第4話 「魔王バルドルと世界の言葉」
片腕の王女が産まれる遥か昔、気が遠くなるくらいの昔、魔法の世界にも生物が無事に根付き発展を始めた頃の話し・・・
「ハルモニア・・・申し訳ないのですが新しく出来た世界を貴女に管理して頂きたいのです」
「はい???」
ここは高次元に有る神界、そして私の名前はハルモニアと申します。
軍神アレスと美の女神アフロディーテの娘です。
新米女神としてお母様の様に美の女神になるべく日々研鑽しています。
戦いは超苦手なのでお父様の軍神業はとてもでないですが継げません。
ああ?!お父様そんなに泣かないで下さい!ホントに戦いは無理なんですぅーーー!!
血なんて見たら卒倒する自信があります!ホントに軍神なんて無理ですぅ!
地球の人々からは「調和の女神」なんて呼ばれてますが分かり易く言うとパシリ、「雑用女神」なのです。
ある日の事、女神アテネ様に呼び出されて衝撃的なパシリ仕事をお願いされました。
世界の管理はパシリには出来ないと思うんですよ。
「えっ?!世界の管理ですか?えーと?
あのアテネ様?・・・私は世界運営の資格を持ってませんけど?」
だってその世界の運営資格を取る為に日々のパシリを頑張ってますからね。
私が世界の主神になれるのは、2万年後くらいかしら?
世界の主神になるのって資格をたくさん取らないとダメなので大変なんですよ。
「それが・・・いつの間にか自然発生した世界がありまして・・・その・・・
まだ決まった神が居ませんの・・・
どうやら別世界の「大霊樹」の種が時空を飛んでその世界で種が芽吹き定着した様ですわ」
あら?アテネ様、随分と歯切れが悪いですね?・・・これは何か問題発生の香りがします!
少しずつアテネ様から距離を取りましょう、そうしましょう。
私がジリジリとアテネ様と距離を取り始めると・・・
「ああ?!ハルモニアちゃん逃げないで!お話しを聞いて!
貴女にとっても悪いお話しじゃないですよー。
怖くないですよーこっちにおいでー、ルールルル、ルールルル」
私は狐さんじゃありません!そしてネタが古いですアテネ様。
仕方ありません、警戒しながらでもアテネ様のお話しを考察して見ましょう。
えーと?霊樹とは、人間で言う所の「世界樹」ユグドラシルの事ですね。
うーん?それなら・・・
「それならその「霊樹」に世界の管理を任せておけばよろしいのでは?」
基本的にその世界を作った神が管理をする物なのですが、今回の様に自然発生する世界も多いのです。
その場合は神界から担当の神が派遣されるか今回の様に霊樹とかの次元高位存在が管理を行います。
「わたくしもそう思ったのですが・・・
その「霊樹」はかなりの変わり者・・・独創的な思想の持ち主で星の生命体を増やす為に、あっちこちに異界ゲートを作ってはバンバンと移民を受け入れてますの・・・
種族に全くこだわりは無く、ちょっとアレな、それってどうなの?と言う者も構わずにドンドンパンパンとウェルカム状態ですわ」
「それはまた・・・随分な変わり者ですね?
それから女神様がドンドンパンパンとの表現はいかがな物かと思います」
世界の神や管理者は、違う世界からの干渉を凄く嫌う者がもの凄~く多いのです。
だって自分の子供を知らない他人に触られて勝手にされるのって嫌でしょう?
「そのせいで世界中で混沌が発生してしまい、その混沌の収束の為に急遽代理の神として冥王のハーデスが派遣されました」
「???ハーデス様が派遣されたのでしたら問題無いのでは?」
混沌・・・要するに何もかもが混ざり何でもアリ状態になる世界の管理者にとって最大禁忌、お仕事爆増待った無しの忌むべきモノなのです。
「混沌」だとおどろおどろしいので「特異点」と表現する場合が多いですね
その混沌収束の為に冥王ハーデス様が派遣されたと・・・
冥王ハーデス様は私の様な新米女神と違い神界屈指の経験豊富な男神です。
あのお方が居るのならパシリ女神の私が世界を管理をする必要は無いと思いますが?
「それが・・・冥王ハーデスは・・・・・・・・・現在行方不明です」
「はいいいい?!」
え?!どう言う事ですか?!行方不明になる神など聞いた事ありません?!
「ああ・・・ハルモニアは知らないですね。
ハーデスは度を超える仕事熱心な神で仕事に夢中になると自分が神である事を忘れて仕事に没頭してしまい天界と音信不通になる悪癖があるのです。
酷い時など5000年間音信不通になって神格の剥奪寸前まで行ってしまいました」
「それはまた・・・真面目なのか不真面目なのか分かりませんね?」
仕事熱心の為にホウレンソウを怠るのは本末転倒だと思います。
「本当にそうですわね・・・何回言っても治りませんの。
それで代わりの神を派遣したいのですが・・・その・・・」
「今は深刻な神不足・・・ですね?」
「そうなのです!」
我が意を得たり!と満面の笑顔でコクコク頷くアテネ様です。
神不足とは何?言いますとね・・・
何故だが理由はハッキリと分かりませんが、この3万年程宇宙では世界の自然発生ラッシュが続いているんです。
その為に100や200の世界を掛け持ちする神も珍しくない程の殺神的な忙しさなのです。
現在の神界は慢性的な「神不足」に陥っているです。
「なるほど・・・お話は分かりましたが私には全然自信がありません」
私が初めて担当する世界がそんな不良物け・・・複雑な事情がある世界なんてあんまりです・・・泣きますよ?
もう少し・・・こう・・・妖精と精霊が溢れる穏やかな春の様な世界で最初の管理の勉強したいです。
私はいよいよアテネ様からズリズリと遠ざかり隙有れば逃亡の機会を伺います。
「ああ!完全に管理する必要はありませんよ?大丈夫!逃げないで!
基本的にはユグドラシルに管理を行なって貰います。
それに我々の眷属の龍種を応援に出しますから貴女には龍種達の総括だけして頂きたいのですわ」
ん?龍種ですか?・・・まぁ、彼らが一緒なら何とかなる?のかしら?
「ええーい!大サービスです!
これが成功したらハルモニアちゃんには、資格の単位を5つあげちゃいます!」
「やります!」
単位5つですか?!一気に飛び級じゃないですか!やります!やらせて頂きます!
このお仕事が終わってから単位を後3つ取れば「主神」デビューですよ!
うふふふふ~・・・私の世界・・・どんな世界にしよっかなぁ~。
龍種君達も居るなら楽勝です!
・・・そう楽観的に思っていた頃が本当に懐かしいです・・・
よもやこれから訪れる世界が、この後に「地龍王だけだとヤバい!」と追加で2人の龍王が派遣されて、三龍王が揃い踏みでも大苦戦するカオス過ぎる世界だとはこの時の私は思いも寄らなかったのです・・・
余り重要な事でも無いので結果を先に言ってしまうと、私は15000年後に予定よりもかなり早く「主神」の資格を得る事になるのですが、全っ然!割に合わない目に合います・・・
「ね?ハルモニアちゃん?勉強だと思って、ね?お願い!」
現地に行く前に試しに「霊視」を使い件の世界をチラ見して、余りの異様さに恐れ慄き速攻で実家目指して逃亡したら門の所で速攻でアテネ様に捕獲されました・・・
そうですか・・・もしかしなくてもアテネ様は張られていたのですね・・・
「お願いハルモニアちゃん!ね?ね?ね?ね?」
うう・・・アテネ様にそんなに可愛くお願いされると断れないじゃないですか・・・
だってこの方って凄く可愛いらしいんですもの。
両手を合わせて首を傾げる動作って反則だと思います。
「分かりました、これも立派な神になる為の勉強ですものね」
「ありがとうーーー♪♪♪ハルモニアちゃーーん♪♪♪」
こうして女神ハルモニアの「悪夢の3万年」の幕が上がる事となりました。
ええーい!女神は度胸!早速、精神体を作り件の世界へダーイブ!
一瞬で到着すると冥王ハーデス様と先行していた地龍王ベルリン君が出迎えてくれました。
「「お待ちしておりました・・・ハルモニア様・・・」」
『何でそんなに疲れているのですか?ベルリン君』
え?限り無く神に近いベルリン君が疲れている??何で?!
「「いえ・・・我は己の限界を思い知りました・・・
申し訳無いのですが地龍王の座は息子クライルスハイムに譲り我は天界で修行し直して参ります」」
え?ベルリン君、天界に帰っちゃうの?!
ちょっと待って!パシリ女神は凄く貴方をあてにしているんですけど?!
それにベルリン君の息子さんってまだ5000歳くらいの子供だよね?!大丈夫?!
「「ハルモニア様・・・老骨よりの忠告です・・・
この世界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジヤバです」」
マジヤバってなにーーーー?!何がヤバいの?私ってこれからどうなるの?!
『あのベルリン君?ちょっと待って?話し合いしましょ?』
「「ハルモニア様、お役に立てず申し訳ありませんでした。
息子のクライルスハイムには地龍王としての全てを教え込んでおります。
もう・・・我なんて・・・我なんて・・・」」
あ・・・ダメなやつだこれ。
完全に自暴自棄になってます、ベルリン君には休暇が必要です。
『わ・・・分かりました・・・お大事にベルリン君、ゆっくりと休んでね』
こうして私の赴任と同時に頼みの地龍王ベルリン君が実家に帰ってしまいました。
不安しかない初めての任務・・・
だから私これからどうなっちゃうのぉおおお?!神様教えてーー!!
あっ・・・私、神様でしたね。
アホな事を言っていたら落ち着きました、仕事をしましょう、そうしましょう。
とりあえずパシリ女神ハルモニアは、新しく地龍王になったクライルスハイム君に会いに行きました。
「お初にお目に掛かりますハルモニア様。
新しく地龍王を拝命致しましたクライルスハイムと申します。
ハルモニア様の御降臨の件は父より承っておりますのでご安心下さい」
あらあ?何て礼儀正しい美しい少年なのでしょう!
お姉様は危ない橋を渡ってしまいそうです!マジヤバです!私変態です!
でも荒ぶる魂を表に見せずお澄ましするのも女神の矜持なのです。
「女神ハルモニアです、よろしくお願い致します地龍王クライルスハイム。
とりあえずは、この世界の実態を教えて下さい」
すぐに、お仕事モードになる事が出来た私を褒めて下さいな。
それからクライルスハイム君から、この世界のお話を聞いたのですが・・・
ハルモニアは思わず頭を抱えてしまいました・・・
アトランティス、レムリア、メソポタミア・・・地球の古代文明の子孫の者達がこの世界で激しく争っているとの事です・・・何でそうなったの?
クライルスハイム君の話しだと、この争いに関しては圧倒的に悪いのはアトランティス。
しかしレムリアにも結構問題あり、完全にユグドラシル派のメソポタミアは争いには我関せず・・・だそうです。
何で元地球人同士が仲良く出来ないのぉ?!
大体からして君達住んでた地域は結構遠くて元々因縁とかも無かったでしょう?!
先ずはここから改善する必要有り!です。
人間は世界の根幹になる存在です、良い世界は人間から!です。
話しを聞いた私は早速、各勢力の長にコンタクトを取り和解を促して見る事にしました。
現在進行形で戦っている当事者のアトランティスとレムリアは一旦置いておきます。
まだ詳しく情報が入って来てませんからね。
とりあえず完全中立・・・いいえ、悪い意味で両勢力の争いに無関心のメソポタミアとコンタクトを取りましょう。
ねえ君達?両者の停戦や和平交渉とかの仲介が出来るんじゃないんですか?
メソポタミアの子孫達は別世界で大半が吸血鬼化しており、現在は「真魔族」と名乗っているそうです。
何で吸血鬼化したのか気になりますが・・・
でも何でもかんでも手を掛けるのは得策とは言えないので、この件も置いておきます。
アテネ様!
最初から暗雲覆うどころか、いきなり雷雨暴風警報発令じゃないですか!
パシリ女神はもう帰りたいです!
クライルスハイム君の話しによるとメソポタミアの長の名前はマクシム君だそうです。
これでも女神の端くれなので一瞬でマクシム君と念話が繋がってしまいますよ。
マクシム君の位置を特定して・・・っと、あー、テステス、こほん・・・
『魔王マクシムよ、私は世界の言葉・・・答えなさい』
神聖で厳かな神っぽい雰囲気出して行きますよ~・・・
あっ!私本物の女神でしたね、何度もすみません自覚が薄くて。
《ん?誰だ?あー魔王?・・・悪いんだけどな、俺もう魔王を辞めたんだよ。
今はバルドルって奴が魔王をやってるからそっちに連絡してくんね?》
なんですと?魔王を辞めた?それは大変失礼を致しました、間違い念話でしたね。
『そうなんですね?すみません、ありがとうございました』
《おー、良いって事よ》
えーと?バルドル君、バルドル君っと・・・
ええ?!なによ!マクシム君と同じお城に居るじゃないの!
もう!取り継いでくれても良いじゃない!
さて気を取り直してっと。
『魔王バルドルよ、私は世界の言葉・・・私の呼び掛けに答えなさい』
2回目だと神聖さがガタ落ちですね・・・
《はい?誰じゃ?》
『世界の言葉です』
《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・間違い念話だと思います』
プチ・・・ツーツーツー・・・・・・・・・・・・・・・・切られたわ・・・残念。
ってそうじゃ無い!何よ!いきなり切る事ないじゃないの!
リダイアルです!
『魔王バルドルよ!答えなさい!』
《だからお主は誰なのじゃ?儂は「世界の言葉」さん、なんて者は知らないしな。
初対面ならば先ずは自分の名前を名乗るのが礼儀ではないのか?》
『なっ・・・名前?』
《そうじゃ、おそらくお主は「世界の言葉」など抽象的な名前ではあるまい?
お互いに先ず本当の名前を名乗り挨拶をするのがコミニュケーションと言うモノじゃ》
な・・・なななな・・・この子、凄く頭が良いわ。
どうしましょう?魔王=脳筋と勝手に思ってましたわ・・・
『その件について上司に聞いて見ますので後で掛け直しします』
《うむ、儂も2時間後には大事な会議が始まるから早めにな》
どうしましょう・・・この子・・・凄くやり辛いです!
名前・・・名前かー、こう見えて私の名前は地球上でも凄く有名なんですよ(えへん!)
《アテネ様、アテネ様、今よろしいですか?》
《何?ハルモニアちゃん?》
《この世界の住人に私は名前を名乗って良いのでしょうか?》
《え?名前?・・・うーん・・・それは非常に良くないですね。
ハルモニアちゃんは地球の女神で一般的にもHarmonyで世界的に名前が通っています。
違う世界で名乗り女神と認定されてしまうと因果率が狂いハルモニアちゃん本体の力に悪影響が出る可能性が大ですわ》
《ええ?!そんなに大事なんですか??》
《そうですね、「真名」と言う物を甘く見てはいけませんわ》
《ぐっ・・・具体的にはどの様な弊害が?》
《先ず本体の神力が地球とそちらの世界に分散されてしまい、結果的にハルモニアちゃんの「調和」の力が弱まります。
ハルモニアちゃんは、自分の事を「使いパシリ」とか変な勘違いをしている様ですが貴女は地球の要、核になる女神です。
もしハルモニアちゃんの力が弱まれば調和を失った地球は世界的な大戦乱に陥ります》
《ま・・・前に宇宙風邪で寝込んだ時の様にですか?》
《そうですわ、第一次世界大戦、第二次世界大戦の再来です》
《えええええらいこっちゃーーーー!!
わわわわ私ってそんなに重要なポジションだったんですかぁ?!》
《当たり前です!むしろ今まで自分を何だと思っていたんですか?!》
《使いパシリ?》
《だから全然違います、「調和の女神」です。
とにかくそちらで危険を犯してはなりません、良いですね?ハルモニアちゃん?》
《は・・・はい》
アテネ様との念話、終わりです・・・
知らなかった・・・自分がそんなに重要人物・・・重要女神だったなんて・・・
だって!誰も教えてくれなかったんだモン!
でも名前を名乗れないなら・・・どうしましょうか?
うーん?・・・よし!それなら偽名を使ってしまいましょう!
『もしもしバルドル君?』
《ん?お主か・・・してお主の名前は?》
『はい!私はハーミットと言います!これからよろしくお願い致します!』
《ウソつけ》プツン・・・・ツーツーツー・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでぇ??!!
パシリ女神、怒りのリダイアル中・・・・・・・・
《はい》
『ちょっと?!何で嘘だと思うの?!』
《儂を侮るでないわ。
儂は「真偽の耳」のスキル持ちじゃ、嘘か真か声を聞けば分かるのじゃ。
して?お主の名前は?ちゃんと名乗りなさい》
『あうあうあう・・・・・・・・・・・・失礼しました!また今度!!』
プツン・・・
《・・・・・・・・何なのじゃ?最近はイタズラ念話が多いのう・・・》
こうして魔王バルドルに惨敗したパシリ女神ハルモニアでした・・・
バルドルのバカーーーーー!!もう君付けで呼んであげないからーー!!
そして魔王バルドルとの長い戦いが始まりました・・・
もっとも、戦いは私の負け負け負け負け負けだったですけどね~。
でもパシリ女神はめげません!打倒バルドル!です。
はい!早いもので私こと、調和の女神ハルモニアが「このクソッタレ世界」に降臨してあっという間に10000年が経過しました。
時って奴は過ぎ去るのが本当に早いぜ!イェーイ、皆んな見てるぅーー?
女神らしくない酷い口調?知りません!
この世界で管理者をやろうとしたら淑やかさなど木っ端微塵に砕け散りますわよ!
オホホホホー、ですわ。
この世界のクソッタレ共は種族を問わずに先ず人の話しを聞きません、本当に聞きません。
1+1=何?と聞いて「2」と答えてくれると感動するレベルです。
優しく言おうと厳しく言おうと関係ありませんね、はい聞かないです。
特に人の話しを聞かない吸血鬼がコイツです、魔王バルドルです。
お陰で「世界改善計画」もなかなか進んでいません。
『だから何回も言ってるじゃないですか!名前は言えないんですって』
「儂の中で名を名乗らない者は、ただの「不審者」でのぅ。
仮にその女神の云々の話しが本当の事だとしてもここは譲れぬ。
お主が名を名乗れば協力しよう」
『もおおおおお!!!頑固者!!バカーーーーー!!』
プツン・・・
バルドルに事情は説明しましたよ、ええ!しました!名前以外は全部詳細に!
呼び方なんてどうでも良くない?!と、言いたいのですがバルドルがここまで頑ななのには実はちゃんと理由があります。
バルドル曰く「真名を共有出来ぬ限り儂はお主の話しを聞く訳にいかぬ」だそうです。
そうなのです、私は最初にバルドルを真名の方で呼び掛けてしまったのです。
文字で書くと同じバルドルなのですがイントネーションが全然違います。
高位存在にとって真名は重要な意味があります、片方が真名を握るのは隷属関係にあると言えるんです。
ここで私の言う事を聞いてしまうと、彼が私との隷属関係を認める事になります。
なのでバルドルは私の話しを聞かずに右から左に受け流してしまうのです。
ただ一言言わせて下さい。
バルドルの真名を私に教えたのって君の仲間のマクシム君なんだよぉ!!
そりゃ普通は教えられた通りに呼び掛けますよ!誰だってそうでしょう?!
その事に対してマクシム君に苦情をいれると・・・
「あっ悪い、うっかりしてたわ」の一言で終わり、君が責任取れぇ!
魔王の協力が得られずに、おかげさまで世界改善計画は全然上手く行っておりません・・・
魔王と言えば次はレムリアの代表の「勇者君」・・・なのですが、
「え?魔王ですか?すみません、聞いた事ありませんね・・・
あれって「おとぎ話」じゃなかったんですか?」
なんとビックリ!勇者君は魔王バルドルの事を認識していませんでしたー。
『えーと?勇者は魔王と戦うモノ・・・と聞いていたのですが?」
「戦うどころか会った事も無いですよ?魔王なんて本当に居るんですか?どこに?
それよりアトランティスの連中の方が厄介過ぎて・・・その対応に忙しいです。
魔王と和解どころか、本当に会った事もありません。
アトランティスとの和解?向こうが攻めて来るのを止めたらやめますよ?」
この様に勇者にも、にべも無くあしらわれ・・・いえ、正論ですね。
この件を魔王バルドルに聞いて見たら・・・
「なんで会った事もない者と戦わにゃならんのだ?
和解の仲介?・・・お主、誰かも分からん者がいきなり「和解して下さい」と言って言う事を聞く者が居ると本気で思っているのか?」
つまりメソポタミアが仲裁に入る為には、メソポタミアとレムリアの交流から始めないとダメって事ですね?
『れ・・・レムリアと・・・ご・・・合コンしましょうか?』
「それ・・・本気で言ってる?」
そりゃ知らない人達といきなり合コンは嫌ですよね、私も嫌です。
ああーーーーー!上手く行かないですーーー!!
ちなみに働き者のパシリ女神はアトランティスの人達にもレムリアとの和解を促したのです。
「向こうが降伏したら止めるぞ?何せこちらも食糧不足が深刻でな。
生活が掛かっているからな、そうは簡単には引けんのだ。
何なら、お前さんが我々を養ってくれるなら考えるぞ?
本国と合わせて15億人くらい居るがな?」
すみません・・・パシリ女神には、さすがに15億人も養うの無理です・・・
食糧ですか・・・
くっ・・・クロノス様ならワンチャン!と、アテネ様にご相談したのですが・・・
《クロノス様?うーん・・・さすがに無理じゃないかしら・・・
クロノス様は現在682世界を管理していますからね、もうこれ以上は・・・》
さ・・・さすが創世神様・・・682世界ですか?
ここで1世界の1部族の事を相談するのは気が引けるなんて物じゃありませんね。
うう・・・それに比べて私は・・・やはり私はパシリ女神がお似合いです。
このやさぐれた心を癒す為にクライルスハイム君に念話を入れます。
ああ・・・私の心のオアシス・・・すると!
「「ハルモニア様の負担を減らす為に神界に応援を要請した結果、天龍王と海龍王が応援に来ます」」
久しぶりの朗報!クライルスハイム君ー!!さすがは私のオアシス!
これで三龍王が揃い踏み!ありがとうー!これで勝てる!!
と思ってましたが敵も手強くて勝てませんでした・・・・
何故なら、三龍王がいくら問題解決しても、お人好しのユグドラシルちゃんがせっせと別世界の問題児をこの世界に受け入れ続けるからです。
『ユグドラシルちゃん?!もう少し計画的に!ねっ?ね?ね?ね?ねー?』
《申し訳ありません、頼まれると断れ無くて・・・》
なんか最近この世界は他の世界の問題児の更生施設の役割見たくなってるんですよ!
こらぁ!神達よ自分の世界の事は自分達で何とかしなさい!
何で人の家に問題児を放り込むんですかぁ!!
他の神からの妨害にイライラしておりましたら・・・
はっ!この気配はアテネ様!もしかして増員です・・・・・・・か?
しかし・・・
『・・・・・・・・・・・・アテネ様?その子は?』
『・・・・・・・・・・・・別の世界で自然発生した黒龍王の赤ちゃんです』
『それは見れば分かります、パシリ女神はアテネ様が何故ここに黒龍王の赤ちゃんを連れて来たのかを聞きたいのです』
ユグドラシルちゃん説得中に突然アテネ様が黒龍王の赤ちゃんを抱っこして私達の前に御降臨されました・・・
・・・いえ、もう言わなくても分かります・・・黒龍王君をウチで引き取るんですね?分かりますよ。
《きゃあああああ?!可愛い子ですね!分かりました引き取ります!》
『そうでしょう?!ユグドラシルちゃんなら分かってくれると思ったわ!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・この子可愛いですか?
私は凄く厳つくてカッコいいとは思いますけど、別に可愛いとは・・・
そうですか・・・アテネ様もこの世界に厄介払いに来ましたか、そうですか。
味方は居ないのですね、パシリ女神は孤立無縁なのですね。
こうして黒龍王君がこの世界に仲間入りしました。
うふふふふ・・・益々賑やかな世界になりますねぇ・・・うふふふふふ・・・・
案の定、この黒龍王君には長年に渡り物凄~く苦労する事になります。
こんな感じに色々な要素がごった煮になったクソッタレの世界が形成されて行くのです。
そして更に5000年経ち・・・
私、「調和の女神ハルモニア」の使いパシリの世界管理は唐突に終わりを迎える事になるのです。
アテネ様にパシられて、このクソッタレ世界の管理を始めて約15000年以上が経過した時に大事件が勃発しました・・・
バカスカと大量の魔力を必要とする異界ゲートを作りまくったユグドラシルちゃんの魔力が遂に枯渇したのです。
霊樹の魔力枯渇は「死」に直結します・・・
だって誰からも魔力供与を受ける事が出来ないからです。
人間の言う所での「寿命」・・・です。
・・・・・・・だから何回も何回もユグドラシルちゃんに言ったのです!
「もっと計画的に、魔力分配を間違えないで」と・・・
このままでは死からの完全消滅は絶対に免れないユグドラシルちゃん・・・
・・・15000年も一緒に頑張っていればもう自分の妹同然のユグドラシルちゃんを救う為にパシリ女神は決意します。
天界の私の本体の神気を使ってユグドラシルちゃんの魂を消滅から保護しましょう・・・と。
ユグドラシルちゃんを霊樹として復活させるのは神にも不可能なのです。
そんな事は私は勿論、最高神のゼウス様にも不可能なのです。
人が人を甦させる事が出来ないと同じ様に・・・
それなら私の精神体でユグドラシルちゃんの魂を包んで保護すれば幾らの月日は消滅せずに済むでしょう。
そして後世で成長した誰かがユグドラシルちゃんの魂に力を注いでくれれば・・・
霊樹とは違う存在として生き続ける事が出来るはずなのです。
要するに現時点で手の打ち様が無いので先送りです。
ごめんなさいユグドラシルちゃん・・・私にもっと力が有れば・・・
しかしそうなると私は、精神体を失いこの世界の管理権も失う事になります。
同然こんな勝手な真似は重大な規約違反ですので神界でも当然罰も受けるでしょうね・・・神格を失うかも知れませね。
それでもユグドラシルちゃんの魂の消失はそれ以上に嫌です!
その為には協力者の存在は必要不可欠です。
私に協力してくれる者と言えば・・・三龍王達。
「「分かりました。我もハルモニア様の防護膜に魔力を送りましょう。
その後も魔力供給は続けて行きます」」
ありがとう!クライルスハイム君!
君もすっかりと大人・・・叔父様になってしまいましたね、お姉様ちょっと悲しい。
そう言えば君のお父様のベルリン君・・・精神的に復活はしたのですが・・・
その瞬間、クロノス様に連れて行かれて今はクロノス様麾下の30世界ほどの世界の管理をやらされています・・・
もう地龍ではなくて私と同じパシリ男神になってしまいました。
でも楽しそうです、とても生き生きしています。
30の世界管理の激務よりこの世界の管理の方が嫌だったのですね・・・
うん!分かります!分かりますよベルリン君!
それから天龍王アメデ君、君にも大分助けて貰いましたね。
「「地球よりやって来た実に面白い魂を持つ娘を見つけましてな。
ユグドラシル様の魂と因果で結んでおきましょう。
彼女ならユグドラシル様の魂が復活した際に力を貸してくれる事でしょう」」
ありがとう!アメデ君!
えーと?面白い娘?誰でしょう?・・・ああ!あのグリフォンの子ですね!
なるほど!あの子の天真爛漫さはユグドラシルちゃんの辛さを和らげてくれますね!
あの子も人のお話しを全然!聞かないですけどね!
そしてそして・・・海龍王アメリアちゃん!・・・って?!どうしたのーーー?!
無表情のまま海面にプカプカ浮かぶアメリアちゃん発見ですよー?!
「「・・・・・・・・申し訳ありませんハルモニア様・・・
わたくし今・・・息子の更生で頭と手がいっぱいでして・・・」」
ああ・・・うん、分かりますよアメリアちゃん、分かります。
あのド変た・・・困った子の更生ですね?
うんあの子ね・・・うんそれは大変ですね、アメリアちゃん!気にしないで!
魔力だけ、ちょっと分けてくれれば良いですからね!
「「あっ!わたくしの治癒の力は全てリールちゃんに譲渡しました。
若いリールちゃんがもっと成長すればユグドラシル様を助ける事が出来るかも知れないです」」
本当に?!ありがとう!アメリアちゃん!
そして最後の協力者の魔王・・・最後なので大奮発しますよ!
『魔王バルドルよ・・・聞きなさい、私の真名は「調和の女神ハルモニア」です。
地球の軍神アレスと美の女神アフロディーテとの子です』
もう最後なので盛大にフルで名乗りますよ!
《調和の女神ハルモニア様、我は魔王バルドルです。我は貴女様に従います》
ああ・・・最初の出会いから15000年ですか・・・
君の事ももう弟の様に思っていましたよ。
この15000年の間に君も完全に次元高位存在者になってしまいましたね。
ん??あれ?じゃあ、この世界は君が管理すれば??
んん??まぁ、良いです。
『魔王バルドルに命じます、「ユグドラシル」の魂を救う為に私は大半の力を失います。
そしてこの世界から消滅する事になるでしょう
魔王バルドルよ私の代わりに「ユグドラシルの瞳」を受け継いで「世界の守護者」となりなさい』
《御意》
『では正式に魔王バルドルに「ユグドラシルの瞳」授けます。
この瞳で世界を見守って下さいね』
《御意》
『そして私の事は完全に忘れるのです。
他の世界の神に頼ってはなりません、この世界は貴方達の物なのですから』
《御意》
『うふふふ・・・素直なバルドル君・・・・・・感無量ですよ。
私の事は忘れても次の「世界の言葉」のお話しはちゃんと聞いて下さいね』
《そこは断固拒否する》
『ええーーー?!なんでよぉーーーーーー???!!』
《いえ、それはソレ、これはコレなので》
『もおおおおお!!!頑固者ーーーー!!!』
やはりバルドル君はバルドル君でした・・・やっぱり呼び捨てにしよう!
こうして世界の管理権限を「ユグドラシルの瞳を持つ者達」に移譲したユグドラシルちゃんと私・・・
この後直ぐにユグドラシルちゃんの霊樹は朽ちて、私のこの精神体は新しい魂に作り変えてユグドラシルちゃんの魂と共に世界に送り出しました・・・
これで私のこの世界での役目も終わりです。
重大な規約違反を犯した私は次元を超えて天界へと強制送還されます。
クソッタレの世界でしたけど二度とは戻れないでしょう・・・
その事が悲しくて涙が止まりません・・・
さようなら愛しい世界。
そう思っていた時期もありました。
『こらあーーーー!!魔王バルドル!言う事を聞けえー!!
バルドルよ!!先代との約束を何と心得る?!』
《先代?だから誰なのじゃお主は?先ずは名を名乗らんかい、コミュ症か?お主は?
イタズラ念話はご遠慮願います》
パシリ女神ハルモニア!クソッタレ世界にリターンですよ!!!
そして私との約束を守り綺麗サッパリ私を忘れた魔王バルドル君!!
確かに忘れると私と約束した!・・・でも冷た過ぎない?!ホントに忘れるなんて!
あ・・・えーと?・・・そして何でこんな事になったかと言うとですね?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
私が天界に戻ると高位の神々よる規約違反を犯した私への懲罰会合で・・・
「あの世界の面倒見れるのはハルモニア様しかおりませんな!」
「さよう!あの世界が無くなると色々と困りますな!」
「女神ハルモニアの処分は無し!で、よろしいですね?皆様」
「異議無し!」
「主神としての資格も充分ですからな!」
「貴方たち!自分は管理したくないけど厄介払い出来る世界も無くなると困るから、そんな事を言ってるんでしょう?
それから「主神」になるのは「当たり前」です!!
あれだけ苦労して「主神の資格無し」なんて言われたらグレますよ?!」
「ハルモニアちゃん!お願いーーー!!
こんなに強くなったハルモニアちゃん以外にあの世界を管理出来る様な適任者が居ないのよーーー!!」
帰った途端に高位神達から「女神ハルモニア推し」が始まりましたよ!!
そうです!ハルモニアはクソッタレ世界で鍛え上げられて強くなりました!
あの頃の弱い私はもう居ないのです!
もう高位神が相手だろうとパシリ女神は容赦なく反論しますよ!
「嫌ですーーー!規約違反で処分して下さい!
そして配置変えを!配置変えを所望しますーーー!!」
「あーん、ハルモニアちゃん!お願いーーー!!」
「い・や・ですぅーーー!!」
紛糾を極めた神々の「押し付け合い会合」により、めでたく女神ハルモニアがクソッタレ世界の管理者・・・いえ、「主神」に再任されたのです。
15000年の悪戦苦闘の末に私の神力は3倍増、地球とクソッタレ世界の両方を面倒を見てもお釣りが来ます。
「そうと決まればハルモニアちゃん!新しい子をお願いしたいのです!」
「だから私は更生施設の管理者じゃなーーーい!!」
はああああ・・・でも・・・決まってしまったなら仕方ないですね!
また精神体を作らないとダメですね!今度は最初から厳しく行きますよ!
うふふふふ・・・そうですね。
何だかんだで、あの世界にもかなり愛着も湧きましたからね、今回は頑張りますか。
そう言えば・・・前の精神体から作った魂・・・どうなったのでしょうか??
本体の私と完全に分離してしまい行方不明なのです。
音信不通にはなりましたが存在はハッキリと感じています。
あの子が幸せに暮らしてくれている事を切に願います。
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