【6】みんなに喜ばれちゃった
大量発生したスライム討伐、あと乱入してきた魔人を倒した僕達はギルドへ戻ってきた。本来ならこのまま受付嬢のお姉さんにライセンスを見てもらって、報酬を受け取って終わりなんだけど今回は違う。
なぜかギルドの出入り口の前にズラッと受付嬢のお姉さん達が並んで待っていたんだ。
これはどうしたんだろう? もしかして王様とかそういう偉い人が来るのかな?
そんなことを考えていると、僕達に気づいたいつも相手をしてくれるお姉さんが手を降ってくれた。
「お待ちしておりました! 魔人討伐、おめでとうございます!」
受付嬢のお姉さんに近づくとそんな言葉をかけられた。途端に他のお姉さん達が駆けつけ、ズラッと並んで「おめでとうございます!」と一斉に祝いの言葉をかけてくれたんだ。
えっと、これはどういうことなんだろう?
確かに乱入してきた魔人を倒したけど、ここまで祝われることはないと思うし、それに倒したのはアリサだし。
「あー、そういえば最近、この一帯を荒らし回ってる魔人の話があったな。モンスターよりも達が悪くて困り果ててるって聞いた」
「あら、それがあの魔人だったの? じゃあお手柄ですね、レイン様」
「倒したのはアリサだよ。僕はたいしたことしてないし」
「いえ、レイン様が助けてくれなければ私はひどい目にあってました。それはもう、あーんなことやこーんなことを嫌でも無理矢理されられていたはずです。そんなこと許されるのはレイン様のみ。つまり、私の心も身体もレイン様のもの。きゃっ」
「きゃっ、って言わないでよ。ほら、みんな冷たい目をしてるじゃないか!」
「兄弟で禁断の関係を題材にしてる読み物が最近流行っていたが、まさか本当にやってる奴らがいるとは。事実って末恐ろしいな」
「そんな関係じゃないから! 勘違いしないでくださいよヴァンさん!!!」
もぉー、アリサのせいでみんな引いてるじゃないか。いつも相手をしてくれるお姉さんですら蔑んだ目をしてるよ。
「こほん、ひとまず魔人討伐してくださりありがとうございます。ヴァン様が仰っていた通り、私達は魔人の出現に頭を悩ませておりました。ですが、その問題もレイン様のおかげで解消ざれたことになります。本当に、ありがとうございました!」
「いいえ。その、僕は本当にたいしたことしてなくて――」
「ライセンスの記録を参考にしております。あなた様が大変なご活躍をしたからこそ成し遂げられた功績です。つきましては、受諾したクエストに魔人討伐の報酬、さらに色をつけさせていただきまして計5万プラント金貨をお贈りさせていただきます」
「5、5万!?」
5万プラント金貨って、小さな領地を持つ貴族の運営資金と同じぐらいの金額だよ!
それを、魔人を一体倒しただけで手に入れるだなんて。父様いわく、冒険者は人生の博打だって言ってたけどこれはすごい。こんな経験をしたらまた頑張りたくなるよ。
「また、魔人討伐のあかつきとしてレイン様のライセンスランクを三つ星へランクアップさせていただきます」
「えー!」
「今後のご活躍、私達は期待しております。さらなるご躍進を待ち望んでおりますね」
なんだかすごいことになっちゃった。
よくわからないけどみんなから祝われたし、知らない女の人に言い寄られたし、アリサが殺気剥き出しにしていろんな人を睨んでたし。
まあ、大変だった。そんな姿をヴァンさんが楽しそうに笑っていたからちょっとムカついたよ。
でも楽しかったなぁー。やっぱりまた頑張ろっと。
「おめでとう。運命、変えられたね」
食べろ食べろ、酒を飲め酒だ酒。
そんな感じにもみくちゃにされてると、誰かが声をかけてきた。振り返るとそこには魔巧剣タクティクスを貸してくれたミューユさんがいる。
僕はお酒を飲ませようとする先輩達から逃げるためにミューユさんへ駆け寄り、声をかけた。
「ミューユ、ありがとうございます。ミューユさんが貸してくれた剣のおかげでみんなを助けられましたよ」
「うん、見てた。やっぱり私の思った通りだった」
「あ、そういえば変な光景が頭に浮かんだんですけど、あれは一体――」
「それは未来の出来事。ちょっと先のことだけど、タクティクスは未来を見せてくれるの」
「へぇー、そんなすごいスキルがあったんだ」
「うん、そうだよ。でも見れるのは資格を持つ人だけ。あなたはその資格を持っていたから見ることができた」
「すごい剣ですね。でも借りっぱなしはいけませんね」
「いらない」
「え? いらないってなんで?」
「あなたがふさわしい。だからあなたにあげる」
「でも……」
「他にも持ってる。だから心配しないで」
彼女は、ミューユさんはそう言って微笑んだ。よくわからないけど、魔巧剣タクティクスは僕のものになる。
彼女の言葉に甘えてよかったんだろうか、ってつい考えていると彼女はこんなことを言った。
「悪いこと、したいんでしょ? それ便利だよ」
そうだ、僕はロキちゃんを喜ばせるために悪いことをしなくちゃいけないんだ。なら、迷っている暇はない。
魔巧剣タクティクスを腰に携帯しなおす。そしてこの剣をくれたミューユさんに改めてお礼を言った。
「ありがとうございます! たくさん悪いことしますね」
「頑張ってね」
よし、それじゃあタクティクスのスキルを使って悪いことをするぞ!
あれ、そういえばミューユさんに僕の目的って教えたっけ? うーん、まあいっか。
「やるぞー!」
手始めにお酒を飲もう。日本だとお酒は二十歳からって言われてるし!
よし、じゃんじゃん飲むぞー!
★★ヴァン★★
お祭り騒ぎが起きる中、俺は懐かしい顔を見つけた。まあ、こいつのおかげで助かったようなもんだ。
そう思い、俺は声をかけることにした。
「よ、ミューユ」
「久しぶり、ヴァン」
「いいのか、タクティクスを渡して」
「ふさわしいから渡した。問題ない」
ミューユはどこか満足げな顔をし微笑んでいる。どうして強い武器を手離し、そんな顔をしているのかわからなかったが俺は話を続けることにした。
「そうか。まあ、あいつならいい方向に使いそうだな」
「うん。悪いことにはならない。みんな喜ぶよ」
「そりゃ大変だ」
「うん、大変。それよりヴァン、お願いがある」
「なんだ?」
「あの子のフォロー。いい?」
「パーティー組んだからそのぐらいやってやるよ」
「じゃあお願いね」
ミューユは俺にそんな言葉を残し、ギルドから去っていく。ホント何を考えているかわからない女だ。
ま、いいか。せっかくの祝いの席だ。安酒だが俺も楽しむことにしよう。
「しかし、フォローねぇ。一体何をすりゃいいんだか」
「きゃー! レイン様、こんなところで服を脱ぐなんて! ああ、ああ、なんてお美しい御身なのでしょう!!!」
「あははっ、あはっ、あははっ」
「ああ、ダメ! 裸踊りはダメです! パンツは、パンツだけは!!!」
「こういうことか。断ればよかった」
俺は頭を抱えながらアルコールにやられたリーダーを抑えにかかる。
顔を真っ赤にさせたレイン、きゃーきゃー言いながら楽しんでいるアリサに頭を痛めつつも、俺は賑やかなパーティーの一員として再出発することになったのだった。
★★★★★
今回の悪いこと︰アルコールにやられて裸踊りをした
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