君がいた時間
あはんへんほん
【もういない君に】
命は秒針と同じく進んでいく
けして止まることはない
この世の全てに訪れる
『死』という停止がくるまで。
「……やっぱり、恐いよね……」
時計の秒針は止まることなく進んでいく。
たとえ何億年かかろうとも、地球が砕けようとも、宇宙が消滅しようとも、地球上の全ての生物の命が停止しようとも──時は流れることを止めない。
たとえそれが、どんなに恐ろしい世界だとしてもだ──
「じゃあね」
「ああ」
ガラリと扉を開け放つ。
もう、ここには戻らない。
振り返らない。
扉の向こうには、君がいるから──
「ねえ、一つだけいいかな?」
「……なんだ?」
君は言ったよね。
もし私が死んだら、その時は一緒に死んでくれるって──
「私のこと、愛してる?」
その答えは知っている。
でももう一度だけ聞きたいんだ。
君の声でね──
「ああ」
もう振り返らない。
扉は開き、時は進む。
もう君はいないのだから── もう君には会えないのだから── 私は──
「愛してる」
私は── 私は、走る。
心の中で、君だけを思い続けて── 君のいない世界に向かって──
「私も、愛してる」
だから、大丈夫。
私はもう──
「じゃあね」
もう振り返らない。
前だけを見て進む。
もう君を見ない。
その思い出だけを心に刻んで──
「さよなら」
私は走りだす。
君のいない世界に向かって── 君と過ごした日々の思い出を胸に抱いて── 君が愛した世界に抱かれて── 涙がこぼれ落ちる。
それでも走るよ。
いつか君の所に辿り着くために──
「ありがとう。そして──」
さよなら──私の愛しい人──
「またね」
もう振り返らない。
二度と君のことを思い出すことはないけれど、私は前を向いて進むよ。
君以外の人と恋をして、幸せな家庭を築いていくんだ。
でもきっと忘れないよ。
君との約束を──君の笑顔を──ずっと私の心に刻んでおくからね──
そして私は、前に進んでいく──
「ああ」
たとえそれが、どんな結末になろうとも──
「じゃあな──」
もう振り返らない。
君を失った悲しみを胸に抱いて── 私は前だけを見て進んでいくんだ──「愛してるよ──」
だから、さよなら──私の愛しい人── そして私は歩き出す。
幸せな未来に向かって──君のいない世界に向かって──
君がいた時間 あはんへんほん @kamisaka_san
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