2話 真夏の陽炎

「――――!」


 目を覚ますと自分の部屋のベッドで横になっていた。天井をにらみながら荒い呼吸を整える。そして、落ち着いたころ体を起こし、顔の冷や汗を拭う。


「なんだ……あの夢は」


 体に違和感があり、傷がないか身体中を触って確認する。どこにもなく安堵ある優馬。机の上に置いてある置き時計を見ると、六時前だった。普段より早く起きてしまった。

 優馬はベッドから降りて机の上にある一冊のノートに夢の出来事を綴った。


「すごく……リアルな夢だったな……」

 初めて見た現実に近い夢に口角を上げる。何かに引っかかってペンを止めた。


 (本当に夢なのか?)


 今までリアルな夢は何度も見てきた。しかしなぜか夢じゃないと思うのは、はっきり見たひかるの悲しそうな顔

 自分の体に受けた衝撃。

「気のせいだよな。」

 優馬は頭を振って。部屋を出てダイニングに向かった。

「……おはよう」

「おはよう。今日は早いじゃない。学校でなんかあるの?」

 ダイニングの入ると弁当と朝食の準備をしていた母がいた。

「あー、変な夢見て目が覚めた」

 椅子に座って机にあるリモコンでテレビをつける。

『今日は全国的に晴れ!絶好の洗濯になるでしょう!』

 女性のお天気アナウンサーが予報を知らせる。

 そう聞いて、優馬は外の様子を見る。カーテンから光が差し込んでいる。雀の囀り、車の走る音が聞こえてくる。所々、蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 (夢で見たのと同じだ)

 外の様子を見ていると、目の前にサラダとトーストと目玉焼き、牛乳を用意してくれた。

 箸を持ち。

「いただきます」

 食べ終わると、自分の部屋に戻って学校に行く支度をする。

 時間に余裕をもって、家に出た。

「あれ?優くん今日早いじゃない!今日ってなんかあった?」

「………………」

 優馬はひかるの顔を見た途端、固まってしまった。

「……どうしたの?」

「あ――……いや、なんでもない。母さんと同じこと言うなって思ってた」

「どんな、夢を見たの?」

 ひかるは声を弾ませて問う。優馬は一歩前に出て歩き出す。

 後からひかるが追いかける。

「…………学校の帰り道に、車道の真ん中くらいに猫がいてさ、来て車が通っていないときに…………」

 優馬は止って一歩前にでたひかるは振り返る。

「優くん?どうしたの?大丈夫?」

「……いやなんでもない」

 優馬は大丈夫と言って、再び歩き出した。

 学校についてもひかると会話がなかった。

 体が辛くなったら保健室に行くんだよと心配して声をかけた別れた。

 (心配させてしまったな。そんなに様子おかしかったんだな)

 自分の教室に向かおうとした時に、孝司はいきなり後ろから飛びかかってきた。

「おっはよう!優馬」

 優馬は半歩横に逸らし、回避した。躱された孝司は、勢いのまま空を抱きしめるような格好になった。

「お、俺に気がつくとはやるなー。優馬」

「あ、あー……」

 孝司は悔しげに優馬を見遣る。それ対して優馬は訝しむ表情する。

 なんで孝司が飛びかかることを知ってたのか、優馬は理解できなかった。

 (夢と同じセリフ。同じ動き。ここまで一緒になることあったか?)

 難しい顔で考え事をしていると、孝司が肩を回してきた。

「めっちゃねみーんだよー。このまま教室まで運んでよ。優馬」

「自分で歩けよ」

「無理ー。瞼が重たくて開けられなくって前が見えない。」

「どういう意味だよ」

 思わずツッコミを入れてしまった。

 昼休憩。

 優馬と孝司は、いつもの木造の旧校舎で弁当を食べてた。

「そういえば、もうすぐ夏休みだよな?夏休みはどっか行こうぜ」

「夏休みの前に期末があるだろう。それが終わなければ夏休みは来ねぇよ」

 優馬と孝司は空になった弁当箱を隣の机に置いて一緒に外を見てのんびりと過ごす。

「いやだぁ!!テストしたくねえ!」

 孝司は顔を机に伏せてひとり叫んでいる。

 この光景に見慣れた優馬は、冷静に諭す。

「駄々こねるな、子供か」

「なんで日本にテストが存在するんだよ!なんで年号お覚えなきゃいけないんだ!何に役に立つんだよ」

 チラッと上目遣いで優馬を見る孝司だが、優馬は無視して読書を始める。

「テストは日本だけじゃないし、日本史だっていつか役に立つかもしれないじゃいないか」

「へー、たとえば」

「たとえば……」

 宙を見て考え出す優馬に、孝司はニヤッと笑って顔を上げる。

「ほら、やっぱりないんじゃないか」

 孝司の上から目線ではなにつく 

 目を覚ますと自分の部屋のベッドで横になっていた。天井をにらみながら荒い呼吸を整える。そして、落ち着いたころ体を起こし、顔の冷や汗を拭う。

「なんだ……あの夢は」

 体に違和感があり、傷がないか身体中を触って確認する。どこにもなく安堵ある優馬。

 机の上に置いてある置き時計を見ると、六時前だった。普段より早く起きてしまった。

 優馬はベッドから降りて机の上にある一冊のノートに夢の出来事を綴った。

「すごく……リアルな夢だったな……」

 独り言のようにつぶやく優馬。手を見ると震えている。

 (本当に夢なのか?)

 今までリアルな夢は何度も見てきた。しかしなぜか夢じゃないと思うのは、はっきり見たひかるの悲しそうな顔

 自分の体に受けた衝撃。

「気のせいだよな。」

 優馬は頭を振って。部屋を出てダイニングに向かった。

「……おはよう」

「おはよう。今日は早いじゃない。学校でなんかあるの?」

 ダイニングの入ると弁当と朝食の準備をしていた母がいた。

「あー、変な夢見て目が覚めた」

 椅子に座って机にあるリモコンでテレビをつける。

『今日は全国的に晴れ!絶好の洗濯になるでしょう!』

 女性のお天気アナウンサーが予報を知らせる。

 そう聞いて、優馬は外の様子を見る。カーテンから光が差し込んでいる。雀の囀り、車の走る音が聞こえてくる。所々、蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 (夢で見たのと同じだ)

 外の様子を見ていると、目の前にサラダとトーストと目玉焼き、牛乳を用意してくれた。

 箸を持ち。

「いただきます」

 食べ終わると、自分の部屋に戻って学校に行く支度をする。

 時間に余裕をもって、家に出た。

「あれ?優くん今日早いじゃない!今日ってなんかあった?」

「………………」

 優馬はひかるの顔を見た途端、固まってしまった。

「……どうしたの?」

「あ――……いや、なんでもない。母さんと同じこと言うなって思ってた」

「どんな、夢を見たの?」

 ひかるは声を弾ませて問う。優馬は一歩前に出て歩き出す。

 後からひかるが追いかける。

「…………学校の帰り道に、車道の真ん中くらいに猫がいてさ、来て車が通っていないときに…………」

 優馬は止って一歩前にでたひかるは振り返る。

「優くん?どうしたの?大丈夫?」

「……いやなんでもない」

 優馬は大丈夫と言って、再び歩き出した。

 学校についてもひかると会話がなかった。

 体が辛くなったら保健室に行くんだよと別れ際に言われた。

 (心配させてしまったな。そんなに様子おかしかったんだな)

 自分の教室に向かおうとした時に、孝司はいきなり後ろから飛びかかってきた。

「おっはよう!優馬」

 優馬は半歩横に逸らし、回避した。躱された孝司は、勢いのまま空を抱きしめるような格好になった。

「お、俺に気がつくとはやるなー。優馬」

「あ、あー……」

 孝司は悔しげに優馬を見遣る。それ対して優馬は訝しむ表情する。

 なんで孝司が飛びかかることを知ってたのか、優馬は理解できなかった。

 (夢と同じセリフ。同じ動き。ここまで一緒になることあったか?)

 難しい顔で考え事をしていると、孝司が肩を回してきた。

「めっちゃねみーんだよー。このまま教室まで運んでよ。優馬」

「自分で歩けよ」

「無理ー。瞼が重たくて開けられなくって前が見えない。」

「どういう意味だよ」

 思わずツッコミを入れてしまった。

 

 昼休憩。

 優馬と孝司は、いつもの木造の旧校舎で弁当を食べてた。

 「いつまでむくれてるんだよ。」

 むくれていたのは孝司だった。眉にしわを寄せて弁当をドガ食いしている。

「だってよ、あいつら、優馬のことを予言者みたいな目で優馬を利用していて、なんか腹立つ!」

 今朝、教室に入るとクラスの男子達が優馬たちを囲み、今日起こることを予言してほしいと頼みに来た。

 優馬は、夢と同じ人に同じことを指摘すると、動きと言葉が一致していた。

「はぁ、なんで孝司が腹立つんだよ。利用されたの俺だろう。」

「優馬は腹立てねえかよ。」

「腹立つことはないが、怒ったところで何にもならないし、てか、怒る気力がない。」

 弁当を完食して、水筒の冷たいお茶を飲む。

「ふーん、優馬らしいな」

 孝司は納得したらしい。

「ま、でも、庇ってくれてありがとうな」

 優馬が礼を言うと、孝司は照れながら笑顔を見せる。

「そういえば、もうすぐ夏休みだよな?夏休みはどっか行こうぜ」

「その前に期末があるだろう。それが終わなければ夏休みは来ねぇよ」

 優馬と孝司は空になった弁当箱を隣の机に置いて一緒に外を見てのんびりと過ごす。

「いやだぁ!!テストしたくねえ!」

 孝司は顔を机に伏せてひとり叫んでいる。

 この光景に見慣れた優馬は、冷静に諭す。

「駄々こねるな、子供か」

「なんで日本にテストが存在するんだよ!なんで年号お覚えなきゃいけないんだ!何に役に立つんだよ」

 チラッと上目遣いで優馬を見る孝司だが、優馬は無視して読書を始める。

「テストは日本だけじゃないし、日本史だっていつか役に立つかもしれないじゃいないか」

「へー、たとえば」

「たとえば……」

 宙を見て考え出す優馬に、孝司はニヤッと笑って顔を上げる。

「ほら、やっぱりないんじゃないか」

 孝司の上から目線では鼻につく言い方に、優馬は眉間にしわを寄せる。

 優馬は冷静に突っ込む。

「なんだよー。冷静に突っ込んでさ、優馬はテストが好きなのかよ」

「好きか嫌いかの問題じゃねぇよ。学生でいるうちは避けられない運命だし、俺は諦めてる」

「ふーん。……大人だね。それよりさ」

 孝司は椅子を揺らす動きを止め、真顔で優馬を見る。視線を感じて見返した。

「なんだ?」

「優馬って九条と付き合ってるの?」

 言葉を聞いた途端、優馬が持っていた本を閉じた。

「また、それか」

 優馬は小さくつぶやいた。

「またって、俺前にも言ったけ?」

「いや、こっちの話。ひかりとは付き合ってねぇよ。」

 優馬は頬づえをついて孝司を見る。

「……本当か」

 孝司はニヤニヤしながら、疑う掛ける。

「あー、ひかるとは隣同士の幼馴染だ」

 優馬が真顔で答えると、孝司はそっぽを向き、小刻みに肩が震えている。優馬は笑われていることに気付いた。

「な、なにがおかしいんだよ!」

「いや、別に。それにしても九条もかわいそうだな……」

「かわいそう?なんでだ」

 きょとんと聞き返す優馬に、今度は重い溜息をする孝司。

「鈍感だな」

「んな!?」

「その調子だと、ほかの男に取られちまうよ」

 肝心なところを言ってもらえないまま、昼休憩が終わり、午後の授業を受けた。



 午後の授業を終えて、放課後。

 正面玄関の前で待っていたのは、ひかるだった。

「お待たせ」

 優馬が言うと、ひかるは嬉しそうに笑う。

「ううん、そんなに待ってないから」

「じゃ、帰ろうか」

 二人は靴を履きかえて、正面玄関を出る。

 グラウンドには、すでに部活を始めているサッカー部と陸上部。

 その様子を見ながら正門を通る。

 登校時と変わらない道を通って、光は教室にあった出来事を話す。それをただ聞く優馬。

 優馬は、昼に孝司が言っていた事を思い出した。

「なぁ、ひかる」

「ん?何」

「俺達ってさ…………」

 言葉が詰まった。付き合っているのか?その言葉を言うだけなのに、なぜか言い出せない。

「どうしたの?」

「あ……その……お、俺達って幼馴染だよな」

「え、うん、そうだよ。」

「……だよな」

 しばらく沈黙になってしまった。

「どうしたの?今朝から変だよ。」

 心配そうに顔を覗き込むひかるに、優馬は目をそらした。

「大丈夫だ。気にするな」

「……そう?」

 優馬の言葉を信じ、ひかるは前を向く。

 そして、公園の前を通った時だった。

「あ、あんなところに猫ちゃんが」

 ひかるが大声で叫ぶ。指さす方向を見ると、多数の自動車やトラックが通ってるなか、車道の白線の上に白と黒の斑の子猫がいた。子猫は体を縮み震えながら泣いている。まるで、助けを求めているようだ。

「大変!助けないと!」

 黒のガードレールをひかるはまたぐ。子猫を助けに行く気だ。有利はその姿を見て、一瞬、道路に血を流しながら、倒れるひかるの姿が目に浮かんだ。

「ま、まって!」

 優馬は光の肩を掴んで止める。

「はやく、助けないと、猫ちゃんが!」

 焦りだすひかる。優馬は落ち着いた口調で言う。

「…………今行ったら、車に引かれるぞ……」

 優馬の言うとおり、車は途切れることなく走っている。今飛び出したら確実に引かれる。

 優馬の言葉で今の自分の状況に気付いた。

「そ、そうよね……ごめん、危ないところだった」

 申し訳なさそうな顔でひかるはガードレールから降りる。

「車が通らなくなった隙を見て、猫を助けに行こう。猫は見たところ怪我していないみたいだし」

 ひかるが小さく頷き、車が通らなくなるまで、公園に入り車道が見えるベンチに腰掛ける。

(なんだ…………このいや予感は……なんでこんなに落ち着かないんだ…………)

「優馬どうしたの?気分でも悪くなった?」

 顔を伏せている優馬に光は心配に覗き込む。

「……いや、なんでもない。」

 優馬は伏せたまま答える。ひかるはそうと言ってこれ以上何も言わず、車道の方を見てまだ走っていないかを確認している。

「あ」

 ひかるが声を上げて立ち上がる。ガードレールまで走っていく。どうやら車の走行が途切れたみたいだ。優馬も後を追う。

 子猫もまだ怯えている様子だが、怪我がないようだ。助けるなら今がチャンスだ。

 ひかるは左右の確認をしてからガードレールを跨ぎ、車道に入る。再び車が来ていないかを確認をしてから走って猫を救出した。優馬はホッと緊張から解放された。

(なんだ、さっきの予感がはずれか。ならあの既視感はなんだ?)

 光は走って歩道にいる優馬のところに戻る。

「優馬、猫ちゃん持ってて、ガードレールを跨ぐから」

「おう」

 ひかるは優馬に子猫を両手で渡そうとした時だ。子猫が急に暴れだし、思わず手を放してしまった。猫は飛びだし、再び道路へ逃げて行った。

「あ、まって!」

 ひかは振り返って猫を追いかける。

 そして


 予感が的中してしまった。違う、こんなの予想していなかった。



 猫を追いかけて飛び出したひかるはワゴン車に


 引かれた。



 車体の前方が凹み、ガラスには大きなヒビが入っている。車から運転していた男性が出てき、道路に倒れるひかるにかけよる。



ひかるの体から血は流れていないものの、手足が逆の方向に曲がって、体中に青い痣がある。男性の呼びかけに答えがない。

「ひ、ひか・・る」

優馬は近くに駆け寄り小さな声で名前を呼ぶ。

しかし、反応が無い。鼻につく鉄の臭いに、吐き気が襲わる。さっきまで猫を助けようとしていたひかるが……

「わああああああああああ」

 優馬は叫んだ。

(なんで、なんでこうなった。夢で見たのと違…………)


 …………夢?……違う……?



 優馬は昨日夢を見た。ひかるが猫を抱えて優馬のところに戻ろうとした時に、トラックが来て、優馬は自分を、身代りにして引かれた夢だ。

 似ている。状況は同じだが、優馬の代わりに光が引かれたのだ。


 本来、道路に倒れるべきなのは、ひかるではなく優馬だ。

「!」

 優馬は強いめまいが襲い、その場に倒れた。


「また戻ってしまうね。やっと、見つけたのに」

 めまいで意識がはっきりしていないが、視界に白のレースのワンピースを着た少女が優馬を見ている。

「けど、顔覚えたわ。次はちゃんと見つけるから」

 少女の言葉を聞いて、優馬は意識を失った。



 

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