OLC短編①
れをん
ブレイクタイム
空中に投影された街の灯りが今夜はぼやけている。雨粒に光が乱反射している。雨にも関わらず通りの往来はひっきりなしに動いている。目当ての店に早足で入っていく者や、傘がぶつかり喧嘩を始める者。大通りの雑踏から少し離れた公園の脇に、休憩と表示された黒塗りのタクシーが一台停まっていた。
「ふーっ」
運転席の男が煙を吐き、デバイスでニュースをチェックしていた。缶コーヒーを無造作に流し込み灰皿代わりにタバコを押し込む。
(ナノドラッグに殺人に怪しい宗教団体のニュースか、相変わらずだな)
ダッシュボードの運転者情報には綿奈部綱吉(わたなべつなよし)という名が書かれていた。顔写真はパーマがかかった右目が隠れるほどの前髪。左側は髪を耳にかけており、派手なピアスが目につく。切れ長の鋭い目は客に威圧感を与えるのではないだろうか? 綱吉はタクシードライバーのはずだが、暗い紫色のつなぎと呼ばれる作業服を着ており、胸元をはだけさせている。この街ではどんな容姿であろうと気に留められない。仕事をこなせさえすれば、対価が支払われる。
「もう一本吸ったら行きますか」
雨の日は稼ぎ時だが、なんとなく気乗りしない俺はオイルライターの蓋を開け、ホイールを回す。甲高い音が響き、発火石から火花が放たれ青から赤い炎に代わり暖かく火が灯る。「ジジッ」とタバコが燃え、火が落ち着くと、オイルライターの蓋を閉める。一連の動作に無駄がない。車内に再び煙が充満する。
「――てよ!」
外から女の声がした。
「――だろうが!」
次は男の声だ。この辺りじゃ喧嘩は日常茶飯事だ。厄介事は放っておくに限る。つけたばかりのタバコの長さはもう半分になっていた。灰を空き缶に落とし再び煙を吸う。
『ガンッ』と衝突音が聞こえる。
「おいおい、傷ついたんじゃねえだろうな?」
左後ろのドアから衝突音が聞こえたためサイドミラーで確認する。女と男が口論になっているようだ。
「ちっ」
舌打ちをし、俺は様子を伺っていた。口論が激しくなり、男は懐から何かを取り出した。銀色の反射が見える。
「ナイフ!」
俺は慌てて自動ドアのスイッチを押した。
「乗れ!」
女は男をすり抜けるようにタクシーの後部座席に転がり込んだ。ドアが閉まりきらないうちに車を発進させる。
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