第35話 野蛮な武器
二人が入ったのは、街に数多く存在している武器を取り扱う商店の中でも比較的こじんまりした店だった。
狭い店内には剣を中心に様々な武器が所狭しと展示されており、駆け出しの冒険者であれば、品揃えの面で困ることはないだろう。
それに、ただ乱雑に武器が並べられている訳ではなく、武器の種類や価格などに合わせてきっちりと整頓された状態で置かれていることからも、店主の人となりを読み取れた。
「鉄砲だぁ?」
そんな店内に、男らしい低い声が響く。
その声の主である大柄の店主は訝しむような表情を浮かべていた。
二メートルを超える体躯に大木のような太い腕をしており、立派な口髭と鋭い眼光から発せられる威圧感は中々のものだ。
間違いなく、この店内をさらに狭く見せている要因の一つでもあった。
「あー……すまねぇ。別に脅かすつもりじゃなかったんだ。久々にその名前を聞いたからよ」
そんな店主に気圧された様子を見せたアリスに、店主は頭の後ろをかきながら申し訳なさそうに言った。
「俺たちはこの街で鉄砲が最初に作られたと聞いてきたんですが」
そんな店主の威圧感にはものともしていない様子のグレンがそう返すと、店主は髭を撫でながら答えた。
「あぁ、そんな話もあったな。……ただ、今も昔も、俺の周りで鉄砲を作ってるやつはいないな」
「そうですか……」
アリスは残念そうにそう溢す。
ここまでいくつかの店を巡り、軽い雑談の延長で同様の質問をしてきたのだが、返ってきた答えは同じだ。
「野蛮な武器……か」
「なんだそこまで知ってるのか」
「他の店の店員がそう呼んでいましたから。理由までは聞いていませんが」
「なに、簡単な話よ。誰でも簡単に、鍛錬無しで命を奪える武器なんて無責任なもん、野蛮としか言いようがないだろう」
「なるほど、技術を必要としない武器だから野蛮ですか。言い得て妙ですね」
武器に対して野蛮とは、何とも馴染みのない表現ではあったが、その説明にアリスは納得した様に頷く。
「特に鉄砲がダメなところは、普通の人間にだけ有効なところだ。あんなもんは人と人の争いの役にしかたたねぇ」
「確かに、魔獣相手には効果は薄いか。あとは冒険者相手もだな」
「そうなの?」
グレンの呟きにアリスは首を傾げる。
アリスの知る銃の威力とは、マカナウィトルの幼体に重傷を負わせる様なものだ。
そんなアリスの質問の理由を察したグレンはマカナウィトルの一件を店主に隠しながらアリスに説明をする。
「本来の鉄砲は小石くらいのサイズの鉄の球を火薬の力で飛ばす武器だからな。体が大きかったり、強靭な生物には大したダメージを与えられない。魔力による強化ができる冒険者達も同様だな」
「それに、小形動物の狩にも使えねぇ。精度も低いし、次の攻撃までに時間がかかるって話だ。鉄砲は野蛮なだけじゃなくて、売り物にもならねぇんだよ」
現状、鉄砲は民間人などの魔力で強化していない状態の人間にしか効果がないということになる。
「そのお話だといい使い道は見つからなさそうですね」
「そういうこった。ところで、嬢ちゃんたちはなんでそんなもん聞いて回ってるんだ」
「知人が鉄砲に打たれて怪我しまして、その出所と犯人を探っていたのです」
予め決めておいた言葉をアリスは返す。
「なるほどな。それに関しちゃ、さっきも言った通り、俺の周りに鉄砲を作ってるやつも扱っているやつもいねぇから力になれないな」
「いえ、こちらこそ変なことを聞いてしまってすみません」
申し訳なさそうにそういう店主にアリスは首を振る。
今回も収穫はなしだったが、質のいい装備のいくつかが手に入っただけ儲けものだ。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「そうですね」
そう言って二人が振り返ったところで店主から声がかかる。
「ちょっとまってくれ。一つだけ心当たりがある。この街の端に『発明者』とか名乗っている変人がいる。気が向いたらそこを当たってみるといい」
その言葉にアリスとグレンは顔を見合わせた。
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