第38話

 そう、俺は完全に油断していた。まさかまた、この展開が訪れるだなんて、露ほども思っていなかった。だが、現実は…いや、現実かどうか分からんが、とにかくままならない。


「あ、こばや…んんん、アウルムさん、遅かったですね。」


 ふと気が付けば、目の前には薄水色の髪の美少年がいる。そして、俺自身も金色の長髪を結い上げフリフリの衣装を身にまとった魔法少年と化していた。


「何てこった!冗談じゃねえぞ!」

「うん、冗談なんかじゃないよ。ボクもいるし。」


当然のような顔をして、薄桃色のふわ毛のショコラが浮いている。


「あー、と。ケレのやつはいねえんだろ?」

「うん。今日は、二人だけだよ。」

「そっか。」


 俺はぼりぼりと頭を掻いた。髪の毛が邪魔だ。


「つまり、お前さんが原因ってことだな。」


俺はプラをねめつけた。


「えっ、何ですか、唐突に。」

「このケッタイな格好にさせられるときは、決まってお前さんが俺の近くにいるじゃねえか。」

「濡れ衣ですよ。それを言うなら、私の方も、アウルムさんのせいでここに連れてこられてるんです。何とかしてくださいよ。」


 何とかできるなら、とっくに何とかしている。それは、プラも同じだろう。プラと俺のどちらか一方が、あるいは2人揃うことが事の原因なのだとしても、それは意図的なものではないということだ。こんなことを推測したところで、何の解決にもならない。


 俺はため息をついて、ごろりと寝そべった。やる気が起きない。こんなだらしない魔法少年は頂けないだろうが、もういい加減許してやってほしい。俺も疲れたよ。


「何してるんですか。早く脱出しましょうよ。」

「んなこと言ってもよ、何もいないじゃねえか。」


 絵具を塗りたくったような青空。真っ白い雲。芝とも何ともつかない草に覆われた地面。安っぽい大道具のような家々。舞台装置はいつもどおりだが、敵役の気配が全くない。こうして寝ころんで地面に耳を付けても、何の音も聞こえてこない。巨大生物が遊んでいれば地響きくらい聞こえそうなもんだし、前回の虫みたいなこまいのが涌いていれば、ブンブン唸っているはずだ。


 とうとう俺たちは、この世界に塗りこめられてしまったのかもしれない。敵がいないなら、どうやったら卒業できるのだろうか。俺たちのどちらかが敵になって、殺し合いをしなきゃならんのか。そうなったら、どうせ老い先短いのだから、俺がやられるしかないだろうな。どうやれば悪役になれるのかは、まだ分からないが。

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