第13話 探索者とは
ダンジョンを攻略したことで魔物は発生しなくなった。そのことは報告しなければならないと思い、最初に訪れた屋敷を訪ねた。
「おぉ! どうでしたかな? 全滅できましたか!?」
「あぁ。できたんですが、完全にもう魔物は発生しないと思いますよ?」
「そうなんですか!? それは嬉しい!」
管理をしている人は喜んでいる。
この方は喜ぶだろう。しかしな……。
「この半魚人の討伐依頼は常設になっていたんですよね?」
「そうです! なので、経費がかからなくなって。何と言っていいか……有難いです」
「ですが、それで仕事がなくなる者もでてきますよね?」
「ふむ。たしかにそうですなぁ」
管理者はあごのヒゲをなでながら上を向き。何かを考えているようだった。
「ふむ。そうですなぁ。では──」
「──ダンジョンを攻略してしまったので。代わりにこの仕事をと言われたと……」
「えぇ。そうなんですよ」
ギルドに来て事情を説明していた俺とサーヤ。
それを遠くで聞いていた探索者は息巻いてこちらに怒鳴ってきた。
「ダンジョンだっただとぉ!? 勝手に攻略されちゃあ困るんだよなぁ!」
その男は酒を飲んでいるようで酒臭い息をサーヤと俺にまき散らしている。
サーヤは鼻を摘まんで顔をしかめている。
「そうだろうか? 米収穫の農作業を手伝って同じ金額をもらう方が、よっぽど安全で良いと思うが?」
「あぁ!? そんなの探索者のやることじゃねぇんだよぉ!」
「『探索者は、過去の遺物を探して旅をし、各地の依頼をこなして力と共に名声も上げる。そして、名実共に最高の探索者となるのだ』このお言葉を知らないわけではあるまい?」
「けっ! そんなジジイの言ったことなんて金にならねぇんだよ!」
「お前の言っているのは、この土地はどうでもいい。ある程度の実力はあるが、だらだらラクして金を儲けたい。そう聞こえるのは気のせいか?」
俺がそう指摘するとピンクの顔を真っ赤にさせていく。
「ぐぬぬぬ! くそじじいがぁぁ……」
その男は俺の首に手を伸ばしてきた。
絞められてもなんてことはない。そう思って放っておいたが。
「師匠に触るな! 触れば命はないぞ!?」
ナイトールの水晶をその男に突き付けて怒鳴るサーヤ。
「小娘に何ができ──」
「──そこまでにしろよ?」
その男は腰に差したナイフを抜こうとしていた。それを柄を抑えて抜くのを止め。同じく首に手を添えるが、俺の場合は首の骨を掴んでいる。
「なっ……」
「ここで死にたいか? 一瞬でお星様にしてやろう。そもそも、実力があるならもっと上の依頼をこなせ。クズが」
「はぁ。はぁ。はぁ」
息をしながら手を上へと上げる。抵抗はしないということだろう。わかればいいのだ。
「サーヤ。杖を下すんだ」
「……はい」
サーヤは警戒しながら杖を下している。大丈夫。この男、もう力が入らないだろう。俺の放った威圧でやられている。
男はしりもちをつくと動けなくなった。
「あとは知らん。サーヤ、行くぞ」
「はい」
やることはやったんだ。変な不満は聞いていることはできない。
実際、命を懸けて半魚人を倒すより農作業をした方が安全でいいはずなのだ。
そして、住民からの信頼も得ることができる。
俺達はギルドを後にすると、薄暗くなっている街並みに出る。
「サーヤ、せっかくだしな。その辺でお疲れの一杯どうだ?」
「いいですよー」
「そうか。じゃあ、あそこで飲もう!」
街を見て歩いていた時に発見した串焼きの飲み屋なのだが、良いにおいをさせていたのだ。
席に座ると店員の若い子が対応してくれた。
「サーヤ、エールでいいか?」
「はい。きっと。一杯なら……」
「そうか。じゃあ果実酒にするか?」
「それなら」
店員の女性へと注文を頼む。サーヤの酒の弱さはこの前で痛感していたので、あまり飲ませないようにしようと考えていた。しかし、祝杯をしたい。そういう思いで誘ったのだが。
「ししょーはお酒が強くていいですね?」
「そうか? まぁ、いつも飲んでるからな。娘も強いぞ?」
「遺伝ですか?」
「そうだな。サーヤは……」
「ワタシの記憶にはお酒を飲んでいる父と母を見たことはありません。だから弱いのも遺伝かもしれません」
そう言ってうつむくサーヤ。こういう時になんと声をかければいいのかはあまりわからない。けれど、一つだけわかることがある。
「なぁ。ご両親が酒に弱くて、それを受け継いだ。自分の中には確実に両親の血が流れているんだと感じられることは、いいことじゃないか?」
「……」
「考え方次第でご両親を傍に感じられるんじゃないか? マナも酒が強かったとか、魔物を全滅させたとかいう話を聞くとな。自分と血がつながっている子供がここに居たんだと、身近に感じるんだ」
「ししょー……」
俺はいつの間にか目頭に涙を溜めていた。
「実はな。凄く不安なんだ。本当にマナは生きているんだろうか? どこかで魔物に食われたんじゃないかってな。普段強がっているけどな。弱い人間なんだ」
「……そんなことないです。師匠は強い人間ですよ。どんな魔物にも負けない。自慢の師匠です」
「いやかもしれないが、サーヤも娘のように感じることがある」
「ふふふっ。こんな強いお父さんなら大歓迎です」
「そうか……いやー。年はとりたくないな」
その夜はいつもより長く、街の喧騒を二人で感じていた。
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