切れないシザーハンズ
くさぶえ 舞子
第1話切れないシザーハンズ
最近、二歳半になった息子は、以前よりも意思表示をするようになった。残念ながら、言葉のほうはあまり多くない。むしろ発達の経過観察を病院で心配されているほうだが、それ以上に成長たくましいことを態度で現してくれているので、そこまで心配はしていない。
例えば、一歳の夏、髪が伸びてきたな、と思ったので文具のハサミでチョキチョキ切った。ちょっと、切りすぎたかな……と思うほどおでこが出ていた。根本から二センチくらいまでバッサリ切った。それでも、息子にとっては初めてのことだったのと、ハイハイがようやく出来るようになったこともあり嬉しそうに目を輝かせて笑いながら寄ってきた。
しかし、二歳になる頃からは、ハサミを怖がるようになった。それから、断然髪を切るのが難しくなった。私が、
「シャキーン、シャキーンするよ!」
と、両手をピースしてハサミの動きをマネして見せるだけで
「うぇーん」
と、うずくまって頭を押さえて髪を切られるのを抵抗するようになった。隙をみて耳の中に入らないように短く切るか、チョコチョコしか切らせてもらえなくなった。
あるとき、ついに前髪が目に入るようになってきたので、これは一人で押さえこむのは無理かなと、思った。
そこで、夫の実家へ行き、髪が落ちてもいいように板張りのところで、切ることにした。おばあちゃんと、夫で息子を押さえこみ、私が泣き叫ぶのを尻目にハサミで髪を切った。ザクザク結構切った。その間、何度も恨めしそうに睨み付けながら、
「えーんえーん」
と、泣いていた。
実家から帰ってきて、髪を切ったことなどすっかり忘れていた頃。私はゴロリと、横になっていた。すると、頭の後ろに違和感を感じる……。
なんと、息子はおもちゃの切れないハサミで私を散髪するマネをしていたのだ。何度もチョキチョキされた。
恨みがましい男めと思ったが、嫌なことを覚えていたことに成長と、また、切れないハサミで一生懸命切ろうとしていることがおかしくて思わず笑ってしまった。
そして、意外と幼い子どもでも覚えているものだなぁと感心した。三つ子の魂百までと言うけれど、こんなことまで百年言われたらたまらんなとも思った。
私も子供の頃は、よく大人の理不尽さに恨みを持ったものだが、逆の立場になってみるとなんだかしょうがなかったのよ、ごめんね。と、しかいいようがなく、今、自分の親への恨みは少しづつ消えようとしている。
切れないシザーハンズ くさぶえ 舞子 @naru3hakuji
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