【3】パーティー追放にあった少年を利用するぞ

 僕がアリサと一緒にアルバート家を飛び出して一週間ほど。新しい人生を僕達は楽しく謳歌していた。


 まず、アルバート家の一員でなくなったため名前を【レイン・ウォーカー】に変えたんだ。このウォーカーってのはアリサの姓名。一応、アリサとは血の繋がらない姉弟っていう設定になっているけど、なんで血の繋がらないというのが必要なのかわからなかった。なんか重要そうにしてたし、たぶん深く聞かないほうがいいなって思ったから聞かないでいるよ。

 ひとまず、そんなこんなで僕はアリサの力を借りて冒険者になったんだ。まだ駆け出しで右も左もわからない新参者なんだけど、でも一生懸命稼ぐつもりだよ。


 そして偉くなって、裏からみんなが困るようなことをしてやるんだ。にしし。


 とまあ、そんな野望を持ちつつ、僕は今日もできそうなクエストを探している。クエストボードを見る限りだと、今のランクでできそうなのは〈薬草集め〉〈大量発生したスライム退治〉〈逃げ出したペットの捜索〉ぐらいかな。

 ペット捜索はもしかすると手のつけられないモンスターがペットの可能性があるからパスしよう。前に受けてひどい目にあったし。

 薬草集めは比較的安全だけどその分、安価。だから受けるとしたらスライム退治かな。


 そんなことを思いつつ、僕は持っていたライセンスをクエストにかざした。なんでもこうすることによってクエストに記された魔導インクってものを読み取って、受諾できるかどうかの判定をしてくれるんだって。

 アリサいわく、ギルドの労働改善のために導入されたシステムだそうだ。


「パーティーの人数が足りないだって?」


 無事に受諾できればこのまま出発できるんだけど、今回はそうじゃなかった。

 なんでも、今僕が組んでいるパーティーだと人数が足りなくてクエストが受諾できないそうだ。


 うーん、困った。アリサはとんでもなく強いからモンスター討伐がいいなって思っていたんだけど、まさか人数の壁に阻まれちゃうとは。

 このままじゃあスライム退治のクエストは諦めるしかないかな。


「どうしてダメなの!?」


 そんなことを考えているとカウンターからアリサの怒号が耳に飛び込んできた。

 どうしたんだろう、と思って慌ててカウンターへ向かう。すると歯を剥き出しにし、受付嬢を睨んでいるアリサの姿がある。

 そんなアリサと対峙する受付嬢はどこか呆れた顔をしてため息をついていた。


「ですから、レインさんのランクが足りないんですよ。アリサさんと違って彼はまだ一つ星でしょ? それなのにいきなりドラゴン討伐なんてやらせられる訳ないでしょ?」

「私がいるじゃない! それにほら、このドラゴンはドラゴンの中でも一番弱いキッズだし」

「確かに一番弱いですが、幼体のそばには親がいる可能性が高いんです。しかもこれ、高難易度ダンジョンの最深部を根城にしているスタードラゴンの幼体ですよ? アリサさんならともかく、レインさんはそこら辺のザコにやられちゃいます」


「うー! うー! ああいえばこういってぇぇ!!!」

「あなたが考えなしなんです。私じゃなくても止めますよ、このクエストは」


 アリサはムキーッてなっていた。

 でも、今回は受付嬢の判断が正しい。そんな場所に行くクエストは僕もごめんだし。


 まあ、アリサと受付嬢のやり取りは聞かなかったことにして、他のクエストを探すことにしよっかな。

 それにしても、いいクエストがないなぁー。二人でできるのはとても簡単なクエストばかりだし。このままじゃあ稼ぎたくても稼げないや。


 そうだなぁー、誰かパーティーに入ってくれる人を見つけたほうが早いかな? でも、アリサがなんか嫌がるし。特に女の子は露骨に敵対心を出してくるから大変だし。


「いい加減にしろ! そんなに俺が邪魔なのかよ!」


 誰かいないかなー、って考えていると今度は隣接している酒場から怒号が聞こえてくる。なんだ、と思って振り返るとそこには男女合わせて四人と向かい合っている僕と同い年ぐらいの少年がいた。

 その少年は眉を吊り上げており、歯を剥き出しにして激しく怒っている様子だった。


「ああ、そうだよ。お前はいつも一人で突っ走る」

「私達はもう限界なのよ。フォローしきれないわ」

「そうね、アンタの回復に魔力使っちゃうし、すぐに尽きちゃうし」

「つまりお前にはついていけないんだ。悪いが、パーティーを抜けてくれ」


 そんな言葉をぶつけられた少年は、拳を震わせていた。どうやら少年の戦い方がパーティーに合わず、みんなの不満が積もっていたようだ。

 そんな不満を聞いた少年は何か言いたそうにしていたけど、反論はしなかった。ただ寂しそうな顔をして「そうかよ」と告げ、ライセンスをかざす。


 するとライセンスから青い光が放たれ、同時に【脱退を受諾しました】という声が放たれる。どうやら少年は本当にパーティーから脱退したようだ。


「じゃあな、お前ら。せいぜい頑張って生き延びろよ」


 そんな言葉を言い残し、彼は去ろうとした。

 でも偶然、その光景を見ていた僕と目が合う。するとどこかバツの悪そうな顔をし、舌打ちをして去っていく。


 なんだか感じが悪かったけど、あんな場面を見られたんだから仕方ないかもね。


「ホント清々したわ。あいつがいるだけでヤバかったし」

「そうだな。あいつのせいで俺達の生命力が減っていたしな」

「ホントね。いっつも回復しないといけなかったら大変だったわ」

「ま、いなくなったからいいじゃないか。憂いはなくなったよ」


 彼がいたパーティーは去った後も悪口といえる言葉を言っていた。なんでそんなに言われる必要があったんだろう。


 気になって気になって仕方なくなってきた。よし、こういう時は受付嬢に聞くのが一番かな。

 そう思って作業している受付嬢に声をかけてみた。えっとこの人は確か、アリサとやり取りしていた人だね。


「あ、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「はいはい~、どうしましたか?」

「えっと、あの赤髪の人について聞きたいんですけど」

「ああ、ヴァンさんのことね。彼はなかなか大変ですよ」


「大変って、そんなに嫌われるようなことをするんですか?」

「うーん、人柄は悪くないかな。でも、彼が持っている魔法媒体が厄介なスキルを持っているのよ」


 魔法媒体――それは僕達人間が魔法を発動させるために必要な代物だ。武器や防具、一部のアイテムに備わっているものでもあり、モンスターと戦うには絶対に必要な存在でもある。

 理由は二つあって、魔法がまず使えるようになること。あと一つは戦闘で有利になるスキルがつくことだ。

 基本的にいい方向で働くものなんだけど、ヴァンさんの場合はそうじゃないらしい。


「どんなスキルを持っているんですか?」

「えーっと、確か【生命変換】というものだったかな。詳しくはわからないけど、パーティー全員に影響を及ぼすスキルみたい」

「そうなんですか。生命ってついているから、やっぱり生命力を削っちゃうものなんですね」

「みたいね。でも、彼のおかげで助かった人は多くいるし、使いようではすごく強いスキルらしいわ。まあ、今回は運がなかったとしか言えないわね」


 運がなかった、かぁー。

 確かに厄介かもしれないけど、すごく強いなら使いようだと思うけど。


「でもまあ、彼ならすぐに新しいパーティーは見つかると思うかな。スキルさえどうにかできればいいし」

「あ、そっか。今パーティーを追い出されたところでしたね。じゃあ声をかけちゃおう」

「え? 今はやめておいたほうが――」

「ありがとうございます! ちょっとパーティーに誘ってみますね!」


 善は急げ、いやいいことをする訳じゃないから悪は急げかな。

 ということで僕はヴァンを追いかけた。まだギルドを出てそんなに時間が経っていないから近くにいるはず!


 そんな風に思って建物の外へ出ると、入り口の近くにヴァンは立っていた。


「あ、いた!」

「いたってなんだ、いたって。うん? お前、さっきの――」

「レインって言います。ヴァンさんでしたね。よかったら、僕のパーティーに入りませんか?」

「は? お前何を言って――」


「必要なんです。あなたが、どうしても必要なんです!」


 そう、そうなんだ。今はスライム退治の頭数をそろえるためにはどうしても必要なんだよ。だから、だからちょうどよくパーティーを追い出されたヴァンさんが必要だ。


「いや、そう言われても。というか、お前さっき見ていた――」

「見ていました! だから、だから入ってください! どうしても必要なんです!」

「ケンカを売ってるのかお前!」


 何を言われようとも、どんなに拒まれようとも必要なんだ。絶対に、絶対にヴァンさんを仲間にする!


「お願いします! 仲間になってください! どうしても必要なんです!」

「抱きつくな! 離せ、俺から離れろぉぉぉぉぉ!」


 そんな確固たる決意を持ってヴァンさんの身体に抱きつく。ヴァンさんは必死に僕を突き放そうとするけど、絶対に離さないからね。


「レイン様、一体何を騒いで――」


 そんな攻防をしていると心配したアリサが覗きにやってきた。そして、僕がヴァンに抱きついている姿をバッチリ見られてしまう。

 しばしの沈黙の後、アリサは唐突に乾いた笑いをこぼし始め、崩れ落ちるとハンカチを噛んで泣き出した。


「ああ、ああ、ああ! そんな、まさか、レイン様が、そっちのご趣味があっただなんて!!!」

「え? どうしたのアリサ???」

「私は、いえ私が愚かでした!!! ああ、レイン様のことを全て知っていると自負していましたがそんなの愚の骨頂。私は、私はレイン様のこと全然知りませんでした!!!!!」

「何勘違いしてんだ! つーかお前、助けろ!」


「私は、もう口出しはしません! お二人の恋路を、恨めしく見守っております!」

「よくわからないけど、仲間になってください! あなたしかいないんです!」

「あー、もーわかったから離せ! 仲間になるから離してくれぇぇぇぇぇ!!!」


 こうして僕のパーティーにヴァンが加入してくれた。人数がそろったし、スライム退治のクエストを受諾できるぞ!

 でも、なんだかみんなの視線が痛い。よくわからないけど受付嬢の視線も痛かったよ。


 どうしてなんだろう?

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