隣の席の義妹とはじめるスローライフ

桜井正宗

第1話 アオハル荘へようこそ! 義妹と真夏のスローライフ

 セミの鳴き声が地獄の合唱を続ける。

 汗が滝のように死ぬほど流れ、熱中症になりかけていた。

 地球はついに温暖化で死にかけているんじゃないかと思う。


 だが、我が『アオハル荘』は非常に快適だ。


 冷房はガンガンだし、電気もネットも使いたい放題。そんな巨大な一軒家を俺、さか 蘭丸らんまるが現役高校生ながらも管理人として君臨している。


 親父が残した“遺産”だ。


 というか、蘭丸ってなんだよ。

 なんでそんな名前をつけたのやら。


 ……いや、そんなことよりも、アイツだ。


 三日前から俺のアオハル荘に住みつき始めた同じクラスの美少女・五条ごじょう 彩音あやねは、いつの間にか俺の義妹になっていた。

 彼女が勝手に宣言した。



『蘭丸くん――いえ、お兄ちゃん! 今日から住まわせてもらうねっ!』



 彩音は、家出をした。

 家庭の事情が超がつくほど複雑らしく、昔から兄が欲しかったというタイミングがいろいろ重なった。


 それが俺だった。


 俺がちょうどアオハル荘の管理人だったこともあり、貸せる部屋もあった。お金もあった。


 俺としても、アオハル荘に人が増えてくれるのは嬉しい。けど、彩音の場合は居候だけど。けどまあ、同居人としては申し分ないというか、願ったり叶ったりである。


 正直、一生接点なんてないものと思っていたし。


 けれど、女子と関わるなんて今までなかっただけに免疫がない。


 どうしたものかと扱いに困っていた。


 だから今はアオハル荘の外に出ていた。


 ……暑い。戻ろう。



 家の中へ戻ると、エアコンはガンガンで氷点下になりかけていた。寒すぎるだろ……! ここだけ季節が違い過ぎる。


 けれど、快適で居心地がいい。


 ソファにだらしなく倒れている彩音。

 もはや学校での美少女の片鱗はない。

 こうなってしまうと、ナマケモノ。

 だが、恐ろしく可愛い。

 ずっと愛でていられる。



「あ、お兄ちゃん。おかえり~」



 だら~っとした表情と言葉で彩音は言った。

 愛くるしい姿だが、しかし、俺としてはもう少しきちんとして欲しいというか。でも、許しちゃうけどっ!



「たまには外に出ろよ、彩音」

「え~、めんどくさーい。外は死ぬほど暑いし、涼しい家でゲームしている方がいいよ~」


 朱音は最近、オンラインゲームにハマっている。

 無人島でクラフトして生き延びるサバイバル系らしい。やたら時間を食うし、時間ドロボーゲームなのだが、一度やると熱中しちゃう。

 だから俺はなるべく避けているのだが……。

 そんなに面白いのだろうか。


 マルチプレイも可能だし、彩音との親睦を深める意味でもやってみようかな。


「彩音がひきこもりタイプだったとはね」

「だって、面倒くさいじゃん。海とか川とか山とか絶対行きたくない。肌を焼きたくないし」



 そのせいか、彩音は肌が不健康なほど真っ白だ。綺麗といえば綺麗だけど、ちょっと心配になる。

 ……とはいえ、俺もどちらかといえば家にひきこもっていたいタイプ。けれど、せっかく彩音とお近づきになれたんだ。デートくらいしてみたいものだ。


 男としての願望が揺らぐ。



「ん~、そうか。美味しいものとか食べにいかない?」

「ウーハーイーツでいいよぉ」

「出前かよっ!」

「出前でも美味しいのいっぱいあるよ。お金は掛かるけど」

「そりゃね」


「ネット注文している間、一緒にゲームしよ~」


 彩音は大胆にも俺の膝に乗ってくる。

 一緒に住むようになってから、こうして当たり前のように密着してくる。恥じらいは少しあるようだけど、俺は緊張しっぱなし。慣れない……。


 でも、この想定外のスローライフ。


 とても楽しい。




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