遼東の空に鷹は舞う~サルフの戦い顛末記~
平井敦史
第1話 明軍迫る
太古より、人類は大小幾万もの戦いを繰り返してきた。
その中には、それ以降の歴史の流れを大きく変え、時代を
これは、それらの中でも最も劇的なものの一つ――。建国間もない
果てしなく広がる青い空。
壮年の偉丈夫が一人、じっと空を見つめていた。
頭髪の大部分を
顔には無数の古傷が残り、彼が過ごしてきた歳月の過酷さを物語っている。
「こちらにおいででしたか、父、いえ、
彼を探しに来た若者が声をかける。
男の名はヌルハチ。中国大陸東北部に割拠する半農半猟の民・
かつて
そして彼を呼びに来た若者は、ヌルハチの八男・ホンタイジ。
八男でまだ二十代の若者ではあるが、いささか
「ホンタイジ」という、本来は皇太子、王などを意味する普通名詞である名で呼ばれていることも、父の期待のあらわれであろう。
「
そもそも、彼ら
その中でも最も西側、
ヌルハチの本拠地であり、
(ふん、どいつもこいつも怖気づきおって)
腹の中で、ヌルハチが吐き捨てる。
ヌルハチは
それならばいっそ先手を打とう、というのがヌルハチの考えだった。
ヌルハチが定めた元号で
ヌルハチは
その内容は重複している部分が多く、無理矢理七つ数え上げている感があるが、要点を言えば、ヌルハチの父と祖父を殺害したこと、ヌルハチと敵対する部族に肩入れし対立を煽ったこと、などを責めるものだ。
父と祖父の死に関しては、
この檄文を掲げ、ヌルハチは
これに対し、
この
そして
その総兵力、
「どうなさるおつもりですか、
「そうです! 元はと言えば、
部族長たちが口々に
部族長や兄たちの下位、末席に近い席に着いていたホンタイジが、つとめて冷静な口調で口を挟む。
「45万と言っても、あくまで“
「だとしても、我が軍よりも圧倒的に多いではないか!」
そこで、それまで黙していたヌルハチがはじめて口を開いた。
「
(父上も大言壮語なさるものよ)
ホンタイジは内心面白がりながら、顔色は変えずに父である
たしかに、兵の練度という点では女真に圧倒的な利がある。しかし、
かたや
「ですが……」
なおも抗弁しようとした部族長を一睨みして黙らせ、ヌルハチは言葉を続けた。
「それに、だ。45万、いや、おそらくは20万程の敵兵が
「そ、そうです! このままでは、南北から挟み撃ちにされることに……」
上手く
ただし、あくまでも上手く嵌まればの話である。
実を言えば、ホンタイジの見るところ、ここ最近の
さすがに、
しかし、先ほど青天の下で見た父の眼差しに迷いは無かった。
「首をすくめて座り込んでおったなら、そういうことにもなろう。されど、我らの馬の脚は漢人どもよりもずっと速い。やつらに囲まれる前に、その出鼻を
ヌルハチは立ち上がり、高らかにそう宣言した。
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