不運の子

豆大福

不運の子

「君の不運に、この地球の命運がかかっている。頼んだぞ」

 アメリカ合衆国大統領にしっかりと両手を握られ、その隣で我が国の総理大臣も力強く頷く。一般日本人女子高生である私は「ひゃい」と返事すら噛むくらい緊張しながら、銀色に光るタコのような頭部を持った宇宙人に視線を向ける。

「準備は良いでしょうか」

 無機質な声に、覚悟を決めた。


 私は不運体質だ。おみくじを引けば凶か大凶、ガチャポンを回してもお目当てが引けた試しがない。幼少期からじゃんけんで勝ったこともなく、私の周囲では「じゃんけんで決めるのは不平等だからやめよう」なんて意味不明な取り決めが発生したりする。

 そんな折、社会見学で訪れた神社で、友人に囃し立てられるままおみくじを一度に十本引き、全部大凶という新記録を打ち立てた。

「我ながらすごいや。この不運を世界の役に立てたい」

「何の役に立つの」

「わかんない」

 手分けしておみくじ掛けに大凶のおみくじたちを結び付けながら、友人と笑い合う。するとどこからともなくスーツ姿の男性たちが現れて、私たちは取り囲まれてしまった。

「素晴らしい。その不運の力を是非とも我々に貸していただけませんか」

 差し出されたシンプルな名刺には、内閣調査室首相秘書官とあった。圧倒された私は、高級車に乗せられ、首相官邸へと連れて行かれてしまった。


「君には地球を救ってもらいたい」

 官邸では、テレビで見たことがある総理大臣とアメリカの大統領、それからどう見ても人間ではない銀色の何かが待ち構えていた。

 私は事情の説明を受けた。この銀色さんは宇宙人で、地球を更地にして異星人に売りたいらしいこと。しかし星間条約で一方的な侵略行為は禁止されているので、勝負をしたいと考えていること。銀色さんの能力で「勝ち」はコントロールできてしまいフェアではないから、運一本の「負け」で決めたいらしいこと。だから地球側は特別不運な人を探していたこと。

「つまり私がくじ引きで当たりを引いたら、地球は終わるってことですか」

「そういうことです」

 銀色さんが人間に聞き取れるように調整した機械音声で答える。あまりにも荒唐無稽な話だし、責任重大すぎる。けれど、ここで私の不運を活かさなければ、いつ活かすのだろうとも思う。

「やります」

 緊張しながら頷くと、大統領がしっかりと両手を握って礼を伝えてくれた。


 蓋を開けてみればあっさりと勝負はついた。

 結論から言えば、地球は守られた。くじ引き三本勝負では私が三回連続でハズレを引き、銀色さんが納得できないと追加したじゃんけん三連勝負も、当然三回とも私の負けだった。

 総理と大統領の熱烈なハグを受けてもみくちゃにされながら、震える。本当に私の不運が世界の役に立ってしまった。

「約束通り地球のことは諦めましょう」

「よ、よかったぁ!」

「でも悔しいのであなたの不運は貰っていきます。ごきげんよう」

「えっ」

 銀色さんは私から紫色の光の玉のようなものを取り出し、姿を消してしまった。

 あれが不運の正体だったのだろうか。盛大な祝勝パーティーを開いてもらっている間にも、いまいち現実味のないままだった。


「これで十連続大吉だ」

 あれから数年、私の不運体質は劇的に改善し、ものすごく運が良くなった。おみくじを引けば大吉ばかりだし、懸賞にもよく当たる。

 こうして幸運に見舞われると、銀色の宇宙人や、喜びを分かち合った当時の総理大臣や大統領の顔が浮かぶ。元気にしているだろうか。銀色さんはもう来ないと言っていたし、総理と大統領はもう引退してしまった。

 不意にスマートフォンに着信があった。知らない番号だ。

『もしもし。突然のご連絡で申し訳ないのですが、前総理にあなたのことを聞きまして。別の宇宙人が襲来したので、今度はとっても運が良い人を探しているのです』

「行きます」

 私は迎えに来た高級車に乗り込み、久しぶりの首相官邸に向かう。人生で二回も地球を賭けた戦いに駆り出されるなんて、運が良いのか悪いのか。

 私は首相官邸で待ち構える、金色のエビに似た宇宙人と対峙した。


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