第3話 特級の強さ

「じゃあ、行くか。サーヤさんといったかな。得物はそいつかい?」


 俺は腰に下げているショートソードを指して問いかけた。

 サーヤは首を振って否定する。


「サーヤでいいわ。ワタシ、剣より魔法が得意なの。これは近付かれた時用よ?」

 

「なるほど。それは失礼。魔法媒体を使わないのか?」

 

「ワタシの魔法媒体はこれなの!」


 こちらへ手を向けて見せてくるのはコバルトブルーの宝石の付いた指輪だった。


「そりゃ、立派な指輪だ。水の宝玉かな?」

 

「えぇ。そうよ。水の精霊に好かれているみたいなの!」

 

「ほぉ。そいつぁ凄い。それは自分で手に入れたのかな?」

 

「これは……お母さんの形見なの」


 少し俯いて悲しそうに目を潤ませた。


「そいつぁ、すまない。嫌なことを思い出させたな」

 

「ううん。十年前の魔物大発生があったでしょ? あの時に両親は戦って亡くなったの」

 

「それは、勇敢な両親だったんだな。俺も討伐に参加していたが、多くの人を助けられなかった。未だに悔いているよ」


 この街に以前降りてきた時というのが、その十年前の大発生の時だったのだ。その時は悲惨な状態だった。


「サーヤはなぜ冒険者に?」

 

「ワタシは、沢山の人を救いたいの。もうあの時みたいに逃げるだけは嫌」


 そのサーヤの目は決意の籠った強い目をしていた。この子は強くなる。そう確信めいたものを感じて提案した。


「俺はこれから娘のマナを探しに行くんだ。良かったら、旅に同行するか? そうすれば強くなれることは保証する。もちろん、俺の実力は今から見てもらうから、それから決めてもいい」

 

「ガイルの兄貴! 本気ですかい!?」

 

「俺はな。後はサーヤ次第だ」


 しばらく考え込んでいるようだった。

 少しして口を開いた。


「やっぱり、実力を見てからにするわ?」

 

「あぁ。懸命な判断だな。じゃあ、早速行こう。これと、これを受けよう」


 長らく放置されていた特級の依頼用紙を剥がすと受付に持っていく。


「あなたが、あのガイルさんですか。復帰されたんですね。どうか、命を大事に」

 

「ありがとうよ。でもな、それは俺以外に言ってやるんだな。俺は心配ご無用だ」

 

「それは、失礼しました!」

 

「はっはっはっ! いや、いいんだ。じゃあな」


 窓口に背を向けギルドを出るとサーヤを伴って西の森へと行くことにした。

 街の入口は東にある。街を出て逆方向に行かなければならない。


「こっちは行ったことないわね」

 

「こっちは上級以上じゃないと入れないんだ」

 

「へぇぇ」


 サーヤの感心をよそに俺は森の中へと進んでいく。目の前には壁が見えてきた。ただ、何かをかざす用のくぼみがある。


 底にギルドカードをかざすと重低音を響かせながら壁が横に動いて、俺達の目には鬱蒼と茂る薄暗い森を映していた。


「なんだか不気味ね」

 

「離れるなよ?」


 そう言いながら前へと歩を進めると慌てたようにピッタリと後ろに着いてくるサーヤ。その位の反応の方が安心だ。


 少し奥に進む。


 ──ガァァァァア!


 前方から聞こえたのは威嚇するような声。草に身を潜めて様子を伺う。すると、獣の顔に鬣があり四足歩行の獣がいる。しっぽは二本はえて翼もある。


「ひっ! あれは何!?」


 サーヤが静かに悲鳴をあげた。


「あれは、キマイラだ。特級だよ。なんでも食うんだ」

 

「こ、恐い……」


 サーヤが震え出した。あの魔物の強さをしっかりと身に感じて居るのだろう。


「その恐さを忘れるなよ? 自分の安全を守るためには必要なことだ」

 

「う、うん……」

 

「まぁ、待ってろ」


 そう言い放つと草をかき分けて前へと出た。

 キマイラは俺を一丁前に睨みつけている。


「ガルルァァァァア!」

 

「まぁ、そう威嚇するなよ」


 腕にある赤と黒の腕輪に魔力を流していく。何時でも怒りの力を使えるように。


「うぅぅ……ガルルルアアア!」


 勢いをつけて襲いかかってきた。口を大きく開けて牙を剥き出しにしている。自分が捕食者だと思っているんだろう。


「どっちが上か分からせてやろう」


 コンパクトに右拳を脇まで引く。

 それと共に赤黒の煙が拳にまとわりつく。

 もう少しで牙が届くという時、右拳を腰の捻りの力を加えて打ち出した。


突鬼とっき


 真っ直ぐに打ち出されたエネルギーは、キマイラの口から尻へと巨大な穴を開け、その先の木々も薙ぎ倒した。


「うーん。まぁまぁかな。身体を残さないつもりだったんだが、まだ出力が甘いか。それだけ、今の俺の怒りは少ないということなんだな……」


 待たせていたサーヤの元へと戻る。

 口を開けて固まっていた。


「おい? どうした?」

 

「ど、どういう強さなんですか?」

 

「ふっ。特級ってのはこれ以上の奴らのことを言うんだぞ?」

 

「なんて……馬鹿げた強さ……」


 サーヤは特級の強さを目の当たりにした。これで更に成長できることだろう。この位が日常茶飯事になればいい。


「どうだ? 俺についてくる気になったか?」

 

「はい! ついて行かせていただきます! ワタシを強くして下さい!」

 

「そうか。それならよかった。もう一体アースドラゴンを始末して帰ろう」

 

「ド……ドラゴン……」


 サーヤの常識は色々と壊れたようだ。


 この後、ドラゴンを同様に葬ってギルドへと戻るのだった。

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