第12話 それ制御できるのか?
「大丈夫か?」
ガーディアンを倒した後には脅威はいなくなった。
そのため、目が覚めるまで待っていたのだ。
「あっ、ししょー。あの化け物は?」
「サーヤの魔法の一撃で倒せたぞ? あれは最上級魔法か?」
「いやいやいや。あれはちょっと前に開発された中級魔法ですよ」
「な、なに? あれが中級!?」
あれが中級魔法とは凄まじい威力。どうしてあんなものが中級なのか。
サーヤによると、制御できる水量が少ない代わりに汎用性のあるアクアクリエイトという魔法の派生魔法だったんだとか。
「そーですよ。ワタシが最上級魔法使えるわけないじゃないですかー」
「いや、使えたのかと驚愕したものだ。あれが、中級……」
いまだに驚愕の念が消えない。凄まじい魔法だった。あの貫通力といい、命中力といい。サーヤがすごいと思っていたのだが、最近の魔法士はみんなこの魔法から派生させているんだとか。
魔力に物をいわせていた古い風習のようなものがあったが、それはもう昔の話なのかもしれない。
「それで、アーティファクトは?」
「あぁ。おそらくこの奥にあるのだろう」
視線を奥へと向けると重厚な扉が佇んでいる。
二人で扉の前に立ち手をかけて開ける。
──ギギィィィィ
悲鳴のような音が辺りに響き渡り、生臭いような匂いが鼻を突く。
こういうダンジョンだから仕方がないのだろうが、この匂いはどうにも好きになれない。サーヤも同じような気持ちなのだろう。眉間のしわと歪んだ顔がそれを物語っている。
強い力を感じるものが祭られていた。やはり、
「サーヤ、あれを受け取ってみるんだ」
「あ、はい。ワタシでいいんですか?」
「あぁ。サーヤなら受け入れられることができると思うぞ?」
「はい!……ゴクリッ」
喉を鳴らしながら杖の前に立つ。その杖の先には綺麗な青い光を放つ水晶がついており、明らかに普通の物とは違う雰囲気を持っている。
静かに手を伸ばしたサーヤは、何物にも阻まれずに杖を手にすることができた。そして、祭られていた杖を持ち上げた。
ナイトールからの魔力が噴出したかと思うとサーヤの体に吸収されていく。この反応は、ナイトールがサーヤを認めたということだ。
「なんか、凄い魔力が溢れてくる! 凄ーい!」
「よかったな。サーヤ。ナイトールに認められたようだぞ」
「えぇ!? これで私も
「うむ。そうなるな。よかったな?」
「やったー! やりましたね!」
喜ぶサーヤをみて俺も頬が緩むのを抑えきれなかった。自分のことのように嬉しかったのだ。
「それがサーヤの実力だ。これからは所持者として自覚を持つんだぞ?」
「はい! 自覚ってなんですか?」
「いや、そのな……なんだ。他の魔法士に負けないようにとかか?」
所持者の自覚とはみんなが持っている誇りのようなもの。それを口に出そうとするとどういっていいかわからない。だから、言葉がつまってしまった。
「ぷっ! なんですかー? 別に負けたっていいじゃないですかー?」
「いや、誇りとかあるだろう? アーティファクト持ってるんだから負けたらかっこ悪いだろう?」
「別に死ななきゃ、かっこ悪くてもいいです」
「そ、それはそうだな! 死んじゃいかんぞ!」
最近の子は随分と達観した見方をしているんだな。なんだか、誇りとか強さとかあいまいなことを言っている自分たちが恥ずかしくなる。
「あっ、このダンジョン崩れますよ?」
何かを感じたようにそう口にしたサーヤ。
手を引かれて身を寄せてくる。
「私の近くにいてください。転送されます」
足元に魔方陣が広がり光り出した。
あまりの光に目を瞑り、再び目を見開いた時には周りは水に包まれていた。
「ししょー、安心してください。ワタシが道を作ります」
「お、おう。凄いな。もうそれの制御できるのか?」
「あっ。はーい。そんなに難しくないですから」
なんか凄いな。最近の魔法士。こればっかり感心している気がするが、昔はアーティファクトを制御するとなったら徐々に馴染ませていくような形になっていたと思うんだが。
早くても半年はかかっていたと思うが、やはり魔力操作にたけているのだろうな。だからこれだけの多くの魔力を手に入れてもすぐさま制御することができるのだろう。
指導者が優秀なのだな。最近の人はみんなできるという。ということは探索者組合の訓練を行っている人物がすごいということ。一体誰がやっているのだろうか。
一人の銀髪の魔法士の顔が思い浮かぶ。
まさかな。
あいつはそこまで面倒なことはしないだろう。
気が付くと湖の割れた道を歩き、そして岸へとたどり着いた。
「ふぅ。このくらいの水を制御してもラクです。やっぱりアーティファクトは凄い」
「サーヤは凄いな? 俺はこれを制御するまでに一年はかかった」
「いやいや。だって、ナイトールですよ? 遺物の中では下級じゃないですか?」
「しかしな。杖は中級だぞ? 剣は振るうだけでいいが、杖は制御が必要だからな」
「えぇぇ? でもよかった。これで上の魔法が使えるようになる!」
嬉しそうにサーヤが抱えるそのアーティファクト。
ダンジョンがなくなったということは、この湖の魔物がいなくなるということ。
そのことで生じる問題は考えもしていなかった。
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