鋼鉄の防人

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鋼鉄の防人

 深夜の研究室は蛍光灯の白い光で満たされ、静かな雰囲気が広がっていた。

 長机には乱雑に散らばった資料やツールが置かれ、大型のモニターには複雑なプログラムのコードが走り、その青い光が一人の男性の表情を深い影で包んでいた。

 中年に差し掛かった頃の男性で、小柄で精悍な顔立ちをしていた。

 頬には深いしわが刻まれ、雑に剃られた顎にはヒゲが伸びかかっている。

 実用性を重視したチタンの黒縁の眼鏡を掛け、白髪交じりの髪をオールバックにし、着込んだ白衣には汚れが点々と付着している。

 ネクタイなど飾りだと言わんばかりに緩め、白いワイシャツは第三ボタンまで外していた。

 上品さの欠片も無い姿だが、逆にそれが印象的だった。

 名前を、橘千里と言った。

 千里は、モニターに向かって深いため息をつく。

 空調の効いた室内には微かな電子機器の音が鳴り響き、時折外の通路を歩く足音や、遠くのオフィスビルから漏れる街の喧噪が聞こえてくる。

 研究室のドアは半開きで、外の廊下の明かりが静かに差し込んでいる。それでも千里は、ただただモニターとにらめっこしながら、独り言のように言葉を繰り返す。

「もっと安定感を……。動歩行の原理を理解しているはずなのに、何がいけないんだ」

 窓の外には夜空が広がり、月明かりが静かな輝きを投げかけている。

 部屋の片隅には、プロトタイプのロボットが立っている。

 それは金属製の骨組みに、赤外線で点滅するセンサーや測定値を表示する液晶が埋め込まれたもので、千里の期待と挫折を見守るように佇んでいた。


【動歩行】

 重心を滑らかに移動するやり方で、前に斜めになり倒れ掛かりながら進んで行くように見える歩き方。

 人間は普段歩くときに、重心の移動や関節への力のかかり具合などを意識し、いちいち考えるようなことをしない。

 ところが、ロボットを二足歩行させるためには、それらを一つずつ分析する必要がある。人間型の二足で歩くロボットは、重心の位置が極めて不安定になりがちで、少し力を加えるだけで簡単に転んでしまう。同じ二足歩行の人間が転ばないのは、無意識のうちに重心位置を常に感知し、関節を動かしてバランスをとっているからだ。

 二足歩行ロボットを転ばないよう歩かせるためには、重心を次のように移動させることが必要となる。

 片足を上げて動かすときには、もう一方の足にしっかりと重心を乗せ、両足が地面に着いた時点で重心を体の真ん中に持ってくる。この動作を足を替えて交互に繰り返す。これができないと、人間が歩くときのようなスムーズな動きとはかけ離れたぎこちない動きになってしまうのだ。


 千里は深呼吸を繰り返し、再びモニターに向かって手を動かし始める。彼の手先はキーボードやマウスを自在に操り、プログラムのコードを修正し続けている。

 時計の針が進む中、千里は一切の外部刺激を忘れ、ただただロボットの動歩行の課題に向き合い続ける。彼の額には一筋の汗が浮かび、その眼下に広がるモニターの前には未知の課題が広がっていた。


 ◆


 千里の研究開発は行き詰まっていた。

 度重なる実験の失敗は研究費と時間だけを浪費し、千里は焦燥感に心を焼かれていた。

 学生時代からその才能を発揮し、ロボットコンテストで常に優勝を納めてきた経歴が彼にはあった。

 しかし、その栄冠も彼の心から焦りを拭うことは出来ず、それどころか歳を重ねるごとに強くなる一方で、それを意識するたびに彼は自身の無力感に苛まれた。

 成果を出せない研究など無駄でしかなく、研究予算を浪費するだけの寄生虫でしかない。

 それが千里が自らに課した命題だった。

 心療内科の医師からは、精神的な治療の必要性を指摘されたこともあった。

 しかし、その助言は千里の心には届かなかった。

 千里はひたすら研究に没頭した。ただロボットのために……。ただ目の前の課題を打ち破るためだけに……。

 それしか彼の心は救えなかった。

 そんな彼に転機が訪れることになったのは、屋台のおでん屋で飲んだくれていた時であった。

 暖簾を潜って、一人の男性が店に入ってきた。

 黒いスーツ姿で、端正な顔立ちをした若い男性だった。

 こんな夜遅くに若い男性が一人で屋台のおでん屋にいるなど珍しく、どことなく寂しげな印象さえ抱かせるほどだった。

「ロボット工学博士の橘千里さんですね」

 男性は、千里に一枚の名刺を差し出す。

 名刺には、東雲産業のロゴマークと、副社長・東雲高裕たかひろの文字があった。

 名刺と一緒に千里が見た男性は、意外にも柔らかい微笑みを浮かべていた。

 東雲産業は工業ロボット業界では大手企業で、最先端の技術を持っていることでも知られていた。海外にも支社を持ち、ここ数年は立て続けに大きな成果を上げている企業だ。

 その副社長ともなれば、ロボット分野でも相当な権威であると言えた。

「何の、用だい?」

 千里はアルコールで朦朧とした意識の中、かろうじて言葉を返す。

 すると高裕は、一つの奇妙な物体を取り出した。

 それは皮と陶器のような素材でできた物で、中は空洞になっていた。底部は平らだが樹木が枝を広げるように溝が掘られ、その形はまるで人間の肋骨のようにも見えた。

 上部の表面には精緻な紋様パターンが刻まれ、それは美しい芸術品のようであった。形状は靴に近いが、一見すると人間の知識とは無縁のようなデザインである。

「何だと思います?」

 高裕の問いに千里は、それを手にして思ったままを口にする。

「……靴」

 その答えに、高裕は静かに吹き出すように笑う。

「これは、東雲家の土地にあった縄文遺跡から出土された物です。鑑定の結果、ざっと3000年前の遺物であると分かりました」

 高裕は、その奇妙な《靴》を見つめる。

「そんな時代に《靴》なんてものがあったと思いますか?」

 その言葉に千里は、せせら笑う。

「俺は考古学者じゃねえ。酒が不味くなる話は止めろよ」

 すると高裕は、鋭い視線を千里に向けた。その瞳には、強い意志が宿っていた。

 彼は千里の目の前に《靴》を置くと、さらに話を続ける。

「遮光器土偶を知っていますか?」

 と訊いた。


【遮光器土偶】

 土偶とは縄文時代(前14000年頃 – 前3-5世紀)を代表する祈りの道具。

 粘土で作られた人形ひとがたで、多様で精緻なつくりをしており、先史工芸の到達点と称され縄文時代を代表する造形物。

 眼鏡をかけているように大きく表現された目に特徴がある。

 北方民族のイヌイットが雪中の光除けに着用した「遮光器(スノーゴーグル)」に似ていることから「遮光器土偶」と呼ばれ、東北地方の晩期土偶の特色となっている。

 土偶は精霊を象ったものとも解されているが、当時のファッションが表われているとも考えられ、頭頂部にみられる多様な装飾は当時の髪型、耳朶じだの穴から耳飾りの装着など、当時の習俗を考える上でも重要となっている。


「知ってるよ。それがどうしたんだ?」

 千里が言うと、高裕は《靴》じっと眺めて言った。

「掘り出されたときは、とっつきにくく理解しがたい不格好な粘土細工に過ぎませんでしたが、一部のSF作家や古代研究科が面白いことを言い出したんです。

 それは「遮光器土偶が宇宙人を模したもの」という説で、スイスの宇宙考古学者エーリッヒ・フォン・デニケンは、遮光器土偶が宇宙人の姿だと主張した。

 大きすぎる二重の縁に囲まれた目と細いライン、小さすぎる口は人間離れしている。まるで宇宙空間での強い紫外線や熱線を遮るサングラスをかけているかのようだと。

 実際にNASAがその説をもとに、遮光器土偶を分析した結果、頭はヘルメット、肩と腰は耐圧構造という具合に土偶の形状が宇宙服として合理的なものであるとした。

 つまり、遮光器土偶のような姿の生物が宇宙船から降りてきても不自然ではないということですよ」

 高裕の語るトンデモ仮説は、千里にとってどこか滑稽に思えた。

「だから、この《靴》もそうは思えませんか? 宇宙人が落として行った靴だと……」

 高裕は、じっと《靴》を見つめる。その視線には研究者の情熱が込められていた。

 その表情からは冗談を言っているようにも見えず、千里はため息をついた。

「だったら、どうしたって言うんだ。俺には関係ない」

 千里は銚子のまま酒を飲み干し勘定を済ませようとすると、高裕は続ける。

「これは不思議な遺物でしてね。絶妙な姿勢を保とうとするんです」

 高裕はそう言って、《靴》のつま先にあたる箇所をカウンターの先に当てて踵にあたる箇所を浮かせて、ゆっくりと手を離した。

 すると、《靴》は糸で吊られたかのように、手を離した状態で静止する。

 まるでヤジロベエのように、ぴったりと静止したのだ。

 千里は、その奇妙な光景に目を見張る。

「これは……。手品なのか?」

 高裕は首を横に振る。

 そして、さらに《靴》の縁にあたる箇所をカウンターにつけ、不自然な状態にして手を離すと《靴》は、またもフワフワと揺れながら絶妙なバランスを保つ。

「いかかがですか。この遺物の構造を解析すれば、橘さんが取り組んでいる研究に役立つはずですよ」

 高裕の言葉に千里は興味を引かれていた。彼が持つ《靴》は、明らかに人間の知識では作り出せないものだったからだ。

 この技術を解析すれば人間と変わらぬだけでなく、人間以上に安定したバランス能力を持ったロボットを造ることが出来るかも知れない。

 そうすれば、千里の研究もさらなる進展を見せるだろう。

 ロボット工学に携わっている人間なら、こんな眉唾物の与太話を一笑に付して当然だった。

 しかし、彼は全く逆の反応を示していた。


 ◆


 千里は歳を重ね、白髪が頭を覆い、顔には深い皺が刻まれていた。

 その目には若かりし頃と同じ。

 いや、それとは変わらぬ情熱と好奇心が輝いていた。

 彼の目の前には、全高4mに及ぶ、鋼鉄の巨人が立ち並んでいた。

 戦車が人型になったかのような存在は、無骨で頑丈さを感じさせるものだった。鋼鉄の外装は、最新式の複合装甲に避弾経始ひだんけいしの原理を取り入れた傾斜装甲を取り入れているが、機動力と運動性を重視しているだけに防御力は最低限となっている。

 その無骨な外観は、戦場での過酷な状況に耐えるために計算された無駄なく機能的なデザインが特徴だ。

 頭部には先進的なセンサーシステムが取り付けられ、パイロットにはモニターではなく網膜に直接映像が投影される。

 動力は次世代全固体電池と水素エンジンを搭載し、高出力で安定的なエネルギーを生み出すだけでなく、排出する水を回収し電気分解することで水素を作り出し、半循環型のエネルギー利用で、長時間・無補給の単独行動が可能。

 何より特筆すべきは、《靴》を解析することで得られた二足歩行のデータがこの機体にフィードバックされていることだ。

 全身の関節には、姿勢制御用のジャイロやサスペンションが組み込まれており、動作は人体の柔軟性と運動性を遜色ないところまで再現されていた。

 駆動系には電子モーターとケミカル反応を用いた人工筋肉を用いており、パワーと素早さを併せ持つ。機敏で複雑な動作を実現するためには、高性能な電子回路を搭載して常にモニタリングし続けなければならない。それがなければ二足歩行ロボットは文字通りの鉄塊になってしまうからだ。

 この機体は関節部分にスリムなフレームを採用しており、人体の動きを寸分違わずにトレースするばかりか、骨格に機械的なアシストを加えることで動作の円滑化を図っている。

 その上でフレーム強度は人体のそれを上回るため、着地時などの負荷にも強い。

 通常歩行に加え、足裏のグライディングホイールにより接地圧をコントロールすることで、滑るような高速移動や急な方向転換が可能。

 この二足歩行による人型兵器の開発は、SF映画やロボットアニメだと千里を揶揄し嘲笑する者もいた。

 だが、その実現がもたらしたものは驚くべきものだった。

 戦車による無限軌道の、優れた悪路走破性は知られることだが、橋の無い川を渡る、狭い場所を走行することはできない。

 対して二足歩行は、高度な機動性を提供した。様々な地形に対して柔軟に適応できるため、複雑な建造物が密集する都市部や山岳地帯、密林など、場所を選ばず三次元的な行動も可能となり、地形による制約を受けずに作戦行動が可能となった。

 また人型であることにより、人と同じ汎用型マニピュレーターは、状況に応じた複雑な武装を搭載可能となった。通常射撃に加え、白兵戦武器による近接戦闘用としても使用でき、その高い汎用性は戦闘だけでなく一般作業や重機工事、救助活動にも大いに役立った。

 主力戦車の120mm砲となると、衝撃を広い面で吸収する無限軌道でなければ射つことができないため、完全に戦車の地位を奪うことはできないでいるが、その点を含めても二足歩行型兵器の有利性は明らかであった。

 千里の横に、東雲産業社長となった高裕が立つ。

「いい眺めですね」

 高裕が、千里に語りかける。

 すると千里は喉を震わせて笑った。

「まさか。儂の二足歩行ロボットの研究が、ここまで来るとは思わなかったよ。自衛隊の武器を製造しているのは、三菱重工業、三菱電機、川崎重工業、NEC、IHI、富士通、日本製鋼所の7社だけじゃったが、の存在によって、東雲産業も日本の防衛産業に食い込むことが出来たという訳じゃな」

 千里の口調には、どこか自嘲めいたものが感じられる。

「ご自身の研究が兵器製造に転用されたことが、悔しいですか?」

 高裕はそう訊ねるが、千里は首を横に振った。

「2022年にロシアによるウクライナ侵攻があった。これに対しアメリカやヨーロッパ各国はウクライナに武器を供与し、戦争は長期化した。戦争を悪いことと平和教育を受けた、日本の女学生は言った《武器供与やめれば戦争終わるのでは?》と。

 確かに戦争は終わるな。だが、その後に待っているのは国家の滅亡だ。ロシア軍はウクライナの武器を持たない市民が自宅や路上で、目を覆いたくなるおぞましい手段で殺し、女性を強姦。支配地域ではウクライナ市民をロシアに強制移送をし、明らかな戦争犯罪を犯している。

 勝てば官軍負ければ賊軍。歴史は勝者によって作られる。

 あれを見れば明らかじゃ。日本が侵略を受けた場合、誰かが助けてくれるなどと甘い考えでは、我が国は滅亡の危機に瀕する。

 もし日本が侵略を受けたなら、話し合いで事が済むことはない。故に、我が国が生き残るためには自衛できるだけの手段が必要だ」

 千里の語る言葉には重みがあり、高裕は静かに耳を傾けていた。

「私も武器商人で儲けようとは思っていません。は、東雲産業の一部門に過ぎません。ただ、防衛産業に食い込むことで安定的な資金供給を実現できる。会社の安定は、そこで働く社員の生活を守ることに繋がる。それが私の理想ですから」

 高裕が言うと、千里は意地悪く笑った。

「ならば活躍をして貰わければな。《防人さきもり》に」

 千里は、人型兵器を《防人》と表現した。

 その言葉が意味するものを、高裕は知っている。


防人さきもり

 日本の古代に、筑紫ちくし壱岐いき対馬つしまなどの警備のため、主に東国、つまり現在の関東地方から徴兵された者をいう。

 天智二年(663年)。

 朝鮮半島情勢が混乱する中、倭(日本)は百済から救援の要請を受けて出兵したもの、白村江の戦いにて唐・新羅の連合軍に大敗したことを契機に、唐が攻めてくるのではないかとの憂慮から九州沿岸の防衛のため設置した。

 「さきもり」の読みは、古来に岬や島などを守備した「岬守」や「島守」の存在があり、これに唐の制度であった「防人」の漢字をあてたのではないかとされている。

 平安時代に入ってまもない延暦十四年(795年)に廃止された。

 天長三年(826年)には大宰府管内の兵士を廃し、選士・衛卒制に移行したため、律令制の防人制度は崩壊する。

 すると、対馬、壱岐、九州各地の沿岸に新羅や高麗などの外国の海賊がたびたび出没し、襲撃や略奪を繰り返すようになった。

 歴史の表舞台にはあまり登場しないが、記録に残るだけでも数十回にのぼる。

 防人制度が崩壊したことによって「力の空白」が生まれ、外国の海賊の跋扈ばっこを許す結果となった日本は、平安時代最大の対外的危機に直面することになる。

 寛仁三年(1019年)年3月27日、正体不明の海賊船約50隻(3千人)が突如、対馬を襲撃した。海賊は上陸すると、島民36人を殺害し、346人を連れ去った。壱岐島では島民365人が殺害され、1289人が拉致される。

 その後も筑前国怡土いと郡、志麻郡、早良さわら郡、那珂郡に上陸すると、4月7日、博多湾付近で大宰府長官(大宰権帥)・藤原隆家が率いる九州武士団と激突。一進一退の攻防の末、4月12日、隆家軍は辛うじて勝利した。

 博多への上陸に失敗した海賊は、4月13日に肥前国松浦郡に上陸するも、後に水軍として有名になる松浦党の祖の源知みなもとのさとすに撃退されると、九州北部への侵攻をあきらめ、対馬を再襲撃した後に朝鮮半島へ撤退する。

 これら一連の海賊による対馬、壱岐、九州北部への襲撃を「刀伊の入寇」という。

 この時の海賊は、当初は高麗の海賊と思われていた。

 だが、その後の調査で、中国東北部(沿海州地方)に住んでいたツングース系の女真族であることが判明する。

 隆家らが海賊を撃退し、事態が落着した4月17日であった。

 朝廷内では、隆家をはじめとする九州武士団へ恩賞を与えることに消極的な態度を取る貴族が多数を占めていた。

 貴族たちにとって「刀伊の入寇」は、京の都から遠く離れた九州の地での出来事であり、危機の切迫感がなかった。そのため、朝廷は新たな脅威に対する国土防衛の態勢を整備しようとはしなかった。この頃の朝廷は、一種の「平和ボケ」状態だった。

 この恩賞をめぐる朝廷内での貴族同士のやり取りや、国土の防衛に対する態度は、20世紀、21世紀現在の日本の政治の場でも見られる光景だ。

 韓国は、竹島の領有権を固めようと、1947年頃から日本漁船の拿捕をし、『日韓漁業対策運動史』によると、その総数は328隻、抑留船員3929人の日本人を不法に抑留し、そのうち8人を死亡させている。

 平成22年(2010年)9月7日に沖縄・尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件をめぐり、当時の菅直人首相が中国人船長の釈放を強く指示する弱腰外交を行うものの、中国はレアアースの輸出を全面ストップをし産業界に衝撃を与えた。

 北朝鮮は1970年代から1980年代にかけて、北朝鮮の工作員や土台人、よど号グループなどが、国家主権や人権を無視して、数十人から数百人の日本人を日本や欧州から北朝鮮に拉致されているが、金正日総書記が日本人拉致を認める前から、日本政府は事態を把握しながら放置してきた。

 国土を侵略され、国民の生命と財産が奪われるという危機にあっても、その対応などは「刀伊の入寇」に対する朝廷の対応と何ら変わらないものだ。


 その歴史を踏まえると、高裕の目の前の人型兵器はまさに防人と呼べるものだった。

 高裕は黙って頷き、千里の言葉に従うことを決意した。彼のビジョンは、戦争や侵略に対抗し、国家と市民を守るための新たな手段を提供することだった。

 千里は研究が兵器として応用されることに対する複雑な思いもあったが、同時にその技術が日本を守る戦力になることに、彼もまた誇りを感じていた。

 《防人》は、その存在自体が国家安全保障の一翼を担う存在となっていく。

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