ねこねこ爛漫☆パンチング!!

反宮

第1話 いっせーのーせっ!


 ふと時計を見ると、気付けば二十時を回っていた。

 夕食を食べようと冷蔵庫を確認してみるが空っぽ。

 ……コンビニ行くかぁ。

そう思いコートを羽織った所で、足元にもぞもぞと何かが触れる感触がした。


「にゃ〜」


 茶トラ模様の毛をまとった体を精一杯使って俺の足にしがみついてきたのは、愛猫のヌー子だった。


「どうしたー? お前もお腹空いたのか?」


 あ、そう言えばヌー子の餌も切らしてたんだった。


「お前の分も買ってくるから少し待っててくれな」


 俺の言葉が伝わったのか、ヌー子は大人しくソファの定位置に戻っていく。

 家を出ると、12月さながらの冷気が俺を出迎えた。

 白い息を吐きながら、住宅街を歩く。

 一番近くのコンビニまで歩いて15分程。

 俺はこの時間が嫌いじゃない。散歩しながら考え事をしていると、不思議と集中できるからだ。

 ……ん?

 高架下を通りかかった所で、向かいから小さなの人影が歩いくるのが見えた。

 さらに近づいたところで、小学生位の女の子だと分かった。

 こんな時間に出歩くには幼すぎる気がするが、変に声を掛けて不審者だと騒がれても困る。

 そう思って素通りしようとしたその時──。


「まつでチュ」


「え?」


 あろうことか、幼女の方から話しかけてきた。

 もしかして迷子か何かで、俺に頼ってきたのかもしれない。


「なにかな?」


 俺は片膝をついて、幼女に目の高さを合わせつつ、出来るだけ優しい声音で答える。

 よく見ると頭にネズミの耳の様なものが付いていた。小学生の間で流行っているファッションだろうか。

 特に泣いている気配はない。むしろ強気に眉を寄せている。


鳴海智なるみともでチュね?」


「え、うん。そうだけど」


 なんで俺の名前を知ってるんだろう。

 知り合いの子かとも思ったが、心当たりは無い。

 それよりこんな所を誰かに見られて変な誤解でもされたら面倒だ。


「これやろでチュ」


 幼女は軽く握った両手を縦にして、親指を揃えるように合わせた。

 ……あっ、あれか! いっせーのーせって親指を立てる遊び! 懐かしー。

 と言うか知らない人に話しかけたらいけないどころか、いにしえの遊戯を仕掛けるくるとは……。

 肝の座った幼女である。


「いや、それより君、家は? お母さんどうしたの?」


「うるせーでチュ」


 最近の小学生は辛辣だった。

 子供扱いされて怒ったのかな。


「じゃあ、これでお兄ちゃんが勝ったら教えてくれるかな?」


「考えてやるでチュ」


「分かった。こんな時間だから一回だけね」


 適当に付き合って、交番にでも連れて行こう。

 そう思い俺は両拳をくっつけて、ゲームの準備をした。


「先攻はくれてやるでチュ」


「そりゃどうも。んじゃ、いっせーのせっ、さん!」


 カチャリ──。


「え?」


 信じられない事に、なぜか俺の腕に手錠が嵌められていた。

 理解が追いつかない。


「今でチュ!!」


 その掛け声と共に、そこらかしこから十人以上の幼女達が出てきて瞬く間に取り囲まれた。


「ちょっ、何これ!? てか君達どっから出てきたの!?」


 手際良くロープでぐるぐる巻きにされる俺。

 あまりの出来事に混乱してろくに抵抗できなかった。


「うまくいったでチュ」

「当然でチュ」

「チョロい男でチュ」

「ロリコンなんてこんなもんでチュ」


「いやこれなんの遊び? あとロリコンじゃない!」


「とっとと運ぶでチュ」


どうやらこっちの話は聞いてくれないみたいだ。

 もがこうとした時、背中に何か硬いものが当たる感触がした。同時に身体中に電気が走ったような感覚に見舞われ、一瞬にして意識が闇の中へと遠のいていった。


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