は、その後も数々の試練や強敵に打ち勝ち、ついに浮遊要塞で待ち構える諸悪の権化・世界皇帝を倒した。


 だけど、世界皇帝は傀儡でしかなかった。

 三層界──天上界を始まりとした、地上界、魔界と連なる三つの世界──の滅亡・大崩壊を画策して裏で糸を引いていたのは、暗黒大邪神ダ=ズールだった。

 新たな強敵と戦うには、異次元空間へ続く禁忌の扉を出現させなければならない。超古代文明の遺産と神々の力を借りてようやく扉を抜けた光の四戦士は、最終決戦の地エレロイダへと降り立つ。


 そして、長く語られたこの物語は、ラストダンジョンで仲間に捨てられてしまう、ひとりの少女の悲しい結末で終わる。




 マピガノスは、一言も発さずに聞いていた。

 一方的にしゃべり続けるあたしを、ただじっと見ていた。もちろん、あたしもを逸らさない。


 仲間たちとのかけがえのない記憶。

 お互いを助け、苦しみに耐え抜いて勝利し、ともに成長して笑いあった大切な仲間。


 それなのに……ねえ、どうしてよ!?


 移動魔法陣に乗ったマルスが、ひとりぼっちのあたしに別れを告げて消えてゆく──。


 そんな最後の思い出を語り終えたところで、あたしは堪えきれずに涙をこぼした。


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