第28話

 あいつも魔法少年なら、助けを待つばかりじゃなくて、ちったぁ骨のある所を見せてくれんものか。これでは寝物語のお姫様じゃないか。無策で無抵抗に攫われて、英雄が助けに来てくれるのを待つだけの、ストーリー上都合のいいお人形ちゃん。魔法少年は、そういうもんじゃないはずだ。俺がそう思った瞬間、プラの気合のこもった声が響いた。


「気円斬!」


 プラが輝く円盤のような物をビュンビュン飛ばして攻撃し始めている。新しい技を閃いたらしい。やるじゃねえか。見直したぞ。が、どうやら切断力重視の攻撃らしく、俺の打撃と同じで、ごく一部の虫を消す効果しかない。


「どうしてクリリン技なんですか。もっと強い技にしてくださいよ。フリーザ様の、星一個消す勢いのやつ。」

「私はクリリンが好きなんですよ。それも、先輩風吹かせて悟空と修行していた初期の彼が、一番好きです。」

「それ、一番弱いやつじゃないっすか。でも、推しではしょうがないですね。」


逃げるのをやめ、地に足を着けたプラとケレは、せっせと巨大蟲に攻撃技を放っている。少しずつは削れているので、いつかはこちらが勝つかもしれない。ただし、それは、新手の虫が補充されなければの話だ。俺たちの努力で着実に虫は減っているはずなのに、巨大蟲のサイズは全く変わらない。新技で一発撃沈しない限り、いくらでも涌いて出てくるって話なんだろう。


 俺は虫を消しながら、二人の横に着地した。


「らちが明かねえな。プラ、何か思いついた策はあるか?」

「あの、確証はないんですが、こういう時はやっぱり、力を合わせるものですよね。で、我々には、魔法の杖は一本しかない。あ、私のは、やっぱり取れませんでしたから。」


 何が取れなかったのかは訊かないでおこう。こいつ、天然で下ネタばかり飛ばしやがるな。現実社会でまともにやっていけてるんだろうか。


「それで?」

「はい、ですから、その一本にみんなで力を籠めたら、合体技になるんじゃないでしょうか。」


 なるほど。確かに、プリ方式でも、1個のアイテムを複数人のプリキュアが取り囲んで、必殺の一撃を放つことがある。ここが基本的にはプリ方式で進める世界観なら、その手も有りだろう。


 ところが、よしそれだと思った直後、プラとケレの悲鳴が上がった。死角から飛んできた虫の塊が、二人をなぎ倒したのだ。


「おい、大丈夫か?」


塊をぶん殴って消し潰しながら俺は急いで駆け寄った。さすがプリ方式、派手に吹っ飛んだものの、二人の本体は無事そうだ。痛む部位をさすりながら、体を起こしている。


「ひゃっ、ステッキが無い!」


 空になった両手に気付き、ケレが色を失ってそこいらを見渡した。今の攻撃で、どこかに飛んでいったのだろう。俺もプラも慌ててステッキを探す。


「あ、こっちにあります。取ってきます!」


プラが発見したらしい。素早く身を翻して、駆け出した。


 だが、プラを見送る俺の視界に、巨大蟲が割り込んだ。無防備に背中を向けたプラを確実に狙っている。ぶっとい注射針のような口吻が、プラに向かっていく。


「あぶねえ!」


俺は無我夢中で巨大蟲に蹴りを放った。表面の虫コロは消えるが、本体には全然効かない。くそ、これじゃ、プラが串刺しだ。プラを拾って逃げねえと。だが、間に合うか。


 俺は猛然とダッシュした。こっちに飛んでくる虫が顔にも体にも当たるが、構ってられるか。頼む、間に合ってくれ。現実じゃとんと間に合わねえ俺なんだ。今くらい、夢の中でくらい、間に合ってくれ。

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